
明暗と空間にメリハリを
店舗のような落ち着きのある黒い家
施主のリクエストは明るすぎなくてよい
店舗のような落ち着きのある空間を
もともと2世帯住宅も検討してきたというNさん・Yさんご家族。好みのテイストやライフスタイル、家族の距離感など、様々な要素を検討した上で導き出した答えが究極の近居である親世帯・子世帯それぞれの家を2棟並びで新築するという計画。
このプロジェクトへの参画を、先輩建築家であるいぶし建築工房の岩村さんから打診されたのは、空-KEN design officeの竹中さん。学校の同級生建築家であるノトノートデザインワークスの野戸さんも加わり、3人がタッグを組み設計を行うこととなったという。
明るい家であることを望んでいたNさんご夫婦とは対照的に、Yさんご家族は「明るすぎなくてよい」とのことだった。それよりも「お店のような落ち着きのある空間」にしたいという要望があったのだ。こうした好みのテイストの違いが、親世帯であるN邸の「白」、子世帯であるY邸の「黒」というイメージカラーに繋がった。
竹中さんは、これまで様々な住宅や店舗の設計・空間づくりに携わってきた。とりわけ店舗づくりにおいてはナチュラルテイストからモダンテイスト、ラグジュアリーな空間など幅広いテイストで顧客のニーズに応えてきた実力者。Yさんの「お店のような」という願いを実現するのに、まさにうってつけの建築家だったのだ。
提出したプランがほぼそのまま施工に
施主に寄り添い、想いを叶える
建築家は、プランを出す前段階であるヒアリングに時間と手間をかける人も多い。詳細なシートに記入をしてもらったり、趣味や好きな音楽や本などの話をしたり、時には食事を交え、「施主を知る」ことを重視するタイプだ。一方、ヒアリングではコンセプトや方向性の確認程度にして、まずは叩き台となるプランを図面や手書きイラストで提示し、施主と対話しながらブラッシュアップを図っていくタイプの建築家もいる。竹中さんは後者のタイプだという。
「一般の方にとって、自分達が想像している空間を、何もない状態でしっかりと伝えることは難しいと思います。であるならば、ふわっとしているイメージを早めに具現化させ、それに対して意見をもらうほうが施主の想いを掴めると思っています」と竹中さん。
まずはプランを提示するといっても、竹中さんは「自分のテイストはこれだ」というこだわりが強いタイプではない。施主の想いを叶えることを第一に考え、寄り添うことを大切にしている。もちろん提出したプランに大幅に手直しが入ることも厭わず、何度でも施主が納得するまでブラッシュアップを図る。
とはいえ、実際にファーストプランから大きな変更があることが少なく、多くの場合、ファーストプランをベースに建築されることが多いという。
「Yさん邸もファーストプランが採用され、ほぼ当初のベース案のまま施工されました」と竹中さん。
短い期間でありながらも、Yさんの想いをしっかりと汲み取り、その心をがっちりと掴むプランを考案する竹中さんの実力には驚かされる。
大空間の中にメリハリをつける
明暗分かれたいくつもの居場所
Y邸の玄関は、共有のエントランス手前にある。玄関を入ると目の前には大きな植栽が。植栽が「いらっしゃいませ」と出迎えてくれるかのようで、店舗感をもたらす演出の1つだ。植栽の縁はベンチのようになっており、靴を履くときに腰掛けたり、外で遊んだお子さんがちょっと休憩するのにも役立つ。
また、玄関部分は吹き抜けとなっており、上部からの光や玄関脇のガラスからの光で植栽が成長できる設計だ。
廊下をLDKへと進むと、一気に視界が開ける。2階まで吹き抜けになっている大空間は、上下の大きな窓から光がたっぷり降り注ぐ。北西側であるため直射日光ではないものの、しっかりと明るさをもたらしている。眼前にスケルトン階段が鎮座している様は、白い家との共通点といえるだろう。
向かい合う白い家とは、窓が正対していないため、常に丸見えということにはならない。それでも、白い家に出入りする際にこの前を通ることになるので、家族の様子が伺えるという絶妙の窓配置だ。
ダイニングテーブルの先に眼をやると、そこは打って変わって薄暗く落ち着いたリビングが。ダイニングは2階までの高さがある薄いグレー色の天井であるのに対し、リビングの天井は1階分の高さで木の格子状。床もウォールナットのフローリングに対し、1段下がったタイル張りと、ゾーニングをしっかりと分けた。
竹中さんは、1つの空間でありながら、「明」と「暗」、「開放感」と「籠る感じ」という対比を演出することで、リクエストにあった店舗感を見事に演出してみせた。
また、リビングの奥には本棚で仕切られた畳コーナーを設けた。お店の小上がりといったところだろうか。地窓からは光が差し込み、お子さんが本を読んだり、おもちゃで遊んだりするのに絶好の空間。本棚で仕切られているので、多少散らかっていてもへっちゃらだ。来客時には、客間としても使用できる。
LDKの中心にはキッチン。目の前の開放的空間を見ながら料理ができるだけでなく、リビングにも畳コーナーにも目が届く、この家の司令塔だ。
逆サイドには、パントリー、手洗い場、WICなどが並び、それらは玄関からも回遊できる設計。抜群の家事動線を喜ばれているという。
1階が来客も想定するパブリックゾーンに対し、2階は個室を中心としたプライベートゾーン。
階段を上った先はスキップフロアのフリースペースを設けた。現在はお子様の遊び場として使われているが、将来的にはスタディースペースとなるという。もちろん、子供部屋はあるものの、ここで勉強することにより、LDKに居ながら子供の様子が伺えるという仕掛けだ。このスキップフロアには、道路側に大きな窓を設けた。この窓はスキップフロアや玄関に光を導くとともに、外の景色を感じられる役割も果たす。向かいの家の庭の木々が、四季の移ろいを感じさせてくれる。
2階には、吹き抜けを取り囲むように子供部屋、洗面浴室、夫婦の寝室というゾーニングとした。
施主の「明るすぎなくて良い」という要望は、そのまま受け取ると家全体が薄暗いものとなっていただろう。しかし竹中さんは、明るい部分と暗い部分、開放的な部分と籠る部分という、明暗と空間にメリハリをつけることで、1つの家の中にいくつもの居場所をつくってみせた。どんな気分のときも、どんなことをしたいときも、この家にはそれができる場所がある。また、家族がどの場所にいてもその存在を感じることができる。それこそが、Yさんご家族が望んでいたことだ。
施主の真の想いを感じ取り、それを形にする竹中さんの力がいかんなく発揮された。
「唯一のこだわりは、『施主の想像を超えたい』と思いながらプランを考えることです」と竹中さんは語る。
この家での暮らしは、きっとYさんたちの想像を上回っているに違いない。
基本データ
| 作品名 | 二棟横並びの住宅 黒い家 |
|---|---|
| 所在地 | 大阪府 |
| 敷地面積 | 175.09㎡ |
| 延床面積 | 125.53㎡ |
| 予算 | 3000万円台 |
| 施主 | Y様 |
撮影:笹の倉舎 笹倉洋平
設計者情報
この建築家が建てた家
この実例を見た人はこちらも読んでいます

