
住まい手基準の気持ちよさの追求。
両親への想いが詰まった平屋
古くから住む場所に調和し、年齢に合わせた設備と暮らす
そんな現状を聞いた設計事務所STUDIO COVOの山口さんは娘さんの話をもとに、ご両親に提案するプランを考えた。「ふたり暮らしなので大きな家は必要ない、コンパクトな住まいにして冷暖房の費用も抑えたいというお話でした。年に数回、親戚が集まったときに大勢で使える部屋と、お母さまが近所の方とおしゃべりできるスペースが欲しいとご希望でした」。
敷地の周辺は周囲を山に囲まれ、田んぼが広がるなかに赤い瓦屋根の農家が点々と見えるような風景だ。隣近所は顔見知りだから昼間は鍵をかけない。山口さんは土地柄を考え、誰でも気軽に入ってこられて長居もできる土間をプランの中核に据えた。近所の人が家で獲れた野菜を手に、土間から勝手知ったる様子で入ってきて、もてなし上手のお母さまと話し込む、そんな絵が浮かんでいた。
ところが、娘さんと一緒に広島のご両親へ提案しにいくと思いがけない指摘があった。東京でつくってきたプランでは土間から出入りするため玄関をつくっていなかったのだが、ご両親にとって玄関は非常に重要な存在だったのだ。「コンセプトは気に入ったけれど、玄関は家の格を表すものだから最低でも建て替え前の家と同じ幅の玄関が欲しいと言われて。玄関がないと家だと思えないということでした。東京に住んでいると分からない感覚で、そういった風習を知るのは面白かったですね」と山口さん。ハウスメーカーが建てたような住宅はほとんどなく伝統的な様式の家が並ぶ、その土地ならではの感覚を理解しようと慎重に打ち合わせを進めた。
その一方で、娘さんのご要望である快適な生活環境も検討した。高齢の身には冬場の寒さも応えるが、心配なのは温度差だ。急激な血圧の変化によるヒートショックは避けなければならない。終日、広い平屋を満遍なく暖めるため、山口さんは寒冷地で使われる暖房をとりいれることにした。床からの輻射熱で暖める地中埋設床暖房で、深夜電力を使って夜のうちに床全体を暖める。設定温度になると自動でスイッチが切れ、そのまま1日過ごしても温度は2〜3度しか下がらない。
「朝起きても寒くないとご両親も大喜びでした。」と山口さん。まず家を暖めることが日課だった冬の朝が大きく変わった。
ご両親の家というものに対する考えと東京で暮らす娘さんの心配、そのどちらもじっくり受け止めた家づくりになった。
長く暮らしてきた和の使い心地を残した、和洋折衷の空間
熱を逃がさないようペアガラスを入れた窓の内側には、腰がなく組子の間隔を大きくとった障子が入っている。「ここに障子を入れたのは、お住まいになるご両親を考えたからです。年をとってから大幅に生活スタイルを変えるのは大変でしょうから」と山口さん。
襖を入れると和が強くなり過ぎてソファとテレビに合わないため、襖の代わりに真っ黒な合板の引き戸を使った。それでも、隣の客間との間、土間側や庭側の通路との間をすべて引き戸にしてある使い勝手から、和室のような印象を受ける。普段は座敷と客間の戸を閉めて使い、お盆やお正月に親戚が集まるときには全開にして広く使う。
畳の代わりに床に使ったのはサイザル麻だ。ざっくりした編み目と自然の素材の風合いは畳に通じるものがあり、思わず裸足で歩きたくなる。「竣工後に娘さん家族とお邪魔したとき、まだ家具が入っていなかったんですね。ちょうど夏だったので、戸を開けて座敷に寝っ転がると風が抜けて、すごく気持ち良くて。ふわーっと山や田んぼの香りもするんです」と目を細める山口さん。
和室はこう、洋間はこうと決めつけてしまうことがどれだけもったいないか、住む人にとっての気持ちよさを基準にすることがどれだけ大切なことかを改めて思い知らされる。
基本データ
| 所在地 | 広島県安芸高田市 |
|---|---|
| 敷地面積 | 914.15㎡ |
| 延床面積 | 117.55㎡ |
| 家族構成 | 夫婦 |
| 施主 | B邸 |
設計者情報
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