
飼い主も5匹の猫も、楽しく健やかに。
猫が生き生き暮らす「猫的町並み」のある家
両面サムターン鍵で禁止ゾーンを設定。
猫との関係性を踏まえたアイデアも
廣瀬さんは、人もペットも楽しく健やかに暮らせる住宅をつくってくれる「犬猫専門建築家」。専門学校で動物との共生について研究を続け、教鞭も取っており、ペット共生住宅の第一人者として国内外で知られている。
K邸はそんな廣瀬さんの知見が至るところに生かされ、キャットウォークなどの「猫のための構造物」もたくさんある。ただ、廣瀬さんは決して、ペットを最優先する建築家ではない。あくまでも人が快適に、心豊かに暮らせる住宅性能やデザインを追求し、その上でペットにとっての理想的な環境をつくり出す。
K邸ではインテリアの基調に温かみのあるアイボリーや木目を使い、建具にモールガラスを採用するなどレトロな魅力もプラス。ナチュラルで心地よい北欧ヴィンテージ風の空間をデザインしている。
同時に廣瀬さんはペット共生住宅のノウハウと、Kさまと猫たちの関係性もプランに反映。K邸の場合は、Kさまの要望や猫との距離感を踏まえたポイントが3つある。
1つ目は、「キッチン、書斎、玄関ホールは猫が入らないようにしたい」との要望に応えた「猫立ち入り禁止ゾーン」の設定だ。これについては両面にツマミがあり、ドア(あるいは引き戸)の内側・外側の双方で解錠・施錠ができる「両面サムターン鍵」で解決した。猫立ち入り禁止ゾーンに入ったときも出たときも手軽に鍵をかけられるから、自分でドアを開けられる賢い猫も勝手に入ることができなくなる。
2つ目のポイントは「室内窓」。これはキッチンなどの猫立ち入り禁止ゾーンにKさまがいるときも、Kさまと猫が互いの様子を見られるようにする窓だ。廣瀬さんは「猫にとっての見やすさ」にも配慮し、キッチン用の室内窓の近くには猫ステップまで設けている。
3つ目のポイントは「狭めの部屋」で、あえて若干コンパクトに設計したリビングやダイニングを指す。目的は、Kさまが手を伸ばせば、すぐに猫と触れ合えるようにするためだ。
3つのポイントのうち猫立ち入り禁止ゾーンは要望に沿ったものだが、ほかの2つは、なぜ取り入れたのだろう?
廣瀬さんに尋ねると「猫たちが、Kさまにとても懐いていたからです」という答えが返ってきた。Kさまの後をついて回り、Kさまを目で追いかける猫たちと、手が空けば猫をかわいがるKさま。廣瀬さんは両者のずば抜けた仲良しぶりを目にし、Kさまと猫たちが常に寄り添って暮らせる「室内窓」「狭めの部屋」を提案したのである。家ごとに異なる人とペットの関係を的確に捉え、カスタマイズしたプランの好例といえる。
ちなみに、「狭めの部屋」といってもダイニングは1~2階の吹抜けで、2階に配されたリビングも吹抜け上部に面している。だから、どちらも視線が伸びて開放的で、狭さは全く感じない。こうしたところからも、人の居心地を何よりも大切にする廣瀬さんの設計姿勢がよくわかる。
完全室内飼育でもストレスなし。
1階と2階がシームレスな「猫的町並み」
キャットウォーク、キャットツリーといった「猫のための構造物」をうまく組み合わせて、家の中に、猫にとっての町並みをつくり出す。そうすると完全室内飼育の猫も退屈せずに生活でき、体力的にもメンタル的にも満足するから、問題行動もほとんど起こさないという。
廣瀬さんはアメリカの都市計画家であるケヴィン・リンチの理論にヒントを得て、「猫的町並み」を構成する5つのエレメント(要素)を定義。豊富な実例をもとに、独自のセオリーを確立した。
K邸もそのセオリーに基づいて設計され、邸内の「猫のための構造物」は全て、5つのエレメントにひもづいている。
