
緻密な計算と小さな声に耳を傾ける!
ずっと愛せる素材の住まい
明確な要望がなくても、会話から理想の家のイメージを読みとる
「最初から具体的な要望がない方は珍しくありません。なので、始めは僕がプランを描いて、そこから要望を加えて変更していくという形をとっています。ぼんやりとしたプランが回を追うごとに集約され、施主さんのイメージも固まって行くので、この過程は欠かせません」
Gさんご家族も打ち合わせを重ねることで、家への要望も明確に。望む暮らしが徐々に形作られていったのだろう。特にお子様2人が使用する2階は、当初のプランより大きく変更されている。
さらに、金子さんは言う。「僕は最初に世間話から入るのですが、ご家族がいつも居間に集まって、お互い話すでもなく、なんとなく過ごしているとおっしゃっていました。その話を聞いて凄く仲のよいご家族なのだなと思いました。だからリビングが中心になるデザインにしたのです」
お互いのプライベートを尊重しつつ、適度な距離感を持てる緩やかなつながりがあるから、ご家族で「なんとなく」過ごせるのだろう。金子さんはそこを読み取り、お子様の部屋がある2階へ上がるには、リビングを通り抜けていく造りにした。
回を重ねるうちに出てきた奥様の希望は「収納」。大きめの収納部屋、和室の戸袋や日用品などちょっとしたものが入る階段下収納のほか、玄関ポーチの収納スペースなど、多めに設けた。
中でもこだわりはパントリーだ。玄関から直接入れるパントリーは、そのままキッチンに直結している。重い買い物袋を提げてリビングを回り込まずに済むよう、玄関・パントリー・キッチンをつなげて、スムーズな動線づくりをした。
さらに本が好きというご家族のために、2階上がってすぐのファミリースペースには、木の本棚を設置し、読書コーナーをしつらえた。大きく取られた北側の窓は開放感があり心地よく、読書もはかどりそうだ。
大きな要望がなくとも、会話の端々から個人個人の想いを読み取る。そんな金子さんの心構えが今回の家をつくり上げたのだろう。
手仕事が光る。素材感と風合いを大切にしたデザイン
「僕は、新築の状態が一番きれいという建物はつくりたくないんです。新築時も良いが、経年とともに味わいを深めてくれる家づくりを目指しています」
なるほど、外壁に使われている杉材は木目も新しく、新築時はすがすがしいたたずまいだ。だが5年10年と時を追うごとに、また違った表情を見せてくれると思うと、家族の楽しみのひとつとなるだろう。
屋内は、手間を加えて加工した、ラワン合板の天井とクルミのフローリングで、こちらも木の風合いが引き立っている。その天井と床を、白い砂漆喰の壁がつなぎ、温かみがありながらも落ち着いた大人のデザインに仕上がっている。
「私にとっての素材感というのは、単なる素材の質感という意味ではありません。その材質の幅や加工の仕方、スケ感、貼ったときの隙間まで計算して、得られるものなのです」。そんな金子さんのこだわりは、オリジナルのキッチンやスイッチなど、細部にまで至っている。細かい箇所でも、金属がむき出しになる部分は、極力、木で隠すという徹底ぶりである。図面から製作した、完全オリジナルのキッチンは、取っ手部分をウォルナット材でつくってある。素材感はもちろん、色味のアクセントとしても素晴らしい逸品だ。
木の風合い豊かな家を引き締める「大屋根」は金属屋根だ。暗い色味の大きな屋根は、「ワビサビ」と表現したくなるような落ち着きを感じさせてくれる。「金属屋根なので音が響きます。雨音などが気になるため、屋根の下にインシュレーションボード(防音板)を入れて雨音対策をしています」同時に、屋根の垂木の間に断熱材のロックウールを150mmの厚さで充填しているので、結果として二重に音対策ができているのだとか。
最後に、金子さんは言う。
「もちろん施主さんの要望は取り入れたうえで、始めは一人称で考えます。自分が主人公になって、その土地で暮らしたいような家を。自分で居心地が良いと納得できないと、施主さんにも勧められないのでね」
完成した際にはニコニコしながらも「きれいに使いこなせるかしら?」とおっしゃっていた奥様だが、前のお住まいから持ち込んだ質の良い家具も、今の家になじんでいるそうだ。まず始めに金子さんが主人公となって考えた家は、今ではGさんご家族の大切な物語の一部として存在している。
【金子正明さんコメント】
僕は、外の景色を見ながら、季節を感じて暮らしたいと考えています。本来なら、カーテンを閉めずに過ごせるプランが理想です。とはいえ、なかなか実現は難しい。今回はGさんの希望もあり、河川敷に植えられた1本の木を借景にした窓をつくりました。河川敷に面しているのでカーテンを閉める必要もなく、季節ごとの表情を楽しめると思います。
間取り図
基本データ
| 所在地 | 埼玉県東松山市 |
|---|---|
| 敷地面積 | 285㎡ |
| 延床面積 | 約158㎡ |
| 家族構成 | 夫婦+子ども2人 |
| 予算 | 3000万円台 |
| 施主 | G邸 |
設計者情報
この建築家が建てた家
この実例を見た人はこちらも読んでいます

