
2人の息子さんのために、
あえて2階を発展途上にした家造り
2人の息子さんのために、あえて2階を発展途上にした家造り
「まず『この立地で明るく風通しのいい家が本当にできるのか?』という、ご夫婦の不安要素を払拭していただくところからスタートしました」
井上邸の住まいは愛知県清須市にある。事前の確認で、渡辺さんは「北道路でも明るくて風通しのいい家が建てられそうだ」という判断だったが、とにかく現地に赴き、まずはご夫婦を安心させることを心掛けた。
井上邸の立地周辺は、集中豪雨があると、駐車してあるクルマのタイヤが半分くらい水で浸かってしまうこともあるという。そこで、家の土台となる地面全体を60cm上げることにした。
敷地は1人1台分の駐車スペースが必要な土地柄で、今のところ稼働するクルマは2台だが、駐車スペースは3台分と余裕を持たせてある。さらには友人が遊びに来たときに停められるスペースとしても利用できる。将来、息子さんが運転免許を取得してマイカーを所有したとき、置き場所に困らないようにするための配慮でもある。また、玄関に直結した1台分の駐車スペースは屋根があるので、雨の日に荷物を出し入れしても濡れることはない。
「気持ちの良いリビングダイニングを…。このイメージをまず言葉で伝えるようにしました」
これは、家を建てる施主の立場なら誰もが考えることだろう。しかし、その理想像は十人十色だ。と同時に、最初から明確なイメージが固まっていることなど皆無といっていい。そこで渡辺さんは、さまざまなパターンを用意し、ご夫婦に提案することにした。すると、さまざまなキーワードが言葉として自然に発せられるようになった。そこから、打ち合わせのたびに実物の1/100スケールくらいの模型を2〜3案用意し、ご夫婦がイメージする「気持ちの良いリビングダイニング」を煮詰めていくことになった。結果として10数点の案を練り上げ、完成形へと近づけていった。
気持ちの良い空間作りには「吹き抜けを介してさまざまな空間をつなげる」手法を用いた。渡辺さん曰く、単に吹き抜けを設けるだけでは意味がないそうだ。そこで、吹き抜けに加えて庭から光が差し込むようにした。また、2階のバルコニーと吹き抜けを結ぶことで、井上邸ならではの気持ちの良いリビングダイニングができあがった。
また、奥様のご実家との導線にも配慮した。お母様がご実家から井上邸の勝手口に来られるように導線を引いたのだ。これなら親子で気兼ねなく行き来ができるだろう。また、いざというときは2人の息子さんをお母様に預ける際にも便利そうだ。
「お子さま最優先のお考えであるご夫婦が、安心して暮らしていただけるように設計いたしました」
ご夫婦の2人の息子さんは、取材時点で3才と2才。とにかくやんちゃ盛りだ。事実、奥様もその点をかなり心配していたようだ。お子さま最優先の設計に配慮するべく、渡辺さんもきめ細やかなケアを欠かさないように心掛けたという。玄関の前にもう1つ門扉を設けた。この存在が奥様や2人の息子さんにとって、文字通り「セーフティーネット」の役目を果たしている。2人の息子さんが成長したら、この門扉を外せるように設計するなど、息子さんの成長に伴う配慮も万全だ。
その玄関だが、白い壁面と天井に杉を用いた恩恵で明るい印象だ。照明をつけると、夜間は暖色系の光が玄関周辺を柔らかく照らす。そこには家族4人が暮らすぬくもりが感じられるかのようだ。
家の中は…というと、奥様が目の届く範囲で息子さんが遊んでいるようにレイアウトを心掛けた。手すりなども、息子さんが怪我をしないように配慮されている。将来、2人の息子さんが外出先から戻り、リビングにいる両親に挨拶をしてから2階に上がるような導線となっている。その逆も然りだ。マンションでは玄関を開けたらすぐに自分の部屋に入れる間取りというケースもあるが、このあたりの要望に応えられるのが注文建築ならではのメリットと言えるだろう。事実、1階のリビングを通ってから子どもたちが自分の部屋に入る導線を望む施主様は多いそうだ。
その2階だが、現時点ではまだ発展途上だ。現在は親子4人で寝ているが、いずれ息子さんたちも一人で寝たいという時期が訪れるはずだ。そうなると、必然的に長男用と次男用それぞれの個室が必要となってくる。それを見据えた設計となっているのだ。
余談だが、天井に無塗装のワラン材を用いることで、さりげなく天井の存在をアピールするようにした。井上邸の特徴のひとつである、大屋根裏側の素材にも杉が使われている。
「毎年6月に開催される地元の花火大会がベストポイントで観られる場所を、敷地内で割り出しました」
井上邸のオファーが5月だったこともあり、設計の初期段階で2階のバルコニーで花火大会を観る際のベストポイントを割り出すことができた。井上邸が完成した後、2階のバルコニーから見事な花火が観られたそうだ。
「井上邸の窓枠がアートギャラリーとしての役割も担っています」
井上邸の外壁にはランダムに窓がある。もちろん、その配置には光の差し込み具合や見た目のバランスなど、渡辺さんがはじき出した緻密な計算の上に成り立っている。窓に置かれた小物類や息子さんの絵など、井上様一家としてはさりげなく個性を主張できるポイントでもあるし、気の向くままにさまざまなものに置き換えていく楽しみもある。この窓枠が額縁の役割を果たすことになるのだ。道行く人からすればちょっとしたアートギャラリーの趣きだ。そういった遊び心も井上邸には盛り込まれている。将来は2人の息子さんが描いた絵などが飾られることになるのだろうか。今から非常に楽しみだ。
間取り図
基本データ
| 間取り | 5LDK |
|---|---|
| 家族構成 | 夫婦 |
| 予算 | 2000万円台 |
| 施主 | I邸 |
設計者情報
この建築家が建てた家
この実例を見た人はこちらも読んでいます