まず、K邸にある「猫のための構造物」を見てみよう。ダイニングとリビングをつなぐ吹抜け周辺のキャットウォーク、キャットツリー、爪とぎ柱、猫ステップ、猫窓などは、どれも「猫のための構造物」。猫は人間が使うらせん階段も大好きだから、猫にとっては上下移動の動線が多く、1階と2階がシームレスな住宅となっている。
ほか、キャットウォークの一角にはお昼寝にぴったりの陽だまりスペースがあり、邸内の中央部付近には、ダイニングに隣接する形で猫ダイニングも設けられている。
ずいぶん盛りだくさんで猫が使わないものも出てきそうに思うが、「適切なデザインがなされていれば『多すぎる』ということはなく、猫は全て使ってくれます」と廣瀬さん。
「適切なデザイン」とは、猫が本能的に使いたくなる「猫の行動を促すデザイン」を指す。廣瀬さんはこの分野の研究を長年続けているだけあって、K家の猫たちは廣瀬さんがつくった「猫のための構造物」を全部使って元気に遊んでいるという。
これらの「猫のための構造物」で「猫的町並み」がどのように構成されているのか、次のパートでご紹介していこう。
猫にとっての最適環境。
「猫的町並み」を構成する5つのエレメント
***
【1】Path(パス:猫の快適動線)
猫の通り道。K邸ではキャットウォークやキャットツリー、らせん階段などがパスに当たる。ただし、猫はパスの先に目的がないと使わなくなるので、廣瀬さんは飼い主の居場所や窓など、猫が喜ぶ目的を適切に絡めてパスを計画する。猫が複数いる家では、猫同士がパスを取り合ってケンカしないための対策も施す。
【2】Edge(エッジ:ここまでだよ)
猫が「行っていいのは(行けるのは)ここまでだ」と認識する縁(ふち)、空間の端っこ。K邸では壁や窓、両面サムターン鍵で施錠された猫立ち入り禁止ゾーンへのドアなどがエッジに当たる。廣瀬さんは猫が屋外に出て危険にさらされることがないように、エッジとなる場所の逃亡対策も徹底する。
【3】District(ディストリクト:目指す場所)
猫の娯楽、または生きるための目的がある地域、エリア(目的地)。K邸の娯楽のディストリクトは、外を見られる窓辺のキャットウォーク、陽だまりスペース、Kさまがいるリビングや、Kさまの姿を見られる室内窓近辺の猫ステップなど。猫ダイニングは、生きていくための目的(食事やトイレ)のディストリクトに当たる。
【4】Node(ノード:猫わくわく、本領発揮)
接合・集中点、交差点(水平交差、垂直交差)。パスが集中していて猫が自由に飛び移れるスポットで、K邸ではキャットウォークの交差や分岐、キャットウォークと爪とぎ柱の交差などがノードに当たる。ノードが上手につくられた家は猫が退屈しない。
【5】Landmark(ランドマーク:自分の居場所を把握する)
目印、中心。廣瀬さんは、聴覚・嗅覚を頼りに定める「食事場所」を「猫的町並み」のランドマークと定義。K邸では1階の中央にある猫ダイニングがランドマークに当たる。ランドマークが家の中央にあると、猫の行動が穏やかになりやすい。
***
上記は廣瀬さんの膨大な知見のほんの一部だが、廣瀬さんの「猫的町並み」は猫の生態や習性、数多のエビデンスに基づいて、緻密に計画されていることが伝わってくる。何より、自身も猫好きな廣瀬さんの、猫に対する温かな愛情が感じられる。
猫は、設計者に希望を言うことができない。だからこそ、言葉にせずともここまで理解してくれて、望みを具現化してくれる廣瀬さんに出会えたK家の猫は、とてもとても幸せだ。その様子を毎日目にするKさまの幸せも、猫と暮らす人なら容易に想像つくだろう。
基本データ
| 作品名 | K邸(1階と2階がシームレスにつながる猫のための家) |
|---|---|
| 所在地 | 愛知県 |
| 敷地面積 | 475.35㎡㎡ |
| 延床面積 | 155.935㎡㎡ |
| 施主 | K様 |
設計者情報
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