
趣味も仕事も!
「思い出の実家」のリノベは生き方をどう変えた?
そば打ちやおもてなし。夫婦それぞれが好きに使えるカウンター
「わたしが結婚して家を出たあと、ここには両親が住んでいました。その後ふたりとも亡くなり、当初は売りに出していたんです。ところが『売却後は家を取り壊し、庭もすべて更地にする』と聞いて。実は、庭に植えられている松の木は、両親がことのほか大切にしていたもの。思い出の詰まった木まで切られてしまうとなったらいてもたってもいられず『だったら改修工事をして、私たち家族が住もう』ということになりました」と奥さまは振り返る。
「最初に打ち合わせをさせていただいたときは『キッチンのみの簡単なリフォームを』と考えていらっしゃったそうです」と、設計を担当した建築家・秋山怜史さん。でも、と奥さまは笑う。「改築したらこんな風に住みたい、という私たちの希望も、この家で起こった色々な昔話も全部聞いてくださった秋山さんの『1階をまるごと改修する』というご提案がとてもすばらしくて。主人も賛成してくれたので、キッチンだけという当初の計画を変更し、秋山さんのプランでいこうと決めたんです」
料理づくりやおもてなしが大好きな奥さまの希望のひとつは、作業しやすい大きなカウンター。そのオーダーに応え、秋山さんはモルタル仕上げの広々とした変形カウンターを設けた。「モルタルはシミがついたり、ヒビが入ったりする可能性もないわけではない。その反面、使い込むと独特の光沢が生まれ、なんともいえない良い風合いになります。そういったモルタルの特徴を楽しんで使ってくださっています」と秋山さん。奥さまも「これだけ大きくとっていただいたので、手狭さを感じることなく調理ができます。床を土間にしたのも掃除がしやすくて、本当に使い勝手がいいですね。おかげで台所に立つ時間が増えました」と大満足の様子。
カウンターの一部はダイニングスペースにせり出している。ダイニングはキッチンよりも一段高くなっているため、座って使うのにちょうどいい高さ。「カウンターがちょっと変わったこの形になったのは、ご主人の希望が『そば打ちのできる場所がほしい』ということが発端なんです。カウンターの端の部分は床が高い分、そば打ちをするのにちょうどいい高さになりました」と秋山さん。「打ち合わせのときに、主人が出した唯一のリクエストなんですよ」と、奥さまが笑顔で付け加えた。
視線の抜け、明るい色調。部屋を広く見せるテクニック
広く見せるテクニックはほかにもある。「仕切り壁の上部に天井を照らすような形でライトを入れ込みました。間接照明には奥行きを感じさせる効果があり、実際よりも広い印象を与えることができます。さらに、ダウンライトや床置きのフロアランプなど、高さの違う照明をバランスよく配置し、立体感のあるインテリアを提案しました」。庭側の増築部分はすべてガラスサッシに。「太陽の光や風がたっぷり入るので、開放感があるのもうれしいですが、いちばんの喜びは庭に植えられた松の木がよく見えること。草木の手入れも楽しんでいます」
リノベーションしていちばんよかったことは?という問いに、奥さまはこう答えてくれた。「いかに仕事をしやすくするか、という要望もお伝えしながら改築した結果、立派なワークスペースもつくってもらいました。だから、今まで以上に仕事をがんばろう、と竣工当初は思っていたんです。だけど、暮らしていくうちに、料理の面白さや草木の手入れをする喜びなど、仕事以外で感じられる楽しみをあらためて知ることになりました。これまでがんばってきた分、今は仕事をセーブし、ゆったりと毎日を過ごしています。住まいを変えることで、気持ちまで変わっちゃった。私にとって秋山さんは『生き方を変えてくれた人』なのかもしれませんね
【秋山怜史さん コメント】
Kさんご家族には何度もお話する機会を設けていただき、この家にまつわる思い出をたくさん伺いました。そうすることで「残したいところ」と「改善したい部分」が明確になり、まったく新しい間取りでありながらも、どこか昔の記憶を呼び起こさせるような空間ができたと思っています。空間に合わせて設えたテーブルやスツールを含め、Kさまにはとてもご満足いただき、完成から5年が経った今でも家族ぐるみのお付き合いをさせていただいています。
【夫婦】
築40年ほどになるこの家を、こんなに快適な住まいにつくり替えてくださった秋山さんには、本当に感謝しています。暮らし始めてからもう5年。その割には汚れなどもつきにくく、ずっと気持ちよく過ごせています。秋山さんは内装に合わせた家具の設計や、照明器具のセレクトなども請け負ってくださり、プロならではのインテリアの仕上りにはとても満足。この出会いを大切に、これからもいろいろとご相談させていただこうと考えています
基本データ
| 家族構成 | 夫婦 |
|---|---|
| 施主 | K邸 |
設計者情報
この建築家が建てた家
この実例を見た人はこちらも読んでいます

