
狭いけれど狭くない
車3台分の敷地で仕事場もテラスも

島村 香子
しまむら きょうこ
島村香子建築設計室
東京都 葛飾区
趣味は晩酌。 我が家の小さな小さな庭で、植物たちがエネルギッシュに我も我もと生い茂っていく様を日々楽しんでいます。 現在4歳の子の子育てと、家育て(自分の家もクライアントの皆様の家も)、自分育てに、これからも邁進してまいります。 自ら土地を取得してゼロからの家づくりプロセスを経験したことにより、クライアントの立場に立ったアドバイスを差し上げることができると考えています。
お寺の境内を借景に
狭くても緑に囲まれた生活を
「季節の移り変わりを感じる暮らしがしたい という想いがあって、ここならそれが可能だと感じたんです」と島村さん。なるほど、このお寺の境内にはたくさんの樹木や草花が植えられている。この土地であれば、境内を借景として自分の家の庭のように、四季折々に違った景色を楽しめるに違いない。
そうしてこの地に誕生した家は、延床面積約65㎡の混構造(木造・RC造)3階建て。65㎡もあれば、決して狭小住宅とはいえないと感じる方も多いことだろう。しかし、実は1階は、玄関スペースを除くと駐車スペースと島村さんの事務所スペースがその大半を占め、居住スペースは2階と3階を合わせた約42㎡しかない。数字の上では十分狭小住宅と呼べる面積だ。
とはいえ、この家は面積という数字だけを見ていてはわからない、島村さんが施した狭さを感じさせない数々の工夫により、気持ちよく生活できる家に仕上がっている。
では実際に、中に入って見てみよう。
玄関扉を開けると、目に飛び込んでくるのが、オリジナルで作られた格子状のオープンシェルフ。上段には島村さんの仕事関係の雑誌が並び、下段には靴がディスプレイされるように並んでいる。本棚・靴棚としての目的だけでなく、玄関と奥の事務所スペースをゆるやかに隔てる間仕切りの役割をも果たしている。
事務所スペースは4畳ほどとコンパクトながらも、作り付けの机や棚、大容量の本棚、打ち合わせなどに活用できるテーブルもある。さらに奥には階段下のデットスペースをうまく活用した倉庫まであり、使い勝手も良さそうだ。そして、南側の大きな開口からは、小さいながらも設えた 庭に植えられた木も見ることができ、仕事中のホッと一息に役立っているのだという。
外の景色を中に取り込む
視線を外に向け、開放感を演出
ダイニングに入ると、大きくとられた窓の先には、寺の樹々がすぐ目の前に迫り、外の景色を取り込んだかのような抜群の借景が出迎えてくれる。ロールスクリーンが窓の上に仕込まれているが、昼間は全開のままだそう。窓は周囲からの視線にさらされない配置になっているので、必要ないのだという。
キッチンスペースは、コーナーにコンパクトにまとめられた。
「大容量の収納をつくれない分、事前に収めたいものの大きさを測り、それが入るように計算して棚を造りました」と島村さん。
窓の前には、オープンシェルフ。お気に入りの食器や調理道具を置き、見せる収納としつつ、外の景色や明るさを中に取り込む一石二鳥のアイデアが。
そしてなんといっても大きな存在感を放つのが、シンクと一体となったダイニングテーブルだ。ロシアンバーチ合板を使った島村さんのオリジナル。実はテーブル部分は床がキッチンよりも1段高くなっている。本来、シンクとテーブルはそれぞれ使い勝手のよい高さが違うため、そのまま並べることは難しい。その解消法として、島村さんはテーブルの床レベルを1段高くすることで、シンクとテーブルを一体化させることに成功した。高さが合わないなら、床レベルを上げればいいという逆転の発想だ。
こうして作られたダイニングキッチンには、家族が集う憩いの場であるとともに、来客をもてなす場でもある。
「お友達を招いたりして、大人数で食事をすることも度々あります」と島村さん。ダイニングとキッチンの距離が近いため、できた料理をすぐに出せたり、ほしいものにすぐに手が届く、使い勝手の良さも実現した。
