広々とゆとりあるLDKを実現した、
天井とルーフテラスの工夫とは?

視線を遮りながら明るく開放的で、テラスも備えた天井の高いLDKがほしい――。細長い旗竿地で、道路斜線による高さ制限もあるなか、建築家の川本達也さんは施主の想いを叶えた理想のLDKを作り上げました。軒梁を格子状にした天井、内から外へ連続するテラスなど、完成したLDKに隠された多彩な工夫に注目です。

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コンパクトな配置と2階LDKで高さを確保

土地は南北に細長く、東にたなびく旗竿地。土地の西面、旗部分は隣家に、竿部分は幅員2mの細い道路に接する。この複雑な土地条件は、「高い天井を設け、なるべくLDKを広く取りたい」という第一条件をクリアするにあたり最大のネックとなった。

西面道路の斜線制限による高さの制約は、かなり厳しい。そこで建築家の川本さんは、旗部分に配置する建物をなるべく隣地側へ寄せることとした。その上で、どうしても道路斜線にかかってしまう場所を、玄関とルーフテラスにすることで、大部分の室内空間に高さ制限の影響が出ないようにした。

「隣地斜線は、道路斜線よりも高さ20m分のアドバンテージが得られますので、一般的な住宅であれば高さに影響を与えることはありません。また、施主が敷地内でいずれ畑をしたいとお話されていたので、建物をなるべく隣地側に寄せ、竿部分を将来的に畑として利用できるようそのまま残すことも意識しました」。

そして、個室や水回りといった閉じた空間は1階に、高さと広さを求めるLDKは2階に配置。1階は一般的な住宅よりも10㎝ほど低い天井高2.25mとして、その分2階のLDKの天井高にできる限りゆとりを持たせた。

「1階に高い天井のLDKを持ってくると、階段が通常よりも長くなるなどさまざまなロスが生じます。1階を少し低く抑えればコストダウンになりますし、実生活でも1階が低いとはほとんど感じないと思います」と川本さん。

道路斜線による制約を受けないよう建物を配置し、1階と2階の天井高を大胆に変えることで、コストを抑えるとともに条件に叶う広々としたLDKのプランが完成した。
  • 玄関側真正面からの外観。左手に細い道路がある。白と黒のキューブを合わせたような、コンパクトでシンプルなデザイン

    玄関側真正面からの外観。左手に細い道路がある。白と黒のキューブを合わせたような、コンパクトでシンプルなデザイン

  • 玄関より。1階は個室が3室と水回り、トイレがある。一般的な住宅よりも低めの天井高だが、特に圧迫感は感じない

    玄関より。1階は個室が3室と水回り、トイレがある。一般的な住宅よりも低めの天井高だが、特に圧迫感は感じない

格子状の軒梁とルーフテラスが理想のLDKを実現

施主の要望と建築家・川本さんのアイデアが詰まった、この家の要となる空間が2階の大部分を占めるLDKだ。

天井高は施主の希望を叶えたゆとりのある2.85m。川本さんはただ天井を高くするのではなく、軒梁を格子状の構造体とし、天井裏をなくすことで、コストを抑えつつゆとりのある高さを確保した。格子状の軒梁は建物の強度を補完するとともに、例えばカーテンで間仕切りしたいなど、子どもの成長や家族構成の変化とともに家を変えられる“碁盤”のようなものになれば、という狙いもあったという。

「格子天井はいわゆるホームセンターでも売っている安価なラワンベニヤです。実は、施主と現場の監督も巻き込み、一緒に材木店へ足を運んで全部で70枚、色と木目がなるべく近しいものを1枚1枚選んでピックアップしました。労力の甲斐あって塗装後にはとてもキレイに仕上がったと思います」と川本さん。施主自身もハンモックを吊るし、音響スピーカーを取り付けるなど、格子状の天井を上手に活用している。

また、LDKから続くルーフテラスも、施主の憧れから実現した空間。LDKと同じ幅でルーフテラスを伸ばし、床をレベル差なくフラットにして、テラスの壁も室内の壁と同じ高さに揃えた。内と外を区切るのは、大きなガラス窓だけだ。

「LDKとテラスは合わせて約30畳。内と外の境界があいまいとなり、ひと続きの空間に見えることで、それ以上の広がりを感じられると思います」。

テラスの壁が外からの視線は遮りつつ、ガラス窓の外に広がる空と、差し込む明るい日射しがLDKに開放感をもたらす。「竣工後、さっそく盛大に散らかったリビングの写真が送られてきましたよ(笑)」。真新しい住まいで、ゆとりを持って賑やかに暮らす家族3人の姿が目に浮かぶ――。
  • 玄関は両サイドがフィックス窓、玄関ドアはウエスタンレッドシダーで製作。この玄関の上にルーフテラスが設けられている

    玄関は両サイドがフィックス窓、玄関ドアはウエスタンレッドシダーで製作。この玄関の上にルーフテラスが設けられている

  • LDKとテラスがひと続きの空間に。テラスとの境界は片引き戸で、両サイドはフィックスのガラス窓。全てオーダーで製作

    LDKとテラスがひと続きの空間に。テラスとの境界は片引き戸で、両サイドはフィックスのガラス窓。全てオーダーで製作

  • ルーフテラスから見たLDK。調光式のダウンライトが格子状の天井内に収められている。キッチンを覆う飾り棚も設計製作

    ルーフテラスから見たLDK。調光式のダウンライトが格子状の天井内に収められている。キッチンを覆う飾り棚も設計製作

基本データ

施主
I邸
所在地
愛知県一宮市
家族構成
夫婦+子供1人
敷地面積
175.65㎡
延床面積
106.5㎡
予 算
2000万円台