
子世帯は高原的な家、親世帯は木の家を希望
異なる個性と要望を反映した2世帯住宅
個性も要望も異なる子世帯と親世帯
すべてを同時に実現するプラン作り
両世帯の主な要望や趣味・ライフスタイルは以下の通りだ。
■子世帯
<要望>
・緑を楽しめる高原的な家
・効率的で美しい家事・洗濯動線
<趣味・ライフスタイル>
・絵を描くこと(夫)
・アート作品に触れる生活
・西洋的な暮らし
■親世帯
<要望>
・木を感じられる家
<趣味・ライフスタイル>
・会社勤めを終え、新たな時間の使い方を楽しみたい(夫)
・新しいライフスタイルの実現(妻)
両世帯のいずれも単独では極端な要望でない。しかし、それらに大きな隔たりがあるのは事実だ。
当然だろう。どちらも年齢が違い、生活する上での優先順位も異なる。もちろん趣味や時間の過ごし方は様々だ。
一般的な2世帯住宅は敷地や床面積の制約もあり、こうした違いの中から妥協できる点を探したり共通点を見いだしたりするケースが多い。
しかしこの作品は敷地に余裕があった。建設予定地は以前、3棟の親族の家が建っていた広大な敷地で900㎡を超える。
そのため、妥協や調整をする必要が少なくなる。そこで、できる限り両世帯の要望やライフスタイルを実現し、個性を活かすことができるプランを追求することとした。
この作品を手がけたのは高杉アトリエ一級建築事務所の髙杉大介さん。三重県を中心に近隣の地域で活動している。
高杉さんはまず、両世帯の家に対する要望や実現したいライフスタイル、趣味などをヒアリングした。その中でわかってきたのが先述した要望などで、当然ながら両世帯には違いがある。
高杉さんは次に、コンセプトを明確にした。
子世帯の趣味を活かすことと、仕事を引退した親世帯の新しい時間の使い方をテーマとしたのだ。そのうえで、親子の交流を実現しながら、両世帯の異なる最適プランを考えた。
次章で、その詳細をご紹介しよう。
子世帯は高原的で西洋風、親世帯は
木の温もりを感じる東洋風を希望
先述の通り敷地は広く、場所によって異なる特徴があった。南側には竹林や緑あふれる樹木が茂り、敷地内に高低差がある。西側は車通りが多い幹線道路に接していて、騒音・振動対策も必要となる。
一見すると贅沢な敷地条件だが、自由度が高くなる分、選択の幅も広くなるという難しさもあったのだ。
その中で活きたのが、先述したテーマだ。子世帯の趣味を活かすことと、仕事を引退した親世帯の新しい時間の使い方を重視すると、最適な位置を求めることが出来た。
親世帯は毎日の生活で緑を楽しむことができるよう、南側の竹林正面に。日当たりを考慮し、土地が高くなっている北側に寄せることとした。子世帯は出入りがしやすい道路側の高い場所としたが、騒音・振動対策で道路から距離がとれる場所に決定した。
家の向きにもこだわった。
親世帯は緑をできる限り家のどこからでも楽しめるよう、緑と並行する横に長いものとした。子世帯は道路に並行し、縦に長いものとした。上空から見るとTの字のような配置だ。
この配置により、親世帯は敷地奥の落ち着いた場所で緑を楽しむことができ、子世帯も緑を楽しみながら活発な生活を送ることができる。敷地の高低差も考慮しているので、道路や周囲からの視線を気にする必要もない。
両世帯の接続は、お互いの勝手口でつながるものとした。敷地に余裕があることを活かし、気軽に行き来ができ、なおかつお互いに気兼ねなく生活できることを狙った考えだ。勝手口で繋がるスペースはある程度広さを確保し、親世帯の屋根が延長してかけられている。ここはアウトドアリビングとしても機能し、たとえばBBQなどもできる空間となっている。
各世帯の室内プランをご紹介しよう。
子世帯は洋風の高原的なもので、趣味の絵を描くことだけでなく、絵を飾る壁やその他のアート作品を飾る棚などが随所に設けられている。片流れの高い天井で空間の広さを感じられ、緑が見える窓は2段の大きなものが配された。
親世帯は木の温もりを感じられるものとなっている。当初は天井などにも木を多用する計画だったが、予算との兼ね合いで効果的に木を感じられる場所に絞った。梁などの構造材や和室周辺に使われている木材は、部分的な使用によりその存在感をかえって強く感じさせる。庭に面する大きな窓やピクチャーウインドウも、緑を楽しむうえで想定以上の効果を発揮することとなった。
このほかにも、各世帯の工夫は随所に散りばめられている。詳細はぜひ写真の説明文をご参照いただきたい。
外観で大切なのは、個性ではなく調和
地方で長く住むために必要な配慮とは
高杉さんによると、外観についてはかなり気を遣ったそうだ。
「地方ではよくあることですが、周辺地域との調和はとても大切です。外観に強い特徴を持つ作品だと、周辺地域となじまなくなるケースも発生します」。
「せっかく考えに考えた作品が、外観の違和感で周辺地域となじまず、長く住むことが難しくなることは避ける必要があります。ですから地方の場合、私の個性を主張するのではなく、周辺地域の調査や調和を最優先に考えています」。
今回の作品でも、こうした配慮は十分になされている。
外観のデザインは。できるだけ凹凸を少なくし、シンプルなものとした。子世帯は片流れの屋根、親世帯には瓦を採用。どちらも一見してわかるような奇抜なものではない。
外壁の色にも、配慮を重ねた。道路からは森の中に入っていくような位置関係なので、道路側の子世帯にはグリーンとブラックで緑や竹林と調和する色を採用した。親世帯はその奥に畑や建物があるため、それらの色と調和するブラウンとホワイトを採用した。外壁も調和を考え、サイディングではなくガルバリウム鋼板を使用。屋根瓦を採用したのも、周辺地域との調和を狙ったからだ。
当然ながら、お施主様は両世帯ともに大満足だという。
高評価を受ける背景の一つとして、細かなヒアリングが功を奏しているのではないだろうか。高杉さんは常に、お施主様に趣味嗜好と好き嫌いを細かくヒアリングしているという。
ブランドの〇〇は好きだが、△△は嫌い。こうしたヒアリングで嫌いなものが明らかになると、お施主様との共通認識を持つことができるようになるそうだ。間取りなど数値で表すことができるものと違い、感性が必要となるものは難しい。そのギャップを少しでも埋めることが大切だと高杉さんは語ってくれた。
異なる要望を実現してくれる。感性や好みなど、言語化しにくい内容を理解して提案してくれる。周囲と調和するプランを作ってくれる。そのような建築家は、とても頼りになる存在だ。このような建築家をお探しの方は、いちどコンタクトしてみることをお勧めしたい。
基本データ
所在地 三重県四日市市西山町
敷地面積 920.6㎡
延床面積 208.24㎡
家族構成 夫婦+子ども1人+親世帯
設計者情報
この実例を見た人はこちらも読んでいます

