
景観保護と個人の思い。
工事段取りと深い観察で結びつけた和の家
交錯する思いを解きほぐし、納得のいく家を形づくる
工事を請け負ったのは、明治から桐生で建設業を営む吉田組。Oさんから相談を受けた担当者の岩脇さんは町おこしでもあるこの計画に若い感性を入れた方がよいと考え、県外から建築家の真島さんを呼び寄せた。伝建地区での新築第一号ともなれば、続く事例の参考になる重要な計画。市としても期待をかけていた。そんな事情から、姉妹ふたりが住む家の打ち合わせのためにずらりと10人が顔を揃えることもあった。真島さんはもっぱら大勢の言い分を理解して誰もが納得できる家のかたちを探ることになった。「市が進めていた伝建地区制度への登録はOさんが長年住んでおられた家の前の敷地を買って新しく広い家を建てることとは違うところで進んでいた話です。市の意向を背負う職員の立場も、自宅の新築に市や町民からのプレッシャーに困惑するOさんの思いも分かりました」と真島さん。
新築にあたっては必ず守るべき規制と補助金を利用する場合に満たすべきガイドラインがあった。補助金を利用すればOさんに選択の余地はなく、市の求める日本家屋風の建物にすることになる。そこで宮岩脇さんは工事を2つに分ける提案をした。普段、生活する家は最低限の規制しかかからない一期工事、通路や物置部分には周囲の古い建物と同じように昔風の門を建てた二期工事。これで住居部分はOさんの意向をいかせるようになった。しかし、ただ日本家屋風の門を建てれば街並保存といえるのか。その門の後ろでOさんは気持ちよく暮らせるのか。真島さんは通りを歩きながら考えつづけた。門に沿って通りを進むとO邸の辺りで 背後に山が見えてくる。「その山がヒントになりました。屋根も二方向に流れるかたちと決まっており、背後の山のプロポーションと屋根のプロポーションを揃えようと思いました。門がつくる水平のライン上に1階と2階の三角屋根に並んで山が見えたら風景に馴染んで見えるのではないかと考えました。」門の高さでも市と一悶着あったが理解を得られ、一期工事と二期工事、おまけに山までがひとつの絵になった。山と家を重ねたという意図を聞くとOさんも「あら素敵」と喜んだという。
無事に家が完成すると姉妹の人柄もあって、次々と町の人たちが訪れた。O邸の最初のコンセプトはOさんとご家族ご友人などの人々の関係を織物のように綴る家。「コンセプトどおり、いろんな人が来てくれるようになったわ」というOさんの言葉には感激したと真島さん。関係者の思いがうまくかみ合い、まちづくりにもOさん姉妹の新しい生活にも幸先のよいスタートとなったようだ。
新しい家ができて、姉妹も元気に
以前の家は狭く、日当りも悪かった。一日のほとんどを家で過ごすOさん姉妹にとって、新しい家は日々の生活を一変させたようだ。真島さんが仕事で桐生を訪れるついでに立ち寄ると、お姉さんは階段が楽に登れるようになったと嬉しそうに報告する。古い家の急な階段は一段一段、両足を揃えて登っていたが、今は手すりを持ちながら右左と片足ずつで登れるようになったのだ。興奮した口ぶりのまま大好きな芸能人まで紹介してくれるお姉さん。妹さんも掘りごたつのある和室へ真島さんを通し、お茶はどうか、梨を食べていってとすすめながら、話がとまらない。
「通い始めたパソコン教室の話をしてくれるんです。教室には仲の良いグループともうひとつのグループがあるみたいで、女子高生のようなノリでその話をしてくれるんですね。以前よりも明るくなった様子にジーンとしました」と真島さん。姉妹が前向きになったことは工事を担当した岩脇さんも感じていたよう。これからも新しい家で仲良く元気に暮らしていってほしいものだ。
【真島 瞬さん コメント】
自分の思うカッコいいかたちをつくっていくことではなく、クライアントの意見や思い、人柄等を編集して、建物のかたちにしていくことが僕の仕事だと思っています。そのなかで自然と自分らしさが出てくるようになってはじめて、建築家と思えるのではないかと考えながら、日々、建築に向き合っています。
基本データ
| 所在地 | 群馬県桐生市 |
|---|---|
| 敷地面積 | 267.68㎡ |
| 延床面積 | 198.20㎡ |
| 家族構成 | 夫婦+子ども2人 |
| 施主 | O邸 |
設計者情報
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