シンプルさを極めつつご夫婦のライフワークと趣味に寄り添った家
アクセサリー製作がライフワークであるご主人と、石鹸コレクターとして世界中の珍しい石鹸を集めていらっしゃる奥様の理想を、具現化したS様邸。そのこだわりと家を建てるまでのプロセスを、ホープス代表・清野廣道さんを交え、インタビュー形式で伺いました。

家族が集まる空間を最優先。家族の声があふれる家
富山県砺波市のA様宅は、まだ小さなお子さん3人が元気いっぱいに走り回る家です。モダンさと木の質感がほどよくマッチしたお宅は、自然あふれる住宅地の中でもひときわ美しい家となっています。「ここはすごく自然が多いんですよ。私も山で釣りや山菜採りを楽しんでいます。」と建築家の長守さんが語る町にある、素晴らしいお宅をご紹介します。

メリット多彩な大屋根が「家族を守る」 バルコニーや庭からは名物の花火も鑑賞
お施主様との会話や、敷地の特性からヒントを得て設計を行っている建築家・高瀬さん。今回は、厳しい気候条件に備える「大屋根」をかけた新築事例を紹介。敷地配置から外観デザイン、間取りのすべてを、お施主様ご家族のライフスタイルに合わせて、多彩な工夫を凝らしたプランの一邸だ

「持続可能な暮らし」を理想とした 「自然と共にある」建築家の自邸
建築家自身がプランニングした「自邸」には、建築家の思想が詰まっている。「持続可能な暮らし」をテーマに、太陽光発電&高断熱・高気密な住宅での「自然と共にある生活」を実現した「石橋邸」の家づくりを紐解いていこう。

快適性、機能性、デザイン性が三位一体 夫婦も鳥たちもずっと巣ごもりしていたい家
注文住宅づくりにおいて「どんな家にしたいか」ということと同じくらい重要なのが「誰に依頼するか」だろう。東京都内に住んでいたTさんご夫妻が、家づくりのパートナーに選んだのは、インターネットで見つけた茨城県土浦市を中心に活動する建築家、e do designの江ケ崎雅代さんでした。

未来を見据えた、可変性のある住まい。 都市の中で、光と白に満たされる住まい。
「Shinpoの家」は建築家・塩澤さんが自邸として設計した二世帯住宅。塩澤さん一家と義父、それぞれの暮らしに寄り添い、使い勝手を第一に考えて設計された。それだけではない。将来、暮らし方にどんな変化があっても柔軟に対応できるよう、多彩な工夫を随所に取り入れた住まいである。

まるで十徳ナイフ あえて「狭小住宅」という選択
家族で暮らす「狭小住宅」というと、予算や土地といった制約から「やむを得ない選択だった」ということもあるだろう。そんななか、妥協ではなく「この狭小住宅に住みたい!」と思う家族が絶えない建築家がいる。新潟県で狭小住宅に特化した家づくりを行っている、ネイティブディメンションズ一級建築士事務所の鈴木さんだ。多くの人々から選ばれる狭小住宅とは、どんなものなのだろう。

難条件をクリアして快適に。狭小地のハイデザイン・ローコスト二世帯
敷地条件や予算などの制約を逆手に取ったアイデアあふれる設計で、「ハイデザイン・ローコスト」という希望をかなえた建築家の角倉剛さん。プロならではの着眼点と高度なスキルをかけ合わせ、狭小地で快適な二世帯住宅をつくり上げるまでのストーリーを紹介する。

ここが狭小地!?お店もテラスも居心地も、すべてが叶えるには?
「この土地では、希望の家は建てられない」。相談した設計会社から立て続けにそう言われたKさん夫妻が、最終的に自宅の設計を託したのは 株式会社ホープスの清野廣道さん。都内の狭小住宅を多数手がける同社は敷地を最大限に活用し、坪数を感じさせないのびやかで心地よい空間をつくり上げた。







