
築43年のマンションを一新。
やわらかな発想で実現した豊かな環境
DISPENSER architects 小野修 一級建築士事務所
築年数の多い物件にありがちな
水回り問題を柔軟な発想で解決
「70年代の建物にこだわって物件を探しました。質実剛健といいますか、素材感や佇まいが好きなんです。自然が多く、駅と学校が近いのも決め手になりました」と小野さん。しかし、当時のままの間取りでは使い勝手も悪く、家の機能としても不十分。小野さんは家族のライフスタイルに合わせ、大規模リノベーションを施して暮らしやすい上質な空間をつくり出した。
リノベーション前の間取りは、センターLDK。当時一般的な「田の字型」といわれるものだ。玄関を入ると廊下へ続き、それに面して洋室がある。家の中心にはキッチンとダイニングがあり、さらに奥に2部屋。
小野さんはまず大きな問題として「熱」をあげた。外廊下に面する西側の洋室は夏の午後はとても暑くなり、構造上エアコンも設置しにくく、通風の確保もままならない。リビングダイニングへの通風に関しても、玄関の扉を開け放つ以外に東西の抜けを確保する手段がない。また、冬場はトイレや風呂に行くためには冷えた廊下を必ず通らなくてはならないだろう。
この問題を解決したのは、土間スペース。エアコンが付けられない洋室を無くし、玄関を広げて土間をつくったのだ。通常、土間には人がいないため、暑くても寒くてもそんなに住み心地に影響しない。廊下も無くし、住空間はリビングダイニング、奥のフリースペースや寝室スペースまで一続きになった大きなワンルームのように設計。風の抜けを確保するとともに、このワンルーム空間にエアコンを設置して空調が隅々まで届くようにした。おかげで、現在は家のどこにいても快適に過ごせているそうだ。
もうひとつ解決しなくてはならなかった問題は「トイレや水回りの利便性」だった。「朝の時間って、水回りが混雑しますよね」と小野さん。洗面やトイレ、キッチンを行ったり来たり、小さな子どもがいればなおさらだ。水回りに回遊性を持たせスムーズな流れで動けるプランを考えたが、どうしても都合の悪い位置にトイレがあった。トイレの位置を理想の場所に移そうとすると排水に必要な勾配が十分に取れない。
そこで小野さんは地下鉄構内の商業施設などで使用されている「排水圧送ポンプ」を採用。粉砕した汚水をポンプアップすることで長い距離を排水する能力が備わり、思い通りの位置にトイレを設置することができた。
一般家庭でポンプを採用するのはまだ稀とのことだが、住み始めてから5年の間一度も不具合はないという。「排水管の問題は築年数が多い建物をリノベーションするとき、よくぶつかる壁です。それがネックになって思い通りのプランができないのであれば、ぜひやったほうがいいと思っています」
シンプルな構造と素材感。
2つのテーマが密接し上質な空間をつくる
例えば小野さんご一家には小さなお子様がいらっしゃり、「子育て」が大きな視点のひとつになっている。お子様がのびのびと暮らすためには大きな空間が必要と、まずは住空間を区切らず大きなワンルームと捉える構成にした。以前は段差が多かった床もフラットに。それにより床の高さが以前よりも上がったため、天井は現しにして高さを確保、開放的なスペースができあがった。
しつらえがシンプルなことも特徴的だ。トイレがある水回りの狭い空間を広く見せるため、水回りの壁面を漆喰で統一。扉は取手のない突板にして建具枠は付けず、ナチュラルに壁と馴染むように計画した。それにより空間がシームレスにつながりユーティリティスペースの一部にトイレがあるように感じられ、使い心地にゆとりが生まれる。
構造がシンプルだからこそ、際立っているのが素材感だ。無垢フローリングの床、扉の突板、水回りの金鏝仕上げされた漆喰まで見事に調和している。
自然の素材にこだわるのは、生活の記憶となって残っていくからだという。手触り足触りという感覚的な部分はもちろん、何かをこぼせば汚れるし、傷もつく。そういう部分にもよさを感じている。「扉をあえてソフトクローズにしなかった理由にもつながりますが、自然と扱いが丁寧になると思うんです」と小野さんは言う。汚れたらすぐに拭いてきれいにする、扉はきちんと開けて最後まで丁寧に閉める、その積み重ねは子育てにおいて大切なのではないかと語ってくれた。
奥様のご要望に応えキッチンのレイアウトにもこだわった。この家はシンクとコンロが並列になったペニンシュラ型のキッチン。こうしたキッチンはコンロとシンクの位置をずらすのが一般的だが、小野さんはシンクを調理台の端に寄せ、コンロと向かい合わせで配置した。キッチンレイアウトのセオリーに縛られずシンクを端に寄せたことで、広々した作業スペースを確保でき、ぐっと調理しやすくなったという。
お客様がいらっしゃる機会も多いという小野家。キッチン回りに皆が集まって、料理をつくったそばからつまんだり、くつろぎ始めてしまうことも多いのだとか。「空間がひとつですから、子どもがほかの場所で遊んでいても目が届きやすいのも安心です」と小野さん。奥様も使い勝手に大満足だという。
これからは家の中で過ごす時間が増える。
だからこそライフスタイル重視のプランを
築年数の多い建物の一室でも、ある程度きれいにリフォームされてから世に出る物件も多い。その場合はその分のリフォーム代も上乗せされているが、必ずしも住む人が望む空間になっているとは限らない。
小野さんは「これからリフォームをしたい、家を立てたいという人たちは、皆すでにある程度しっかりしたライフスタイルを持っている」と強調する。手付かずの物件、さらにはまだ前の住人が住んでいる場合でも、ライフスタイルを共有した上で一緒に下見すれば、その部屋で望むようなリノベーションが可能か判断できるという。そのうえで、よりよいプランでその人に合った「豊かな環境」をつくり出せる。
「これからの時代、家庭で過ごす時間が仕事も含めてすごく多くなっていくのではないかな、と考えています」と小野さんは話す。だからこそ、家の中でいかに気持ちよくいられるかがさらに重要視されるのではないか、とも。
忘れてはならないのは、リノベーションをした時点での暮らし方が永遠に続くわけではないということだ。子どもは日々成長するし、家族の人数が増えるとか、自分たちの働き方も変わるかもしれない。
そういうものにもフレキシブルに対応できる空間にしたいと小野さんは言う。この部屋でいうなら移動可能な収納や、現在南側の壁一面にある収納を取り払っても、きちんと収まるように設計されたリビングダイニングとフリースペースを仕切る引き戸。それらは小野さんが将来を見据えてプランに取り入れたものだ。
リノベーションの規模にかかわらず、また家をイチからつくるときでも、今ある問題を解決することにフォーカスしがちになるなかで、小野さんのような存在はこの上ないパートナーになるだろう。小野さんは最後に「ざっくばらんにご相談いただければと思います。それに応じた回答やご提案はきっとできます」と頼もしい言葉を残してくれた。
基本データ
| 所在地 | 東京都武蔵野市 |
|---|---|
| 延床面積 | 65.51㎡ |
| 家族構成 | 夫婦+子ども1人 |
| 予算 | 〜2000万円台 |
| 施主 | O邸 |
設計者情報
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