
北向きなのにこんなに明るい!
日光の力を最大限に引き出した家
こだわりの家の向きからできた、ガーデニングに最良な庭
「もともとはこの2軒を合わせた大きさの、一戸建てだったんです」と話すのはSTUDIO COVOの山口健太郎さん。当初は一戸建てをそのまま残すかたちで、耐震補強とリノベーションをしたいと相談を受けたのだとか。しかしさまざまな理由が重なり、最終的に家の半分は残して耐震補強とリノベーションをし、半分は一度壊してあらたに建てることになった。リノベーションした家には賃貸併用で娘さんご一家が住み、新しく建てられた家にお母様が住む計画だ。「建物の世代を紡ぐ、と言うのでしょうか。全てを壊すのではなく、残せるものは残す、という選択をすることもできます」
新築するのはお母様が一人住まいをするコンパクトな家。「ガーデニングを楽しみたい」「快適に暮らしたい」との要望に応えるべく家づくりがはじまったが、大きな課題があった。
この場所は木造の住宅密集地で、南は隣家が迫っており、北は道路。家を建てるセオリー通り南向きにすると光を採り込みにくく、家の中を明るくできないのだ。「日照のシミュレーションもしてみましたがやはり、あまり日が入らないことがはっきりとわかりました。それに、大きく窓をとってもすぐ目の前に隣の家があるわけですから、目線が気になりそうだという心配もあります」と山口さん。そこで、あえて北向きの家を建てることにしたのだと言う。
「北側に向けた住宅をいいものにする工夫」として山口さんがまず考えたのは家の向きだ。広々として、かつ、明るい庭にするために考えられ計算された向きなのだと言う。「道路に平行に家を建てると、庭が横に細長くなるのでスペースを生かしきれません。それに、庭に面して窓を取っても、道路までの距離が近くなってしまいます。かといって家の向きを道路に対して垂直にすると、今度は庭の正面に娘さんの家がある状況になり、せっかく道路に面しているのに閉塞感がある庭になってしまう。ちょうどいいのがこの東西方向のナナメの角度でした」
次は庭に影を落とさない工夫だ。家の中はスキップフロアを取り入れ、2階に当たる部分を家の奥に寄せた。屋根を高い位置から庭に向かって極端に低くしたことで、南からの光が屋根を滑り落ちるように庭へ差し込む。こうして、庭に陰が落ちないばかりか「直射日光が庭に降り注ぐので、植物も元気に育つと思います」とまさにガーデニングにうってつけの庭ができあがった。
北側の窓は極力小さくするのが一般的だが、これだけ庭が明るければ気持ちのいい間接光が室内に入るため、リビングいっぱいに大きく開口。優しい光に満ちたリビングからは、これから青々と茂る草や色とりどりの花を楽しめるようになるだろう。
庭から入る柔らかな光と、リビングにある大きな天窓から入る豊かな光。加えてハイサイドライトを補助的に使うことで、家の中は本当に明るい。さらに寝室の壁際や来客室などにも小さな天窓があり「いろいろなところから細かい光が入って来るので、時間とともに光が移ろいでゆくのを感じることができます」と山口さん。「日光は偉大ですが使い方を間違うと不快にもなります。大切なのは光の量よりも質なんです」。山口さんは、その偉大な力を余すところなく取り入れられる、工夫にあふれた家をつくりあげた。
広々、だけじゃない。スキップフロアがもたらす快適な暮らし
その利点とは何だろう。お母様のご要望のひとつに「花粉症対策」があった。そこで山口さんは、大型のロスナイ・セントラル換気システムを採用。外気をとりいれる場所は1箇所。セントラル換気により花粉等を除去し、それぞれの季節に適した温度へ熱交換された空気が、パイプを伝わって家中に給気される。同時に部屋の中の空気が排気されるため、24時間常に換気ができ、花粉症に悩む季節も快適に過ごすことができるのだ。さらに、家中に送り込まれる空気は途中でたった1台のルームエアコンを使って温度調整をしている。そのおかげで夏の間は床がひんやり、冬には床暖房のような効果が得られ、益々の快適さに一役買っている。「室内を気持ちのよい温度に保つのと同時に、ドアや壁で部屋を仕切っていないので家の中をまるごと、いつでも空気清浄と空調をしているような感じです。これも、スキップフロアだからこそ生きた利点なんですよね」
探し出した可能性から、最大限の力が発揮できるように工夫を組み合わせた家づくり。ただ要望に応えるだけではなく、それぞれの工夫が相乗効果を生み出しさらなる心地よさへとつながっていく。
【山口 健太郎さん】
今回のようなケースは珍しいと感じられるかもしれません。ですが、古い家を建て直す場合は建ぺい率により今の家よりも小さくなるケースもあります。そのようなときにも、今回の手法はひとつの選択肢になります。
あえて北向きの家をつくる。その家をより良いものにするたくさんの工夫を詰め込みました。これから広々と明るい庭でガーデニングを、そして娘さんのご希望だったバーベキューも楽しんでいただきたいですね。
基本データ
| 所在地 | 東京都北区 |
|---|---|
| 家族構成 | 一人暮らし |
| 予算 | 3000万円台 |
| 施主 | B邸 |
撮影:アトリエあふろ(古川公元)
設計者情報
この建築家が建てた家
この実例を見た人はこちらも読んでいます

