
通り土間で居場所を増やし、家をひとつに。
風が気持ちよく抜ける、深い軒がある家
空間を繋げる吹き抜け、居場所をつくる土間
気分にぴたりと合うくつろぎが得られる家
この家を設計したのは、一級建築士事務所 ミナトカズアキ建築工房の湊一朗さん。日ごろから「どういう暮らしをしたいのか」「何が一番大切で、どんなことに幸せを感じるか」に重きを置いて家づくりをしている湊さんは、Kさまとの家づくりも丁寧なヒアリングから始めたのだという。
さまざまな話をKさま夫妻から伺い、クリアになった要望は「くつろげる空間が欲しい」「風が通り、広く感じられる家」がいいということ。もちろん、「和モダンの雰囲気を取り入れたい」「庭いじりをするために、植栽を充実させたい」という具体的な要望もあった。
湊さんが提案したのは、通り土間がある家だ。仕切りや家具を最低限に抑えてワンルームのように計画したLDKや、隣接する和室と土間が一体となり、それぞれのエリアが拡張されて広々感じられる。さらに土間部分は2階までの吹き抜けとし、家の全体が緩やかに繋がった。実際の面積以上に広く感じられるのは、視線が吹き抜け部分から上に伸びるだけでなく、土間を挟んだ反対側に設けた縁側を通って庭にも抜けるため解放感が得られるからだ。
要望のひとつだった、くつろげる空間も充実させた。居場所が豊富にあることで、気持ちや時間帯に合わせて思い思いに過ごせる場所を発見できるようにしたという。
たとえば、土間からはLDKの床面が20cm、縁側は40cm上がっている。LDKに隣接し、縁側の反対側にある和室も土間と比べて40cmの段差がある。縁側と和室で向かい合って座っておしゃべりしたり、リビングの床に腰かけて庭を眺めたり。段差があることで、空間の使い方の可能性が広がった。もちろん、縁側も素晴らしいくつろぎの場所になることだろう。
庭の向こうは道路が走る「佐賀の家」。LDKでは庭側の一面を大きく開口しているため、外を歩く人の視線は気になるところ。ゆったりとした時間を気兼ねなく過ごせるよう、道路とLDKの間に庭、縁側、土間を挟み、距離を取ることによって視線が届かないように配慮した。
土間や縁側、吹き抜けの提案は、Kさま家族の住まい方への思いを大事に考えたからこそ出てきたものだ。こうして要望の深い部分をきちんととらえ、居心地よく、暮らしやすく、また、思い描いた通りの広さを実現することができた。
和モダンな家の佇まいを引き立てる深い軒。
どんな天気でも窓が開けられる暮らしを実現
外観はシンプルな切妻屋根と、1階部分の深い軒が印象的だ。リシンを吹き付けた外壁に高級感があるうえ、高さを抑えた軒が手前に出ており、道路から見た佇まいも圧迫感なく品がよい。また、建物と道路の間に設けた庭の植栽も充実しており、四季折々の景色を家からも道路からも眺められるのがうれしい。
室内を見てみよう。まず、しっかりした設えの和室を計画した。地窓や床の間を備えた本格的な和室だが、押し入れの襖紙の色合いがキリリとしていて現代の生活にマッチしている。すだれなどにも使われる山葭(やまよし)を貼った天井と、Kさまが選ばれたレトロなダウンライトの組み合わせも素敵。また、和室のデコレーションを楽しみたいとの要望から、押し入れにディスプレイに適したスペースを設けた。
さらに、LDKから続く土間、縁側、庭という流れによって空間を穏やかにまとめた。土間から1段上がって縁側に出る窓があるおかげで、庭が窓枠によってフレーミングされ1枚の絵画のように見える。縁側の部分にはあえて雨どいを設けず、雨が自然に落ちる様子も眺めたいという要望に応えた。
2mと深く出した軒と縁側は和モダンを表現しながら、同時にKさま家族の暮らし方を反映したものでもある。「風通しがよく、夏に涼しい家というお話がありましたので、窓を開けて生活しやすいことを念頭にプランニングしました」と湊さん。軒が深ければ多少の雨風の日でも窓を開けたまま過ごせる。また、軒の高さは低く抑え、南からの光をコントロールした。加えて、縁側の対面にあたる北側にも窓を設け風の通りを向上。
窓を開け放って生活できることはもちろん、土間では天気を問わずお子さまが遊び、縁側に腰かけて光や風、雨までも感じながら穏やかな時間が過ごせる。夜間などは縁側の窓に設けた障子を閉め、また違う和の雰囲気を楽しむことができるのだそうだ。
ワンルームのような1階と2階を吹き抜けや
スケルトン階段で繋ぎ、風や光を家中に
2階は、夫妻の寝室やご主人の書斎、子ども部屋などプライベート空間を集めた。そんな中、とても落ち着きそうな一角がある。2.5畳のこぢんまりとしたワークスペースは、家族がそれぞれちょっと集中したいときに使用する場所が欲しいとの希望から計画されたのだそう。LDKとある程度距離がありつつ繋がりは感じられる場所として吹き抜けに面しており、壁面の窓からは庭も見える。壁には棚もつくり、作業に必要なものを置いておけるのもうれしいところだ。
Kさま夫妻も、「家のどこにでも光と風が通って気持ちがいいです。和モダンな設えなど自分たちらしさが存分に取り入れられた家になり、とてもうれしい」とお喜びだという「佐賀の家」。それは、お施主さまの要望に対して「それはなぜか」と本質を問い、向き合ったうえで、お施主さまが本当に求める豊かさを表現した提案を行ったからに違いない。
間取り図
基本データ
| 作品名 | 佐賀の家 |
|---|---|
| 所在地 | 佐賀県佐賀市 |
| 敷地面積 | 200.59㎡ |
| 延床面積 | 98.3㎡ |
| 家族構成 | 夫婦+子ども2人 |
| 予算 | 2000万円台 |
撮影:ブリッツスタジオ 石井紀久
設計者情報
この建築家が建てた家
この実例を見た人はこちらも読んでいます

