
狭小でも明るくほっこり
1階と2階が緩やかにつながる家
本質は何かを見極め
リビングはあえて2階に
実は、施主のOさんと藤江さんとは、大学の同じ研究室で共に建築を学んだ同級生なのだとか。Oさん自身も建築家で普段は、ビルなどの大きな建築物に携わっているという。当初は自分の手で自邸の設計を行うことも考えていたというが、住宅建築の経験も豊富で、大学時代からその手腕に一目を置いていた藤江さんに設計を依頼することにしたのだという。
Oさんには、藤江さん以外にも同級生や先輩・後輩、仕事で知り合った建築家が多数いるはことだろう。そのような中藤江さんに設計を依頼したということは、藤江さんは「この人に自邸を任せたい」とプロに選ばれる建築家だといえる。
こうしてOさん邸に関わることになった藤江さんだが、その藤江さんを悩ませる難題が敷地の小ささとコストだったという。旗竿地であるこの土地は、建物を建てられるスペースが約40㎡と狭小だったのだ。そのような土地の制約の中、「子どもたちがのびのびと遊べる家」「奥様の趣味でもある植栽が楽しめる家」というリクエストだった。
このリクエストに対し、藤江さんはリビングを2階、寝室や子供部屋を1階とするプランを提案した。実はOさんご夫妻は当初、リビングは1階にと考えていたのだという。「1階に子供部屋があると帰ってきたことがわからない」「2階リビングでは、宅急便などでいちいち1階に降りるのが面倒」というのが理由だった。
しかし藤江さんは、あえて2階リビングプランを提案した。それは「最も長い時間過ごす場所が、最も快適であるべき」という本質的な考えからだった。この土地は、南側が駐車場に面しているため、2階部分の前は空中が大きく開けている。太陽の光が差し込む、開放感抜群の2階こそ、家族が集い寛ぐリビングに相応しいと考えたのだ。その上で、1階と2階とは、設計上の工夫で空間のつながりをもたせ、上下階が隔絶しないようにする。また、構造面でも下階に小部屋があるほうが安定するということも伝えたところ、Oさん夫妻も2階リビングに賛成してくれたという。
実際、入居後は2階のリビングやバルコニーは、日差しも入り冬も暖かく、家族皆がほとんどの時間をリビングで過ごしているのだとか。
藤江さんは、設計をする際「本質は何か」を大切にしている。施主のリクエストをただ言われた通りに実現するのではなく、その要望の本質は何なのかを考え、真に叶えたいことを探るのだ。そこから導き出された答えが、時には施主が当初思い描いていたものと違うこともある。しかし実際に住んでみると「このプランを提案してもらってよかった」となるのだ。
住まう人の生活を考えた上で、施主の予想を超えた提案を行い、そして住みよい暮らしを実現してくれる。それは、ハウスメーカーから家を買うというのではなく、建築家に1から家づくりをしてもらうことの醍醐味だ。藤江さんは、まさにその醍醐味を味わわせてくれる建築家だといえる。
1つの造作にいくつもの役割をもたせ
1階と2階のつながりをもたらす
玄関を入り、最初に目に飛び込んで来るのは、2階への階段。ふと階段の踊り場に小窓があることに気づく。この小窓は子供部屋の中、さらにはその先の大窓まで見通せるようになっており、屋外の植栽が、小窓を通して玄関から望める 。また2階からの明かりが階段へ降り、さらに子供部屋へと降りてくる仕組み。子供部屋にいる子供の気配を感じ取るのにも役立つのだという。子供部屋は、将来は壁を建てることで2分割できるよう、窓も2つ設置するなど子供の将来のこともしっかりと考えられている。このほか、1階には夫婦の寝室と洗面・風呂場が設けられた。
階段を登り2階に上がると、木の温もりを感じる開放的で明るいリビングが広がる。天井は木の現しで空間の広がりをもたせた。そしてこのリビングに開放感をもたらしているのが、大きな掃き出し窓と、その先に広がる土間を彷彿とさせるバルコニーだ。このバルコニーはOさんお気に入りのスポット。ハンモックを吊るし、のんびり読書するなど癒しの場ともなっている。
このバルコニーの上には、深い庇がかかっており、雨や夏の日差しを適度に遮りながらも、必要な陽光を室内に導いてくれている。また、バルコニーには植栽帯があり内部と外側とをゆるやかに隔てている。
「中からは外の景色の一部としての役割、外からは家の中のプライバシーを守る役割も果たしています」と藤江さん。植物好きな奥様の「植栽をたくさん」というリクエストに応えただけでなく、植栽にいくつもの機能をも持たせてしまった。
1つのものに複数の役割をもたせたのは、植栽だけではない。
よく見るとこのリビングにはあまり収納家具がない。その代わりにタテ・ヨコ40cmで統一した木のフレームで作られた棚が設けられている。実はこの棚に秘密がある。棚として本やモノを収納する場所としての役割はもちろん、階段の踊り場ではちょっとしたベンチの代わりにもなるし、ロフトへ行くときの手すりの役割も果たす。そしてもう1つこの棚には重要な役割が。それは、光と風の通り道としての役割。棚に背や扉がないことで、モノを置いたとしても隙間から風や光が通り抜けてくれるのだ。このフレームのデザインは、掃き出し窓の障子部分にも使われ、デザインの統一を図っているほか、規格寸法の板材からちょうど切り出せるサイズで設計されており、コスト削減にもつながっているのだという。
さらに「光と風の通り道」という点では、階段にもその工夫が施されている。この家の階段は、蹴込み板を廃した透かし階段となっており、狭小ながらも「階段は広く取りたい」というOさんの要望や、1階と2階を隔絶せず一体感をもたせるための工夫だ。
1つのものにいくつもの役割をもたせ、結果として施主の望むことを全て叶えてしまう、藤江さんの力量には驚かされるばかりだ。
建築家が家をつくっていく上で、全て自由にできることはあまりない。土地の制約、コスト面など様々な困難にぶち当たるだろう。その困難を藤江さんはいつも乗り越え、顧客が満足する建物をつくりあげてきた。それは、常に「その家はどうあるべきか」「家族はどういう暮らしがしたいのか」という本質に向き合ってきたからなのだろう。
藤江さんは、建物をという箱をつくっているのではない。建物を中心として、そこに住まう家族はもとより、訪問者やご近所さん、さらには光、風、植物といった自然まで含んだ「環境」をつくっているのだ。藤江さんの父でもある建築家、藤江通昌さんがESPAD環境建築研究所という事務所の名前に、あえて「環境」の言葉を入れた思いが、ずっと変わらず受け継がれている。
間取り図
基本データ
| 所在地 | 東京都小金井市 |
|---|---|
| 敷地面積 | 85.1㎡ |
| 延床面積 | 67.83㎡ |
| 予算 | 2000万円台 |
| 施主 | O邸 |
撮影:井上登
設計者情報
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