
外は清らか 中はほっこり
家族を守る、白壁のファサード
施主のOさんが設計を依頼したのは、自らも子育て真っ最中で、チャイルドケアのお仕事もされている建築家、江ヶ崎雅代さんでした。

江ヶ崎 雅代
えがさき まさよ
e do design 一級建築士事務所
茨城県 土浦市
住宅だけでなく店舗やオフィス、幼保施設や宿泊施設等、様々な建築&空間づくりを行っています。 用途や規模も様々、空間の雰囲気やテイストも様々です。 クライアントと密にコミュニケーションをとりながら、使い手の記憶に残るような素敵な空間を目指して、きめ細やかなデザインを積み上げていきます。
3枚の白壁で玄関や窓を目隠し
生活感や外からの視線をシャットアウト
その後しばらくして、Oさんから連絡が入る。
「まさか、ご自身のご自宅をという話だとは思ってもみませんでした」
Oさんは仕事柄、建築士の知り合いがいないわけではない。そんな中、まだ一度も一緒に仕事をしたことがない江ヶ崎さんに、自宅設計を依頼した。江ヶ崎さんは、プロから「この人に設計してもらいたい」と選ばれる建築家なのだ。
Oさんがご自宅を建設する予定地は、周囲に工場や商店、病院などが建ち並ぶ商業地。目の前には交通量の多い道路も走っている。そんな環境の中、小さなお子さんも含む家族が、プライバシーを確保しながら、安心して寛げる家をというのがOさんのリクエスト。
では、江ヶ崎さんはどのようにOさんの要望を叶えていったのだろう。
その答えの1つが、ファサードにある。白く塗り拡げられた3枚の壁が前後に重なり、清らかで凛とした雰囲気を感じる。店舗やギャラリー、ミュージアムかと思えるほど白さ引き立つシンボリックなファサードだ。
実はこの壁、建物の躯体の壁の前に2枚の壁で目隠しをした格好。玄関や窓といった生活感のある部分を外部の目から隠し、中の様子がわからないようにした。立体感のあるエントランスとなったことで、手前の壁と奥の壁の間に玄関ポーチと、自転車置き場もつくれた。さらには、訪れる人に建物に吸い込まれていくかのような楽しさも生まれた。
この白い壁で目隠しをするというプランを見たときOさんからは「おおー」という声をあげたという。Oさんの期待を上回るアイデアが、刺さった。
同じ白でも温度が変わる?
温かみのあるほっこりリビング
横長にとられたLDKの先には、大きな窓とウッドデッキ。キッチンはアイランド型で、料理をしながら外の様子を眺めることができる。壁面には、作り付けの収納や本棚が並び、隠す収納と見せる収納のバランスも見事だ。住まう人、訪れる人、誰しもが、ほっこりとした気分になれる、とても気持ちの良いリビングだ。
同じ白壁でありながら、中と外でこうも印象が変わるのはなぜだろう。白という清らかさは共通であるものの、外壁の白は凛としてシャープな印象。一方内壁の白は、ナチュラルで優しさを感じる。実はこの色は、どちらも同じ色なのだという。外は空の青さが清涼感のある白さを引き立たせ、中は木の柔らかな色合いが壁に反射し、温かみを感じさせるのだ。色のもつイメージを熟知し、素材とマッチする色選びで人々の印象をも変えてしまう、江ヶ崎さんの力量には、驚かされるばかりだ。
1階に降りてみるとまた印象が少し変わる。2階のリビングがオープンで開放的な空間だとするならば、寝室、客間、子供部屋が並び、ファミリークローゼットがある1階はクローズドでプライベートな空間。とはいえ、各部屋には、南に面した窓から陽光が差し込み、明るく気持ちの良い空間であることには変わりない。
「シークエンス」という言葉がある。建築では、移動に伴って変化する景色のこと。江ヶ崎さんはこの家にいくつものシークエンスを作った。中と外、1階と2階、部屋と部屋、Oさん邸は、いくつもの景色の違いが楽しめる家だ。
「豊かなシークエンスは、感覚や気持ちに彩りを与えてくれ、家への愛着が蓄積してくれると思っています」と江ヶ崎さんは語る。
満足度の高い住宅を生む
絶妙なバランス感とリアルな経験談
「建築士の仕事の半分は、関係者の仲立ちだと思っています」と江ヶ崎さん。
実際、施主のご夫婦で意見が分かれることも多く、その仲を取り持、両者が納得できる解決方法を提案することもしばしばだという。
「施主が言ったことをすべてそのまま叶えることが、必ずしも正しいことではない」との考えをもつ江ヶ崎さん。実際、施主の好みだからということで取り入れた壁紙の色やカーテンの柄、家具の形1つで、部屋のテイストが台無しになってしまうことすらあるという。だから「ここは空間への影響が大きい」というポイントについては、予め江ヶ崎さんが、合うというものをチョイスしておき、その中から施主が選ぶように水を向けることもあるのだという。もちろん、デザイン性だけでなくコスト面をも考えた上で。さらには、ショールームにも同席し一緒に決めたり、家具などをトータルでアドバイスしたりと、施主のタイプに応じて、その選択をさりげなくサポートすることも。設計者としてのこだわりと、施主との要望も、うまく折り合いをつけてしまう。
こういった江ヶ崎さんのバランス感覚や調整力は、働く女性として、子育てをするママとして、日々培われたものかもしれない。小さい子供がいるとイレギュラーが起こるのは日常茶飯事。そんな中でも、どうにか折り合いをつけ、家事育児をこなす日々なのだ。そんな江ヶ崎さんの経験は、家づくりにも生きてくる。
例えば、キッチン1つとっても、シンクの高さや収納の場所、動線やパントリーの必要性など考える要素はたくさんある。そんなとき、普段から実際に使っている人のリアルな話は、とても参考になる。
ご自宅をご自身で設計されたという江ヶ崎さん。「自宅がショールーム代わりです。これまで暮らしてきて、良かったとろも、今ならこうしたいと思う点も包み隠さずお話しています」
リアルな経験談を踏まえた提案は、施主に安心感をもたらす。そして実際に暮らし始めてから「こうしておけばよかった」「想像と違った」という残念な結果にならないのだ。
これからも、江ヶ崎さんの卓越したセンスで、デザインと快適さを両立させた満足度の高い家が生み出され続けるだろう。
間取り図
基本データ
| 作品名 | ” spread ” 守谷の家 |
|---|---|
| 所在地 | 茨城県守谷市 |
| 敷地面積 | 336.11㎡ |
| 延床面積 | 161.03㎡ |
| 家族構成 | 夫婦+子ども1人 |
| 予算 | 3000万円台 |
| 施主 | O邸 |
撮影:西川公朗
設計者情報
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