
店舗と母屋、
程よい距離感で暮らしが交わる「ハナレ」の家
家族の生活が重なり合う。行き来のしやすさを考えた設計
金子さんの言葉通り、K邸は同敷地で別棟の二世帯というより「ハナレ」に近い。Kさん一家はお風呂を使うために、お母様は店舗を営むためにお互いの家を行き来する形だ。
そこで、金子さんは母屋との行き来がしやすいよう、細い路地を挟んで母屋と新居の玄関を向かい合わせて配置、2階にも通路を渡した。これにより、気軽にKさんのお子さんが母屋へ遊びに行くことができ、自然と奥様がお店を手伝うようになったそうだ。つかず離れずの距離感でコミュニケーションが取れるのも、別棟ながら行き来が多い「ハナレ」の良さかもしれない。
また、K邸の一角には樹齢100年を超すシュロの木がある。本来なら伐採して家を広げるところだが、K邸はシュロをよけるように角をへこませた。
「シュロの木は残したいというKさんの希望がありました。ただ、シュロの木は普通の木より揺れ幅が大きいのですが、家と距離を開けるゆとりもない。家屋に当たってお互い傷つけ、音が響くことが考えられます。そこで、屋根にゴム製のクッションを付けました。残したい思いも、住み心地も大切ですから」
さらに金子さんは、へこませたイリズミに細長い窓を設けた。思いの詰まったシュロの木が家の中からも見えるようにとの心遣いが感じられる。
一方で、通りに面したお店の顔となる外壁にも細やかな工夫がなされている。
「店舗の顔となる箇所は塗り壁の左官仕上げです。コーヒーを扱っているので、柔らかい生豆色をイメージしています。窓は大きく取らず少なめで、埋め込むようにして設置しました。日が落ちると陰影ができ、壁の厚みを感じられます」
お店の顔は蔵を彷彿とさせ、マットに仕上げた外壁に窓の陰影が落ちるとまた違った表情が出る。素朴な色合いも相まって、K邸は古くからそこに存在していたかのようにしっくりくる佇まいとなった。
目線の面白みと居心地の良さを大切に
「店舗のカウンターやテーブルの素材、実は大工さんの足場板なんですよ。飾らない風合いをKさんがとても気に入り、大工さんにお願いして譲り受けました」
希望を取り入れ、最大限に生かすことを考えた金子さんが、その板をカウンターやテーブル、棚などに活用したとのこと。経年による味の出た板は、砂しっくいの壁とコンクリート土間の床とも相性が良く、Kさん好みのレトロな雰囲気の店舗に仕上がっている。
さらに、こだわりは窓にも感じられる。通りに面したカウンター席には、横長の細い窓をやや低い位置にしつらえた。これなら通りを歩く人と視線がぶつからず、落ち着いて食事やコーヒーを楽しめそうだ。一方で、駐車場と接する南西側の窓は大きく開けている。
「カウンター席にある横長の窓は視線が交差しない以外に、低い位置から街を眺める視点が面白いと思って設けました。その分、眺望が良い南西側は大きく開けることによって、あたたかな日差しを感じられますし、遠くに忍城という城の天守閣を見ることもできます」
2階の住居部分は居心地の良さ、住みやすさを考え、軽やかでシンプルにまとめ上げた。床は明るい無垢のナラ材を使用し壁も白で統一。開放的ですっきりとした印象を与えつつ、木の風合いが温かみを感じさせる室内となった。廊下に設置されている洗面所も節目が美しい杉材を使用。床と同じく木材ではあるが、それぞれの表情が大きく違うため洗面所のエリアが独立して感じられる。
「K邸は長い面が隣地と接近しています。隣地は駐車場ですが、将来、家が建つかもしれない。そうなると人目が気になりますよね。そこで、2階の窓は採光を考えつつ高い位置に横長に設けました。これなら、光の入りもよく人目も気になりません。もちろん、そのほかの窓も風の流れを考えて設けています」
また、1階、2階ともに部屋の扉は引き戸を採用している。ドアよりもスペース的にゆとりができ、風通しや見通しも開けるのを狙ってとのこと。これなら、家族がどこにいても気配を感じることができる。
「K邸は1階の店舗部分もKさんの希望が多く盛り込まれました。でも、現在の店主であるお母様もとても喜んでくださっています。午後の日差しが心地よい日には、ご近所の方が集まってちょっとしたサロンになっているそうです」
現在、プロ用のキッチンはご家族の調理で活躍。お子さんも、家庭用キッチンとは一味違う器具で料理を楽しんでいるそうだ。今後、Kさんがカフェを経営するころには、店舗も家も味わいも増していることだろう。お母様を含めKさんご家族がカフェを経営する日が楽しみである。
間取り図
基本データ
| 所在地 | 埼玉県行田市 |
|---|---|
| 敷地面積 | 211.02㎡ |
| 延床面積 | 98.21㎡ |
| 家族構成 | 夫婦+子ども2人 |
| 予算 | 2000万円台 |
| 施主 | K邸 |
設計者情報
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