
モルタル仕上げで際立つ造形の美しさ。
まるで美術館のような木造住宅
「RC造の美術館のような雰囲気」を叶えた
こだわりの形とモルタル仕上げ
Kさま夫妻が望んでいたのは、「美術館のような佇まいの、住宅らしさがない家」。資料として香山さんに見せた写真もRC造の建物が多かったが、予算の関係もありRC造で家をつくることは難しかった。そこで香山さんが提案したのは構造を木造とし、モルタル仕上げを施すこと。これなら、RC造が持つ壁面の雰囲気を出しながら予算内に収められる。
ヒアリングを通してご夫妻が家のフォルムにもはっきりとしたイメージをお持ちだと理解できたことから、造形美にもこだわったという。ファサードは右から壁面が覆いかぶさるように張り出したデザインで、エッジの効いた姿をしている。2階はすっぽり壁に覆われているが、張り出した部分の裏には、実はベランダがある。張り出した壁面による三角形のスペースに長方形のベランダを配置して壁面との間に隙間をつくり、光を下に落とした。壁面が平面ではないからこそ、ベランダを抜けた光や正面からの光から生まれた影にもキレがある。
家の東の隣地は駐車場で、建物がない。南向きのファサードだけでなく東面も表情がよく見えることから「もうひとつの家の顔にしたいと考えました」と香山さん。フラットな壁面に大きさや形の違う窓をランダムに配置。サッシはモルタルに合わせて黒を選択した。シンプルで洗練されたデザインは、遠くからでも目を引く。
夜になるとスポットライトが壁に当たり、モルタルの表情をよりはっきりと感じることができるのだという。こだわりを持って建てられた小さな美術館のような家は、こうしてできた。
シックなギャラリーのような内装。
シンプルなのに無機質ではない空間の秘密
室内の間仕切りの建具も、要望に応じて玄関に配置した黒ぶちのガラス扉とテイストを合わせている。しかし色味は黒ではなく、藍色を選択。シシューズクロークへの扉や、玄関とLDKをつなぐガラス扉などがそうだ。香山さん曰く「グレーを基調とした室内で建具に黒を用いてしまうと、少し印象が重くなりすぎてしまうので藍色にしました」とのこと。
美術館のような雰囲気は、室内空間にも取り入れた。特筆すべきは家の中心を貫く壁面だ。K邸は建物正面から見て右側にLDK、左側に玄関、収納、水回りなどがある。家の奥、中心よりも少し右にずれた位置から斜めに壁は設けられ、先端は外観の覆いかぶさった三角形の部分にぶつかる。
斜めの壁によってLDKが台形のような形となり、空間自体に一般的な住宅ではなかなか得られない面白さが生まれた。しかし、整形としなかったのには、単に面白さというだけではない理由があるという。吹き抜けに向かって広がる台形にすることで、吹き抜けを囲む壁面を大きくしたのだ。
ゆとりある壁面は、絵画やオブジェを飾るなどギャラリーのような一角として空間を引き立てるのに役立っている。外観でも際立っていた東面の窓が、室内にもいいアクセントを与えており、LDKはすっきりとしていながらリズムがある空間となった。モルタル仕上げを施しているのに、無機質に感じられない空間の秘密はここにある。
装飾を省き、シンプルな設えにした理由を「奥さまはご自分でインテリアやディスプレーを整えたいとご希望でした。ですから、なるべくそれらの邪魔をしないようにと考えました」と香山さんは語る。出来上がった空間では邪魔しないどころか、さらに魅力的に見せることができそうだ。これから何をどこに飾ろうか、どのように家を整えようかと楽しみになるだろう。
暮らしやすさに必要な「空間の軽さ」は
素材の使い分けによって実現
まず、室内は一口に「モルタル仕上げ」といっても、実は原料の違うモルタル系のセメントの材料を使い分けている。例えば床はプラスターボードという大きな商業施設で耐火用の下地としてよく使用されるものを取り入れ、壁には一般的に外壁の下地材に使われるような、薄塗りかつ強度のあるモルタルを採用した。もちろん、セメントと砂を混ぜたいわゆるモルタルを使用している箇所もある。
原料が違うものを組み合わせることで、室内にグラデーションができ「暮らし」にふさわしい軽さが生まれるのだという。光の反射の仕方も変化し、明るいところがより明るく感じられるようにもなった。
台形の細い部分からキッチン、ダイニング、リビングと並ぶLDKは、キッチンからリビングに向けて空間の広がりと奥行きが感じられるようになった。庭に面した大きな掃き出し窓の上にはベランダに面した高窓もあり、空へと視線が抜けるので開放感も得られる。
ベランダに面した高窓から入る光が家の奥まで届くのにプラスして、東面の大きな2つの窓からも豊かに光が入ってくる。東面の窓は違う高さに配置されているため、光が届く距離や角度がそれぞれ異なり、LDK全体の明るさが確保できた。
家族が集う場所であるLDK。ひとつの空間の中でいろいろなことができるように、さまざまな居心地で過ごせるように工夫したという。天井が低く落ち着いた雰囲気のダイニングからリビングに進むと、一気に吹き抜けで天井が高くなり、イメージは軽やかに変化する。しかし、庭と繋がる掃き出し窓のほうへ進むとまた天井が低くなるのだ。窓の近くは縁側にいるような、室内ではあるけれども外が感じられるような場所にしたかったからだという。
快適さにも手を抜かなかった。室内にはガス給湯器で沸かした温水を使用する暖房装置「ファンコンベクタ―」を設置。床暖房のような役割を果たし、冬場は室内全体を暖めている。モルタルの床というと冷たいイメージもあるが、足の冷えなどは感じられにくいという。
「家は、料理で例えるならお皿のようなイメージなんです。お施主さまが、そこにいろいろ盛り付けていくような感じですね」と香山さんは語る。そのためにも、要望は全て叶えたいと心がけているのだそうだ。K邸を見ていると、香山さんの家づくりの姿勢がよくわかる。お施主さまのイメージ通りの家であることはもちろん、これからの暮らしを、この家でやりたいことを強力にバックアップしているように感じられるからだ。
基本データ
| 作品名 | GRIS-栄町の家 |
|---|---|
| 所在地 | 岡山県備前市 |
| 敷地面積 | 175.85㎡㎡ |
| 延床面積 | 108.81㎡㎡ |
| 家族構成 | 夫婦+子ども2人 |
| 予算 | 3000万円台 |
| 施主 | K邸 |
撮影:しんめんもく 後藤健治
設計者情報
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