階段を挟んで隣は多目的スペース。現在は、リビングや子供の遊び場として使われることの多いこのスペースは、来客時には客間として、将来は家具などを設えて子供部屋とすることも視野に入れているという。
将来的に独立した部屋にするのであれば、最初からそうしても良かったのでは?との問いに島村さんは「空間はあえて扉を設けず、ゆるやかに繋がり・ゆるやかに閉じたものとしています。そのほうが、家族の気配を感じることができますし、扉のデットスペースもありません。それに、人は見えていない部分があると、その先を勝手に想像してしまう生き物だと思うんです」と語る。
変えることのできない数字上の狭さを、人間心理までも利用し、狭さを感じさせなくしてしまう島村さんの力量には、驚かされるばかりだ。
室内の広さを犠牲にしても
テラスで生活に彩りを
実は3階は、水回りの上がロフトになっている。その広さなんと約7畳分。手前はご主人の趣味である釣り道具スペース、奥が倉庫的スペースとなっている。そこに季節ものの衣類を保管しているため、ワードローブにはその時期に使うものだけで十分なのだという。
さてこのロフト、どうやって上るのかというと、なんと階段状に作られた収納棚の天板を上っていくのだ。一見すると、ただの収納棚に、ロフトへの階段という役割を与え、さらには間仕切りとしても利用してしまうというアイデアには脱帽だ。
寝室の反対側は、水回り。洗面、トイレ、お風呂場が一箇所に集まるホテルライクな造りだ。洗濯機もここに配置することで、入浴時に洗濯物を洗濯機に、洗濯物はテラスに干す、乾いたものは寝室の収納へと、3階だけで全て終えられる、抜群の家事動線。普段実際に家事に携わることの多い女性だからこそ気づく、工夫といえるだろう。
風呂場の窓からは寺の樹々が見え、まるで露天風呂気分を味わえる造り。風呂場と寝室の間にはテラスがあり、そこが緩衝地帯となり外から見られることはないのだという。
「3階は屋内スペースを少し削り、テラスを設けました」と島村さん。狭小住宅といえば、できるだけ多くの室内スペースを確保したくなるものだが、島村さんはそれをせず、あえてテラスにした。テラスは、物干しスペースになることはもちろん、寝室や風呂場に明るさと眺望をもたらす。さらにはちょっとした家庭菜園を楽しむことのできる庭のような役割を果たしたり、夏には子供用プールを広げる、テーブルを出して食事をするといったことにも活用している。テラス1つがいくつもの役割を果たし、それが生活に彩りを与えてくれるのだ。
この家は「狭小」という制約を「1つのものにいくつもの役割をもたせる」「視覚や人間心理を活用して、狭さを感じさせない」「広さを追求せず、生活の快適さを重視する」という手法で、みごとに克服してみせた。数字では表せない懐の広い家となっている。
島村さんはこれまで、「擁壁の上に建つ家の建替え」を始めとしたいくつもの難条件の物件を見事に解決してきた実績がある。そしてそのどれもが、使いやすく心豊かに過ごせるものに仕上がっている。その根底には、島村さんのクライアント1人ひとりに寄り添い、じっくりと要望や叶えたい本質を引き出す丁寧な仕事ぶりと、自らが家事・育児などを行い家で過ごす時間が長い生活者としての経験が役立っているに違いない。さらにその上に、島村さんの類まれなるアイデア力が載る。だからこそ、どんな条件の案件も見事に成功に導けるのだ。
島村さんはこれからも、クライアントの難条件をアッと言わせる手法で、解決してくれるに違いない。
基本データ
| 所在地 | 東京都葛飾区 |
|---|---|
| 敷地面積 | 34.07㎡ |
| 延床面積 | 64.95㎡ |
| 家族構成 | 夫婦+子ども1人 |
| 予算 | 2000万円台 |
| 施主 | S邸 |
設計者情報
この建築家が建てた家
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