
北海道住宅の断熱性能を道外で!
書斎のある省エネ住宅。
開けた窓でウッドデッキとリビングを一体化
「大きな買い物なので、いくら友達とはいえ、奥さんからの信頼がないとうまくいきません。でも、ありがたいことに『遠藤さんが言うならお任せします』という太っ腹な方だったんで、それに助けられた場面もありました」。遠藤さんは謙遜しながらそう語る。
2階にあるリビングに入って、まず眼に入るのが大きな窓とその先に広がるウッドデッキ。施主の要望のひとつがそれで、広い物干し台のような外に出ることのできるスペースがほしかったそうだ。
「広い物干し台というキーワードから、デッキとリビングをスライドドアでつなげるという案が浮かびました。ドアを開ければリビングとデッキを一体化させることができ、広く使えます。特に夏はドアを開け放って、開放感のある空間にできるなと思いました。」
本の収納量にこだわって家中が本棚に
「本人たちも何冊ぐらい持っているのか把握できていないくらい本が多いんです。ひとつの棚の収納量を増やすために、図書室部分は、床を下げることで天井を高くしました。床を下げるのだけならコストもそこまでかかりません」
図書室は、1階の廊下に「図書スペース」として設置された。「ひとつの独立した部屋にしてもよかったんですが、1階部分はむき出しの打ちっぱなしですし、暗い印象になりがち。図書室という部屋にしてしまうと、圧迫感がありすぎると思いました。廊下自体の圧迫感も減らしたいと考えたとき、廊下に図書室スペースを併設すれば、多少開けたスペースもできるし、窮屈な感じもなくせると思いました」
廊下と図書室の間を仕切る壁が本棚になっている。設計の途中、ここにも、天井までの高さの本棚を入れて欲しいという要望があったそう。「背板を透明の板で作った本棚にすれば、多少光が入るので圧迫感もなくなるかなと。でもやっぱりもう少し明るいほうがいいし、必要になれば後から本棚を足せばいいねということで、今の形になりました」と遠藤さんは語る。廊下と図書スペースの間の本棚は、背を低めにすることで、図書室にある窓から太陽の光が廊下に射しこむようにすることができたそうだ。
そして、ランニングコストの低さもこの家の特徴だ。1階は鉄筋コンクリートの打ちっぱなし。そうすることで、耐久性を高めることができる。外壁にもガルバリウム鋼板という、ほとんどメンテナンスのいらない素材が使われている。
「サイディングや塗装といった壁のメンテナンスをする際は、足場を組む必要があるので、それだけでもお金がかかってしまいます。もちろん実際の作業費や材料費もかかります。そのためできるだけメンテナンスの必要がない素材がいいと思いました」と遠藤さん。
しかし全部がガルバリウム鋼板だと、色味が強すぎてしまう。そこで施主さんが脚立に乗って手が届く範囲だけは木を使い、ぬくもりを感じるデザインにしたのだ。遠藤さん曰く、「自分たちでメンテナンスできる範囲」で設計することが、ランニングコストを抑えるコツだ。
住み心地のよさを実現する上で欠かせない断熱性能
「住み心地のよさを決める上で、室内の温度は欠かせません。イニシャルコストとの兼ね合いもありますが、できるだけ断熱性能を高めること。それだけでも住みやすさはぐっと上がるし、光熱費も抑えられます。家を建てるとき、光熱費も含めてコスト試算をしますが、正直光熱費は今後どうなるかわかりません。電気代がもっと上がるかもしれないですし。そのため、総合的な費用を抑えるには、『できるだけエネルギーを使わない』をキーワードに考えるのが大切です」。
鉄筋コンクリートには、外断熱を高める効果もあり、夏は涼しく、冬は暖かいため、冷暖房費の節約にもなる。「ただ、素材自体にコストがけっこうかかるので、鉄筋コンクリートは1階だけ。2階は、木造にしていますが、天井を厚くしているので直射日光の影響を受けにくく、夏の気温上昇を抑えることができます」と教えてくれた。
また、設備面でもエコキュートやヒートポンプを採用し、ランニングコストを抑えた。
今回の件に限らず、断熱性能の高さは、これまでも遠藤さんが意識してきた部分だ。「冬に東京に行ったとき、家のなかと外の温度が変わらず、帰ってもすぐにコートが脱げなくて驚きました。外の気温は北海道のほうが寒いけれど、室温は北海道のほうが暖かいんです。東京の建物は断熱性能が低いので、エアコンをつけたときも結露し、窓が濡れてしまいますし」。
そこで提案するのが、予算の配分を少しでも多く断熱にかける家だ。実際に今回のケースも、2階の木造部分の壁と天井には、GW(24Kg品)150mm・250mmという北海道と同じレベルの断熱材が使われている。ほかにもスウェーデンメーカーの気密性と断熱性の高いトリプルガラス木製サッシを採用し、外の空気を室内に入れず、室内の空気を外に出さないための工夫をいたるところに施した。
実際に、今年初めて冬をこの家で過ごした中島さんからは、「今までの家より暖かかった」と感想をもらったそうだ。
「窓にお金をかけても見た目はそれほど変わりません。でも、室温問題を解決することができます。くつろぐ場所であるはずの家のなかで、寒さに縮こまっていては、もったいない。断熱性を考えるだけで、一気に家は住みやすくなります」。
遠藤さんは北海道在住だが、これまでも東京や大阪、名古屋など日本全国様々な場所で仕事をしてきた。今後もその姿勢は変わらない予定。北海道で育ったからこそ冬の寒さ対策をよく知っている。その知識を北海道以外の地域でも活かし、今後も快適に過ごせる家を提案し続けていく。
基本データ
| 所在地 | 宮城県 仙台市 |
|---|---|
| 敷地面積 | 177.66㎡ |
| 延床面積 | 132.99 ㎡ |
| 家族構成 | 夫婦+子ども1人 |
| 施主 | N邸 |
設計者情報
この実例を見た人はこちらも読んでいます