土地選び・施工・外構までトータルに関与 和モダンな、ゆったり平屋の邸宅が誕生
宮城県仙台市に、株式会社杜設計というユニークな設計事務所がある。最大の特徴は、グループ法人の連携で土地探しから設計、施工、庭づくり、家具製作、さらにはマンションリノベーション事業まで新たに手掛ける点だ。設計会社がトータルに関わるメリットはとても大きい。この作品を例に、そのメリットをご紹介しよう。

高低差のある立地を生かしたインナーテラス 緑あふれる景色も夏の花火も暮らしの一部に
土地形状を生かした設計が得意な「NATURE SPACE」。今回は、敷地に高低差のあるI様邸で、その高低差を逆手にとって生かした実例をご紹介。2階LDKや1階インナーテラスをはじめ、独創的な外観デザイン、回遊動線、採光に対する工夫等、アイデアをふんだんに取り入れた設計力の高さがわかる。

全ての居住空間から中庭を望む! 住宅密集地で叶えた開放感溢れる住まい
広い中庭を中心として、どの部屋からも中庭を望むことができるF邸。外の視線が全く気にならない開放的な住まいだが、実はこの家が建っているのは、住宅に囲まれた住宅密集地である。周囲からの視線が多い環境をいかにして打開し、理想の住まいをつくりあげたのか。今回設計を担当したmizuiro architects一級建築士事務所の葛西瑞樹さんにお話を伺った。

閉じた外観からは想像できない空間がそこに 非日常の驚きと寛ぎが体験できる別荘
人が「別荘」に求めるものは何だろう?毎日の生活とは違った「非日常」や極上の「寛ぎ」という答えは多いはず。施主のNさんは「森や空といった自然を感じられる開放感」というものだった。その一方、プライバシーは確保したい。この相反する要望に応え、限られた予算の中でドラマや映画で出てきそうなラグジュアリーな別荘を生み出したのは、建築家ユニットSSSの関さんと鈴木さんだった。

「開いて閉じる」で光とプライバシーを解決 夫婦の願いを叶えた高性能で明るい平屋の暮らし
底冷えする寒さや、プライバシー保護のために光が差し込まない住環境に悩まされていたMさん夫妻。築40年の自宅を建て替え、理想の平屋暮らしを叶えるためにハウスメーカーや工務店を始めた。しかし、高い住宅性能とデザイン性を両立できる依頼先がなかなか見つからない。そんな中で出会ったのが、建築家、中土居宏紀さんだった。中土居さんは夫妻の抱える難題を、「開いて閉じる」という発想で見事に解決してみせた。

素材も間取りも理想を現実にした、納得と愛着の家づくりとは?
無垢のフローリングに漆喰の壁、天井まで届く南向きの大きな窓。東京の下町にあるKさん邸は、周囲を住宅に囲まれているとは思えないほど開放的で明るいお住まいです。家族が一番長い時間、一緒に過ごすリビングを中心に考え、さまざまな工夫でコストを抑えながら、希望どおりのマイホームをつくりあげました。

水と森のリゾートに立つハイグレード空間 友人と憩い、趣味を楽しむ山中湖の別邸
建築家の奥野公章さんが手がけた『山中湖の家』は、多趣味な施主さまのための高級感あふれるセカンドハウス。清涼な自然を満喫できる邸内はホテルライクな心地よさが魅力。豊かな居心地を生み出すメリハリの効いた空間設計にも注目だ。

「今は別荘、いつかは本宅」もアリ。省エネで冬も暖かい、軽井沢のモダン別荘
建築家の奥野公章さんが軽井沢で設計したのは、国内屈指の高原リゾートにふさわしいモダンな別荘。しかも、冬でも快適に過ごせる高性能なパッシブデザインの住宅だ。季節を問わず軽井沢を楽しめる豊かな住まいは、どのようにつくられたのだろうか?

コンクリート壁の中に明るく豊かな住空間。家族が憩える、「使える中庭」のある家
建築家の江ケ崎雅代さんが設計したF邸は、研ぎ澄まされたアートのような外観が印象的。邸内に広がるのは、中庭付きの明るく心地よい住空間。「施主さまご一家が、楽しく快適に暮らせるように──」という、江ケ崎さんの温かな思いが伝わってくる住宅だ。







