
どんな季節でも、雨の日でも。
閉塞感なく暮らせる、通り土間がある家

堀井 博
ほりい ひろし
まんなみ設計室
新潟県 柏崎市
感性をくすぐる「美しさ」と、住まい手の創造力を育む「中庸な空間」。 この2つを丁寧に紡ぎながら、ただ命を守るためのハコではない「住まい」を、 まんなみ設計室は、つくっていきたいと思います。
居心地がいいだけではない。
通り土間がもたらす、たくさんのメリット
でき上がった自邸は、どことなく伝統的な日本家屋の雰囲気も感じさせるような、横に長い2階建て。1階の南北に延びる通り土間は、雪が多く家で過ごす時間が長い冬の間も、楽しく、開放的な気分でくつろげるようにと考慮して設計した空間だ。
通り土間はリビングのようにも使え、「土間リビング」と呼んでいる。堀井さんが「家の中でも外部が感じられるようにしました」と言うように、道路に面した辺は大きな掃き出し窓が連なり、上には天窓があるので明るく、また空もよく見える。使い方はフレキシブル。庭の鉢植えの冬の避難場所になったり、趣味の自転車を飾ったりするほかに、置かれたソファでくつろぐこともできる。土間リビングがあることで、家の中でできることの可能性がぐっと広がっているのだ。長い冬だけでなく、雨が降ったりして一日を室内で過ごさなくてはならないことは意外に多い。そんなときでも、のびのびと開放感を感じながら暮らせるのは嬉しいだろう。
室内にいるのに屋外で過ごしているような気分になるのは、他にも理由がある。堀井さんが目指したのは室内と屋外が半分半分のような、「中間領域」を設計すること。まず床のタイルと天井の梁を、玄関に向かうアプローチから土間の奥までそれぞれ同じ素材、同じ並べ方で統一。玄関部分の壁面も、そのまま引き入れるようにダイニングの手前まで延ばした。さらに床材のタイルを掃き出し窓の外側、軒下部分まで延長し、内部空間と外部の境目が曖昧になっている。
また、家と道路の境に垣根や塀をつくらなかったことも、中庸な空間を生むためだという。道路との境目には軒の柱を横並びに設置。それだけでは建物から道路までの距離が近すぎるように感じるが、柱と柱の間の植栽を設けることで近すぎる距離感を緩和した。「これも、大きな掃き出し窓からダイレクトに外に繋がることを避け、中と外を曖昧にした中間領域のひとつです」と堀井さん。
南北に伸びる通り土間は、いわば横のライン。それに結びつけるように、家の中心に吹き抜けを設けて縦のラインをつくった。縦と横のラインがクロスする構成により、土間に置かれたペレットストーブが生きてくる。ストーブによる暖気は土間中に広がるだけでなく、縦のラインを通って上に上がる。吹き抜けのほかにも1階と2階が繋がる場所を3か所つくることで空気が循環し、サーキュレーションなどを付けなくても2階の隅々まで充分に暖まる。冬はペレットストーブ1台で家中を暖めることができ、真冬でも1階と2階の温度差はほぼないというのだから驚きだ。
暖気が上昇する吹き抜けの2階部分に沿って物干しを設置したことにも、意外な理由があった。冬はもちろん夏も洗濯物はすぐ乾くという。同時にその乾燥時の水分蒸発を利用して家中を加湿でき、一石二鳥のメリットが生まれた。「最近の建物は室内が乾燥しがちなのですが、ちょうどいい自然の加湿器になります」と堀井さんは言う。
1階の下屋部分には大きく開口した天窓が設けられ、縦と横がクロスした家の中心部に光が落ちるようになっている。土間の掃き出し窓には夜用にロールスクリーンと、日中のための光は通すけれども外から室内が見えにくいというミラーレースカーテンを設置。吹き抜けによって室内方向への視線の抜けも生まれ、どこまでも開放的で明るく、気持ちのいい空間ができ上がった。堀井さんは土間リビングについて「一年中どんな時でも、家族が自然に集まって過ごす憩いの中心の場になりました」と満足気に語ってくれた。
選び抜いた素材とたくさんの仕掛けで
家に、人生に豊かさを
無垢材は傷もつきやすくメンテナンスにも手がかかるため、お客様には紹介しにくいという。しかし堀井さんは、それが生活していくうえでの痕跡と楽しんでいる。
「家は、竣工したときが完成ではないと思います」と堀井さんは語る。ゆっくりと時間をかけて木材が乾燥したり、使い込まれて馴染んで来たりと少しずつ少しずつ変化していく。その変化が家をもっとよりよいものにしていくと考えているのだそうだ。「今、家が建って丸4年ですが、これからもっとよくなります」。
このような考えを持つ堀井さんが、古いものを生かしたいと望むのは当然だ。道路との境目にある木々は、自邸を建てるにあたり取り壊した家に植えてあったもの。特に南端にある花梨の木は樹齢50年と歴史あるものだ。「日本では家の寿命が約30年と言われていますから、木の寿命のほうが長いわけです。そういう意味でも、もともとあった木は絶対に切らないほうがいい」と決断しただけでなく、花梨の木を美しく残すために、なんと軒の一部を凹ませた。「家が一本の木に負けたような感じですが、負けるが勝ちというか、それによって家はさらに豊かになります」と堀井さん。花梨の木は今年もたくさんの実をつけたという。
2階の外壁、どうしてこんなところに? というドアがある。雪国である新潟では、雪解けの春というのは待ちに待った季節。ぽかぽかとした日が来たら、屋根に布団を乗せて布団干しをするのが昔ながらの習わしなのだそうだ。「すると子どもが布団に寝転がってマンガを読んだりするんです。すごく幸せを感じる時間なんですよ」と、自邸を建てるなら屋根に出られるようにしたいと以前から考えていたという堀井さん。そこで普通なら引き違い窓を設けるものだが、普通だったら付かない場所にドアがあったらおもしろそうだとテラスドアを設置。実用度にデザインがプラスされ、ユニークな外観が生まれた。
他にもターザンロープや、2階トイレのユニークなカギなど仕掛けがたくさんある理由を尋ねると、豊かさが大事だからとの答えが。中でも「家にたくさん散りばめた仕掛けや装置のことが息子の記憶に残ったら、彼のその後の人生が豊かになるのではと考えました」と父親らしい一面を見せてくれた。
家での暮らしが豊かに、楽しいものになるようにという気持ちは照明の美しさにも表れている。間接照明を積極的に使った室内から漏れる光は優しく、帰宅する人に家がおかえりなさいと言っているかのようだ。
一番落ち着きが求められる寝室は、天井に照明を付けず間接照明のみで室内を柔らかく照らす。雫のような形を眺めているだけでほっこりする上に、壁に塗られた漆喰の模様もより美しく浮かび上がり、明かりを灯すことが毎日の楽しみになっているとのこと。
温かくて住みやすく、さらに家の中に豊かさなど、目に見えないけれども必要不可欠なものが感じられる堀井さんの自邸。敢えて取り入れた部分がクライアントの目に留まり、オーダーを受けることもあるそうだ。それはきっと、家づくりにおいて本当に必要なことがクライアントに伝わったからだろう。堀井さんの家は、住む人に機能的な満足感だけでなく、深い幸せを与えてくれる。
間取り図
基本データ
| 所在地 | 新潟県 |
|---|---|
| 敷地面積 | 165.98㎡ |
| 延床面積 | 136.35㎡ |
| 家族構成 | 夫婦+母+子ども1人 |
| 予算 | 2000万円台 |
| 施主 | H邸 |
撮影:officeY.S. 山岡 昌
設計者情報
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