閉じた外観からは想像できない空間がそこに
非日常の驚きと寛ぎが体験できる別荘
それぞれのアイデアが混ざり化学反応
渾身の一案をさらに磨いていく
この建物の施主であるNさんは、バイクでのツーリングを趣味としていた。Nさんは週末に都会の喧騒を離れ1人でのんびりと過ごしたり、仲間と集まれる拠点として、都心から2時間圏内での別荘を持ちたいと思っていたという。そんな話をバイク仲間でもある、建築家の関 ⾥佳⼈さんに相談したことから、このプロジェクトは始まった。
関さんは、大学時代からの仲間である鈴⽊ 仁さんとSSS/ Seki Suzuki Studioというユニットを組み活動をしている。学生時代から「いつか一緒に仕事を」と思っていた2人、お互いが独立しようとしていた時期や、受注仕事のタイミングが重なり、2人での活動をスタートさせた。
建築家がユニットで仕事をする場合には、いくつかのパターンがある。師匠と弟子のような関係や、役割分担がはっきりと決まっているパターン。ユニットではあるものの仕事はそれぞれが完結するパターン。そして2人で一緒に仕事を進めていくパターンである。SSSでは、図面制作や施工管理などは、どちらかがメインの担当となるが、顧客との打ち合わせや、プラン作成は2人共同で行うという。土地や環境といった条件、顧客からの要望、打合せでの得られた情報などをそれぞれが受け止め、そしてアイデアを持ち寄るのがSSS流。
「好きなテイストや心地よさを追求しているという根源的な部分では共通しているものの、お互いのアイデアには違いがあります。自分にはないアイデアが出てくるのが2人で活動しているメリットの1つだと感じています」と関さん。
鈴木さんも「結果的に、どちらかの案が採用されるというのではなく、2人のアイデアの良いとこ取りの案を施主に提出することが多いです」と語る。
関さんと鈴木さんのそれぞれの個性から出るアイデアが混ざり合い化学反応を起こす。1+1が2という単純な足し算ではなく、3にも4にもなるのだ。
さらにSSSでは、このプロセスをできるだけスピーディーに進めるのも特徴だという。
「早い段階で、お施主様に建物のイメージを持っていただくということを大切にしています。2Dの図面、3DのCGはもとより、模型を作ったりして見ていただきます」と関さん。
「スピード感も大切にしていています。『鉄は熱いうちに打て』ではないですが、お客様も情熱があるうちにイメージしていただくことで、こうしたい・ああしたいという思いがどんどん出てくると思いますし、我々もその思いに応えられると思っています」と鈴木さん。
こうしてSSSのプランは、磨かれていくのだ。
外は窓なしの閉じたフォルム
中庭で視線の抜けと開放感を生む
この土地を見たときに関さんは、Nさんの求めていた「自然を取り込んだ別荘ができそうだ」と感じたという。
その一方で、プライバシーという点がネックになる。開放感を出そうと思えば、窓を大きくとるなど、外部に開いた設計をするのがセオリー。しかし、両サイドには近々、別な建物が立つ予定であり、大きな窓はとりにくい。また予算の制約上、建物を大きくすることも難しく、ある程度コンパクトな建物で開放感を出さねばならなかった。
この条件に対して、2人が共通して思いついたアイデアが「中庭」というキーワードだった。
大小4つの中庭で、それぞれの部屋を間仕切るように配置し、光を採り込み、空を見せ、視線の抜けをつくることで開放感を生み出す。
また、外壁にはあえて窓を設けず閉じたフォルムとする。こうすることで、プライバシー問題を解決すると共に、コストカットにも繋げた。そして何より「外には閉じ、中には開く」という対比がより開放感を際立たせるのだ。
「中庭と室内の面積がほぼ同じという、チャレンジングな提案でした。外に開くこと=開放感ではなく、中庭の配置を工夫することで、どこにいても開放感を与えられると思ったのです」と鈴木さん。
このプランをパースで見たNさんも、とても驚いた様子で「中庭の配置でこんなにもひろく感じることができるのか、はやくここで一日を過ごしてみたい」とコメントしたという。2人の提案は、Nさんの予想を遥かに超えてきたに違いない。
訪れた人誰もが驚く開放感と高級感
ドラマや映画に出てきそうな非日常を体験