“スープの冷めない”程よい距離感。 二世帯住宅における、ひとつの最適解。
県道から坂道を上った小高い住宅地に佇む、落ち着いた雰囲気のL字型の住宅。ここは、みのわ建築設計工房の箕輪裕一郎さんが設計した自邸「大泉寺の家」だ。「二世帯の距離感」をテーマに、自身が生まれ育った家を建て替え二世帯住宅としてプランニング。さて、箕輪さんが導き出したその「距離感」とは。そして、家を設計する際にいつも心がけていることとは──。

ペットがいてもインテリアをあきらめない。 犬猫専門建築家がつくる大満足の住宅とは?
ペットと暮らす家をどうつくるかは、飼い主にとって大事なテーマ。でも、「ペットのための何か」を加えただけでは、人もペットも真の満足感を得られない。ではどうするか? その答えは、犬猫専門建築家・廣瀬慶二さんの自邸兼アトリエにあった。

建物に囲まれた平屋でも、たっぷり採光。 明るく開放的な「光井戸のある家」
施主さまのご要望は、「日当たりの良い明るい平屋」。けれど隣地には3階建ての住宅があり、採光はかなり不利……。それでも、建築家の吉田祐介さんは要望通りの明るく開放的な住空間を実現。どのようにして環境のハードルを乗り越えたのだろうか?

元に戻すのではない、進化させるのだ 古民家リノベの新機軸
築120年を超える古民家のリノベーションとなると、外観はできるだけそのまま活かし、内装を現代風の間取りや設備で利便性をもたせるというのが定石。そんな古民家リノベに一石を投じるような、大胆なフォルムのリノベを行ったのは、ご夫婦の建築家ユニット可児さんと植さん。 古民家が生まれたときの原点に立ち返り、「本質」はそのままに、現代に生まれ変わらせたリノベーションの新機軸に迫る。

「こだわりキッチン」と「ストレートダイニング」がある家
自宅を新築するにあたり第一のご希望は「理想のキッチンをつくること」だったという M 様ご夫妻。設計事務所を選ぶ段階から、奥様はすでに置きたいシステムキッチンのメーカー は決めていたのだという。設計・施工を担当した株式会社ホープスの代表、清野廣道さんと、 M 様ご夫妻にどのようにして理想のキッチンだけでなくご家族のライフスタイルにぴたり と沿った家をつくり上げたのかを伺った。

北海道、離れ、定年後…すべての条件を調和した自然素材空間
ご自宅に隣接した敷地に、終の棲家(ついのすみか)となる「離れ」として計画されたOさん邸。これから年齢を重ねていくご夫婦がゆったりと暮らせる、ワンルームのような伸びやかな空間が広がります。リビングダイニングの中心には、1枚の壁が。そこには、雪に閉ざされる北国の住宅で、少しでも自然光を感じながら快適に毎日を過ごすための工夫が集約されていました。

2人だけの日常も大人数が集まるひとときも 夫婦の願いを叶えた数寄屋造りの邸宅
子育ても終えた夫婦にとっての理想のすまいとはどんな家だろう。夫婦2人が寄り添って暮らす程度のコンパクトなものが良いのだろうか。それとも、子や孫、親戚、友人など多くの人が集える広い家だろうか。この相反する要素を1つの家に見事に詰め込み、夫婦の理想の暮らしを実現させたのは、やまぐち建築設計室の山口さん。プライベートとパブリックを両立させたこの家の秘密に迫る。

タワーマンションを完成前に自分色に 建築家と共に「プレカスタム」した理想空間
新築マンションを購入したものの、標準仕様では理想のホテルライクな住まいには届かない。完成後に壊してリノベーションするのは、お金も時間も資源も無駄だ。ならば着工前に交渉して、自分色に染められないだろうか。そんな施主の想いに応えるため、建築家は通常の「設計」「施工監理」に加え、「交渉」という第三の役割を担った。10年来の信頼関係で結ばれた施主と建築家が、粘り強い対話を通じて実現した「プレカスタム」の全貌に迫る。

小さな要望から本音を引き出す!家族を幸せにした家づくりとは?
Oさんご夫婦の明確な要望は、ふとんを外に干したいという1点のみ。でも、きっと言葉になっていないだけだろうと、建築家の樋口さんは家の話を続けました。Oさんご家族にとって心地よい空間に欠かせないもの、それは「気配」でした。