住みよさと収益性を両立 賃貸住宅のあり方が変わるこれからの長屋
賃貸の集合住宅の建築は、入居者にとっての住みよさはもちろん、オーナーにとって確かな収益をあげる物件であることが必要。その両方を満たし、さらには地域活性化・街づくりにもつなげようと建築家の大川三枝子さんがつくったのは、これからの新しい長屋でした。

二世帯、つかず離れず快適に。ジグザグ曲がった大きな平屋
広大な敷地に建つK邸は大きな平屋の二世帯住宅。中庭をぐるりと囲む建物は曲がりくねった独特のラインを描き、民家とは思えないほど洗練されたアーティスティックなデザインが特徴だ。だが設計した清正 崇さんによると、この形は二世帯だからこそ頭に浮かんだものだそう。 “長く、心地よく暮らせる二世帯住宅”は、なぜこの形になったのだろう。

壁を取り払いスケルトンに 中古住宅のリノベの一つの解
東京の都心近くで事務所兼自宅を持ちたいと考えていた、Lods一級建築士事務所の幸地俊一さん。予算に合った物件がなかなか見つからない中、出会ったのが築32年の鉄骨造4階建ての住宅でした。

狭小でも明るくほっこり 1階と2階が緩やかにつながる家
深い庇に切り取られた豊かな緑が美しい広々バルコニー。木のぬくもりを感じる開放感抜群のリビング。狭小地であることを感じさせない、居心地の良い住宅を設計したのは、ESPAD環境建築研究所の藤江保高さん。狭小・ローコストという難題をクリアし、家族4人が快適に暮らせる住まいの秘密に迫る。

つくるのは、住まいではなく暮らし 今見直される、これからの暮らしのカタチ
コロナ禍において、通勤することを前提とした住まいが見直されつつある今日。 いち早く都心の喧騒を脱し、ワークライフバランスを確立されている建築家、増木奈央子さん。 街にいながらも、自然豊かな環境でゆったり過ごす「トカイナカ」暮らし。 そこには、ポストコロナに相応しい、人間本来の暮らしがあった。

素材も間取りも理想を現実にした、納得と愛着の家づくりとは?
無垢のフローリングに漆喰の壁、天井まで届く南向きの大きな窓。東京の下町にあるKさん邸は、周囲を住宅に囲まれているとは思えないほど開放的で明るいお住まいです。家族が一番長い時間、一緒に過ごすリビングを中心に考え、さまざまな工夫でコストを抑えながら、希望どおりのマイホームをつくりあげました。

可動の家具で緩く仕切ったモダンなワンルーム空間
1977年築、2LDKのマンションをリノベーションして出来上がったのは、広いワンルームに、そっと生活の補助線を引くように家具を配置した開放的な空間。リフォームに向く物件探しから家具探しまで全面的に協力したという、建築家こだわりの家づくりを覗いてみよう。

緑を眺めてゆったり、食卓で賑やか。戸建ならさまざまな空間を!
静かな時間も賑やかな時間もバランスよく織り交ぜて

風格漂う佇まいと住み心地のよい上質空間。 災害から家族を守る、強く美しい家
地震や津波が気になる地域で、建て替えを依頼された建築家の齋藤文子さん。施主さまの思いをくみ取って設計したのは、万全の災害対策を施した家。本物志向の素材や先代から受け継いだものもセンスよく取り入れ、家族を守る強く美しい住まいをつくり上げた。