扉を開けると、目に飛び込んでくるのが、高級感漂う広々としたLDKと、ガラスの先に広がる大きな中庭。まるでドラマや映画に出てきそうな、ラグジュアリーな空間がそこにあった。そして何より驚くのが、外の閉じた印象とはガラリと変わった、抜群の開放感だ。関さんと鈴木さんが緻密に計算しただけあって、中庭がもたらす視線の抜け、光の差し込みが大きく寄与している。
また、壁に囲まれているため周囲からの視線が気にならないのも「自分だけの空間」という気分的な開放感にも繋がっているのだろう。
また、中庭は開放感をもたらすだけではない。中庭から見える空の青さ、水盤に反射する壁やガラス、差し込む光が作り出す陰影、どれもが美しい。またそれらが時間の経過や季節の移ろいで、生み出す景色が変わるのだ。
この中庭は、夜になれば外壁をスクリーンとしてプロジェクターで映像などを映すこともできる。星空の下、大画面で見る映像は幻想的な雰囲気にもしてくれる。
水盤は、水を抜けばアウトドアリビングとしても使え、BBQをしたり、焚火台で炎の揺らめきを楽しむこともできるという。
4つの中庭は、抜群の開放感、美しい景色、利便性を兼ね備えている。中庭1つでこんなにも豊かな空間を生み出すなんて、関さん・鈴木さんの力には驚くばかりだ。
LDKそのものも、落ち着きと上質さを感じさせてくれる寛ぎの空間に仕上がっている。その雰囲気をもたらしている要因の1つである内壁は、実は外壁と同じ左官材料だという。
「同じ材料を使っていますが、左官職人さんに塗りの粗さを変えていただきました。外は粗めに塗って土着的な要素を感じられる雰囲気に。中はざらつきをなくし服や体が擦れないようにしています」と鈴木さん。
床のタイルもできるだけ統一しているという。同じ材料を使うことでコスト面に配慮しつつ、塗り方を変えることで印象も変える、細やかな気配りに脱帽だ。
「照明はあえて明るすぎないように、美術館で使うような照明計画に近い形で、スポット照明としています」と関さん。照明も非日常感の演出に、一役買っているのだ。
中庭の先には、ダブルサイズのローベッドが2つ並ぶ寝室。あえてベッドの高さを低くすることで、寝ながら中庭の先の空を眺めることができる。星空を眺めながら眠りにつき、朝日で目が覚めるという、自然の中で眠ることができる。
この寝室には、中庭とは逆サイドにもデッキテラスに面した大きな窓がある。実は外観には窓がないといったが、建物裏手には窓が設けてあり、アウトドアテラスとその先に広がる森の樹々が見える構造となっている。建物裏手であり、側面は外壁でふさがれているため、プライバシーの問題もない。
この寝室は「空と森を見るための寝室」といえるだろう。
寝室の向かい側には、洗面・バスルーム。部屋の真ん中に卵型の浴槽が鎮座している。窓の外には、森の緑と青空。まるで露天風呂気分だ。実はNさん、アウトドアテラスにテント型のサウナを設置しサウナを楽しむこともあるという。サウナの後の水風呂、デッキテラスでの外気浴という一連の流れが、すぐそばで行える、サウナ―にとっては絶好のゾーニングでもあるのだ。
この家の出来栄えにNさんは「ミニマルでありながら高級感と居心地の良さを両立させてくれた」「水盤やガラスなど、時間や部屋によって景色の彩が変わるので飽きがこない」「招待客が必ず驚いてくれる」とコメントを寄せてくれた。
実はこの別荘、計画当初からいわゆる「民泊」や撮影のために貸し出すことも念頭に入っていたという。それだけに限られた予算の中でも、質は落とすことができなかった。その期待に、関さんと鈴木さんは、見事に応えてみせた。
現在では、住宅宿泊事業法の届出がなされ、一般の方の宿泊も可能だというVilla Lix。関さん、鈴木さんのつくる家の素晴らしさの真髄は、どんな言葉でも表現し尽せない。百聞は一見に如かず。ぜひ一度その上質さと非日常感を、自ら体験してみてはいかがだろう。
間取り図
基本データ
| 作品名 | Villa Lix |
|---|---|
| 所在地 | 千葉県富津市 |
| 敷地面積 | 425.64㎡ |
| 延床面積 | 73.81㎡㎡ |
| 施主 | N様 |
撮影:藤井浩司/TOREAL
設計者情報
この実例を見た人はこちらも読んでいます