母と娘が思い思い!“今の快適”と“未来の安心”の共存の仕方
男性女性に関わらず、独身者が実家の敷地や建物を継承することが増えています。今後もますます増えると思われるこうしたケース、親子どちらも無理なく安心して住み継いでいくにはどのような方法があるのでしょうか。母と娘が一緒に考えたこの多機能住宅は、ひとつのヒントになりそうです。

手間暇惜しまず、じっくり寄り添い 施主の理想を実現した整骨院と自宅
柔道整復師・スポーツトレーナーをされている施主のTさん。出身地である古河市で、自宅兼整骨院を建てようと依頼をしたのは、茨城県結城市を中心に地域や風土に根ざした家づくりを行っている建築家、NIDO一級建築士事務所の飯野さんでした。

光を活かす設計と自由な素材使いで 遊び心と暮らしやすさを両立
建築家の吉田祐介さんの自邸兼事務所は、モデルルームの役割も担っており、設計はもちろん素材使いのヒントが満載。光や風をうまく取り込みながら、吉田さん独自のセンスで個性豊かな素材をまとめ、快適性とデザイン性を見事に両立させた空間の魅力を紹介しよう。

洗練の大空間と、家族のためのくつろぎ空間 創造力を刺激するアトリエ兼住居
札幌市内にあるこちらの建物は、アートディレクターの施主さまのアトリエ兼住居。自分でアレンジするのが楽しい「倉庫のような空間」を実現した仕事場や、ホッとくつろげる居心地抜群の住居について、設計を担当した高木由美子さんに話を聞いた。

シャビーな雰囲気漂う 憧れの「サーファーズハウス」
千葉の住宅地に建つW邸は、シャビ―な雰囲気が魅力のサーファーズハウス。設計を担当したのは、長年外房で活躍してきたtai_tai STUDIOの若林秀和さんである。屋外のシャワーや、濡れたまま上がっても平気な土間の玄関。庭と一体化を感じさせる開放的なLDK…。サーファーであるWさんご夫婦のための工夫が随所にこらされた、若林さんの家づくりに迫る。

家族の伸びやかな暮らしを実現した 『トンネル』のある住まい
「のどかな環境のなか、平屋建ての家で伸び伸びと暮らしたい」。そんなIさんファミリーの希望を叶えたのは、相良友也建築工房の相良友也さん。「奇を衒うではなく、『あ、なんか良いね』と思ってもらえる建築を目指したい」と話す相良さんが手掛けた「基山町の家」を拝見してみよう。

モットーは施主様のキャラクターに合う家作り 心地よく、長く住まい続けられるために
滋賀県大津市に、とても目を引く建物が誕生した。広大な横長の敷地に、1階がカフェで2階が住居、そして施主様(グラフィックデザイナー)の事務所小屋が同じデザインで建てられている。とある名所にほど近い場所にあるため、この敷地の前を多くの方が通り、足を止めて建物を眺める人も多い。この作品が誕生した背景をご紹介しよう。

クローゼットを楽器の練習場所に 対話が育む施主づくり家づくり
よい家づくりには「施主力」も必要だと語るのは、人の力設計室の小林さんと片岡さん。彼らは徹底的に人と寄り添った住宅をつくり続けている。普通の家で思いっきりトロンボーンを吹きたいという、施主の願いを叶えた家づくりに迫る。

個性的な住戸が集うコーポラティブハウス。全住戸に庭付き一戸建ての豊かさを
奥野公章さん設計の『荻窪ロウハウス』は、集合住宅でありながら自分好みの住まいをつくることができるコーポラティブハウス。驚くことに全住戸が庭付き一戸建て感覚で住めるという。住戸の事例とともに、工夫を凝らした奥野さんの建築の魅力を紹介しよう。