森を取り込む! お隣や森の木々へ別荘地ならではの配慮とは?
木々に囲まれ、最高にリフレッシュできる環境ではありながら、お隣がちょっと気になる別荘地。この場所でどう過ごしたら気持ちいいかを突きつめて考えていくと、新しい別荘のかたちが見えてきました。

お気に入りのアンティーク家具ありきで設計。「自然とともに暮らす」平屋
施主が理想の家づくりに抱く夢は大きくて、予算は限られている。これは当たり前のこと。だからこそ、設計士もやりがいを感じるというのが、「トミタ建築設計スタジオ」の富田さんの思い。その中で、「建築には“場所性”がある。どこに建てるか、日本だからこそどう建てるか。これが建築の面白さでもあります」という。Y様邸は、そんな富田さんの仕事ぶりが、とことんまで徹底された実例の一つだ。

富士を望む展望風呂!プライバシーと開放感を併せ持つ二世帯住宅
「富士山が見えるから景観を楽しみたい。そして、四季折々の自然を感じながら暮らしたい」というお施主さんの希望を叶えるため、建築家・植木健一さんが二世帯住宅の新たな可能性に挑戦。随所に工夫を凝らした家は、眺望にこだわり開放感がありつつも、プライバシーをしっかりと確保した素敵な家でした。

エアコンが足もとに? 家族を笑顔にする 高気密・高断熱二世帯住宅
住まいにおける不満で挙げられることの多い「暑い」「寒い」といった冷暖房問題。それをたった1台のエアコンで解決してしまったのは、田口建築設計事務所の田口さん。新築のご自宅に導入した、次世代の空調「階間空調」の秘密に迫ります。

片流れ屋根の下、家族がひとつになりながら プライバシーを保って暮らせる住まい
開放的で、同じ空間に家族皆がいると感じられる家が欲しい。けれど子どもたちのプライバシーは保ちたいと考えられていたお施主さま。購入したのは2方向に見える山の風景が美しい、山裾にある土地だった。建築家の中川さんは、恵まれた環境を生かしつつこれらの希望を全て叶えた家をつくり上げた。

田園風景に突如現れるモダンな平屋は、室内にも新しいLDK提案
自然に恵まれた長野県・松本の地に完成したM邸。「家族の存在を常に近くに感じられる家」というMさんの希望に応えて建築家の藤澤信也さんが提案したのは、家族が集うリビングやダイニングといった空間を「低い収納や段差などで緩く仕切る」というオリジナリティあふれるプランだった。

20を超えるプランで実現した二世帯住宅 青森の寒さも凌ぐ、家族の程よい距離感の家
「こんなプラン、ハウスメーカーからは絶対に出てこない」。施主Tさんをそう言わしめたのは、建築家・木村さんが提示した20を超えるプランだった。手間暇惜しまず、施主に寄り添い、納得するまで可能性を探り続けるのが木村さんの流儀。その結果生まれたT邸は、4台分のガレージと高断熱・蓄熱性能で青森の冬も快適に。親子二世帯が、プライバシーを守りながら絶妙な距離感で暮らす家が生まれた。

多趣味を受けとめるナチュラル空間!安心快適も実現した秘密とは
ビルトインガレージ、緑豊かなウッドテラス、パン台のある広々キッチン……。多趣味なNさん夫妻のために建築家の長谷山泰三さんがつくったのは、無垢材を贅沢に使った明るく心地よい住まい。空間の魅力だけでなく、安心・快適な性能も併せ持つ心強い家だ。

悠々たる美しい佇まい。 ハイエンドな暮らしを彩るモダン邸宅
シンプルながら、上品でモダンな佇まいが印象的なこの家は、JWA建築・都市設計一級建築士事務所 渡辺純さんが設計したハイエンドな2世帯住宅。グッドデザイン賞受賞歴をもつ、見どころ満載の上質空間の魅力とは?