古くからの街並みと調和しつつ、独創的な プランで将来の生活変化にも対応した邸宅
愛知県西尾市に、個性的な邸宅が誕生した。“7部屋のコートハウス”と名付けられたこの作品は、その名の通り中庭を中心に独立した各部屋が配置されている。こう聞くと特異なプランに思えるが、なぜか周囲に溶け込み、違和感がない。将来、お施主様のライフスタイルが変化しても対応できる、この作品をご紹介しよう。

快適性、機能性、デザイン性が三位一体 夫婦も鳥たちもずっと巣ごもりしていたい家
注文住宅づくりにおいて「どんな家にしたいか」ということと同じくらい重要なのが「誰に依頼するか」だろう。東京都内に住んでいたTさんご夫妻が、家づくりのパートナーに選んだのは、インターネットで見つけた茨城県土浦市を中心に活動する建築家、e do designの江ケ崎雅代さんでした。

狭小いびつな土地で叶えた、家族4人の快適ハイブリット住宅
狭小な三角形の土地に、施主家族4人の住まいをプランニングすることとなった建築家の竹内直樹さん。高さ制限、土地のいびつな形状や高低差など、厳しい条件をクリアして完成した3階建ては、鉄筋コンクリート造と木造のハイブリット住宅でした。狭小な土地にありながら、家族4人が快適に暮らせる住まいの秘密に迫ります。

建物に囲まれた平屋でも、たっぷり採光。 明るく開放的な「光井戸のある家」
施主さまのご要望は、「日当たりの良い明るい平屋」。けれど隣地には3階建ての住宅があり、採光はかなり不利……。それでも、建築家の吉田祐介さんは要望通りの明るく開放的な住空間を実現。どのようにして環境のハードルを乗り越えたのだろうか?

日本最北端の厳しさでも快適に、デザインも諦めない工夫とは?
毎日、雪かきをしなければ生活できない北海道稚内市の住宅では、雪対策・防寒対策が何よりも重視されます。そうした生活ニーズとデザインの両立は難しいと多くの人が思っていた場所に2014年、機能も充分に満たしたデザイナーズ賃貸が誕生しました。

天空の別荘地で気分転換 願いを叶えたリフレッシュ空間
週末は箱根の別荘で過ごしたいと、芦ノ湖高原別荘地に土地を購入されたAさま夫妻。建築家の米村さんは、駿河湾と富士山の眺望を最大限に楽しめる、別荘だからこその開放感に溢れた空間をつくり上げた。非日常感を満喫できる「ワクワク感」満載の別荘の秘密とは。

敷地に対し斜めの動線で眺望を確保 大胆な発想で実現した美しく暮らしやすい家
新築する自宅では、夜景を楽しみたいと考えられていたお施主さま。候補となる土地が見つかったものの、当時残っていた家ではとても景色がいいとは思えなかった。同行した建築家の石さんにとっては、この場所こそベストだったという。敷地の形にとらわれず、斜めに向かって大開口したことで思い通りの暮らしを叶えた。

緑あふれるテラスとLDKが1つになる。 家族の憩いを楽しむリゾート風邸宅
「リゾート風の空間で家族の時間を楽しみたい」。施主さまのそんな願いをかなえたのは、内と外のつながりを豊かに生み出す設計に定評のあるdesus(デサス)建築設計事務所。家づくりの新たなスタイルとなり得る「0LDK」の間取りも要チェックだ。

自然に囲まれ、便利に暮らす!妥協できない矛盾に答えた素材使い
お互いの定年を数年後に控えた、Yさんご夫妻。「庭をつくり、緑あふれる生活がしたい」、「とは言っても、今の便利な住環境は気に入っている」、そんなふたりの希望を叶えるために、建築家・松本直子さんがつくりあげた家とは?