居場所をデザインしたワンルームの大空間。家族がゆったりくつろげる平屋の家
広々したLDKは魅力的だが、単に大きいだけの空間は意外に使いづらいもの。しかし、建築家の蘆田暢人さんが設計したA邸は大空間のダイナミックな開放感と、ホッと落ち着く心地よさが見事に調和。設計の力で居心地が大きく変わることを実感する住宅だ。

『暮らしと遊び』の両立。クライミングウォールのある家。
横浜から車、または電車で数十分の立地で、都内へのアクセスも電車1本で行ける利便性が魅力の金沢文庫。海、山と豊かな自然が間近にあり、アウトドアが好きな人にも人気のエリアだ。今回、そんな金沢文庫に建つ賃貸併用住宅の賃貸部分のリノベーション物件をご紹介したい。 設計を担当されたのは都内を中心に設計を行う建築設計事務所、株式会社サオビの島崎衛さん。お施主様とともにお家のストーリーをお聞きした。

63案の激戦を制す!最も「ホムパ」を満喫できる空間提案とは?
施主のKさんが希望したのは「人を家に招いてホームパーティができる家」。人が集まる家をコンセプトにプライベート部分とオープンスペースの導線を見事に分け、63案の中からみごと施主のKさんの心を射止めたこだわりの家を紹介しよう。

おうち時間を便利に、豊かに。 家族が憩うリゾートヴィラ風の住まい
建築家の齋藤文子さんが手がけたS邸は、アジアンリゾートのヴィラを彷彿とさせるナチュラルで心地よい空間。光や緑を間近に感じ、家事効率もよい理想的な家だ。どんな要望に応えるときも、生活しやすさ・楽しさをプラスする齋藤さんの設計の魅力とは?

街のシンボル!住む人、行き交う人も心豊かにする家づくりとは?
ドクターとしてクリニックを営んでいるご主人とその奥さま。大規模リフォームしたマンションを終の住処と考えていたご主人ですが、奥さまが見つけてきたクリニック近くの角地に惚れ込み、周囲の環境に配慮しつつ希望を取り入れた新しい住まいが完成。人生の後半を心地よく暮らすための礎が出来上がりました。

狭小地で8つの豊かな住空間。 開放感と快適さを生む「踊り場」の活かし方
敷地は約13坪。しかし、一見、2階建てに見えるこの住宅の内部には8つの層に分かれた住空間があり、青空と緑の爽快な眺めも楽しめる。コンパクトな敷地でここまで豊かな住まいをつくることができたのはなぜなのか? 設計を担当した松浦荘太さんの、空間を自由に操るマジックを紹介しよう。

奥様こだわりのアンティーク雑貨が映える「自然素材の家」
地元の木材を使った「長く住める家づくり」を信条とする、建築家の林美樹さん。フランスやイギリスの雑貨や建具などが好きだというYさんのこだわりに応えて完成したのは、和と洋の趣が見事に融合した温かみのある家だった。「職人の手刻みによる木組みの家は、長持ちするのが特徴。設計する際には住む人の使い勝手を考え。後々手を入れられるような工夫もしています」と話す林さん。

公園の延長のような住まい。桜と共に過ごす大空間リビング
すぐ目の前の公園は、春になると見事な桜並木に。この景色を家にいながらにして楽しみたいというS様ご夫妻。「こもった感じが好き」というご主人と「開放的にしたい」という奥様の相反する思いを上手く実現させたのは、イノウエヨシムラスタジオの「1階の天井を高くしたスキップフロア」というプランだった。

お気に入りのアンティーク家具ありきで設計。「自然とともに暮らす」平屋
施主が理想の家づくりに抱く夢は大きくて、予算は限られている。これは当たり前のこと。だからこそ、設計士もやりがいを感じるというのが、「トミタ建築設計スタジオ」の富田さんの思い。その中で、「建築には“場所性”がある。どこに建てるか、日本だからこそどう建てるか。これが建築の面白さでもあります」という。Y様邸は、そんな富田さんの仕事ぶりが、とことんまで徹底された実例の一つだ。