日本最北端の厳しさでも快適に、デザインも諦めない工夫とは?
毎日、雪かきをしなければ生活できない北海道稚内市の住宅では、雪対策・防寒対策が何よりも重視されます。そうした生活ニーズとデザインの両立は難しいと多くの人が思っていた場所に2014年、機能も充分に満たしたデザイナーズ賃貸が誕生しました。

ストーリーを感じる空間は極上の居心地。 視界いっぱいに海が広がる、美しい青瓦の家
沖縄県では珍しいという木造住宅を数多く手がける建築家の岸田さん。優れた性能を確保することはもちろん、デザイン性の高さも岸田さんがつくる住宅の魅力のひとつだ。気候や風土、地域と調和し、住まう人が愛着を持てる家はどのようにつくられるのか。作品のひとつ「グランブルーテラス」を例にとり紹介する。

わずか建坪9坪の狭小住宅とは思えない 光と風、そして広さを感じられる住まい
東京都品川区中延の、下町情緒が残る住宅地に建つ作品をご紹介しよう。敷地は16坪、建坪はわずか9坪という木造3階建ての狭小住宅だ。屋内に足を踏み入れると、その内部は驚くほど明るく、風が通り抜け、自然を感じられる。そして、数値以上の広さを感じられるのだ。この作品に込められた工夫の数々をご紹介しよう。

まるで避暑地の別荘のよう! 地域からも愛される、雑木の庭が気持ちいい住まい
平和公園にほど近い、閑静で緑豊かな住宅街に佇むKさん邸。「大きな窓から緑を感じたい」という施主の希望通り、敷地の南側に広がる庭には落葉樹と常緑樹がバランスよく植樹され、周辺の環境とも美しく調和しています。設計を手掛けたのは森建築設計室の森さん。「別荘地のような雑木の庭のある、住まう方からも、周りからも長く愛される家」をテーマに、果たしてどんな家が誕生したのでしょう。

好対照な個性を反映した、隣り合った姉妹の家を、同時に設計
都内の約50坪の敷地に、姉妹それぞれの家族が住む家を建てる。しかも1軒は、母との2世帯住宅。建築家の角倉剛(すみくら・たけし)さんが取り組んだのは、そんな手強い案件だった。両家でまったく異なる要望と、日影制限など都内ならではの細かな規制を受け止め、丁寧に実現していった角倉さん。その過程を、角倉さんに加え施主のS様・K様にじっくりとうかがった。

廊下、壁、格子が想像以上の奥行きを実現 住宅街でも気持ちよく視線が抜ける家
細長い敷地の特徴を生かし、奥行きが感じられる家にしたいと考えられていたお施主さま。建築家の神谷さんは、ただ見通しをよくするだけでは十分な感覚が得られないという。その先を予感させる壁などの配置により、長い廊下を生かし切って奥行き感だけでなく、暮らしやすさ、豊かさも申し分ない家をつくり上げた。

タワーマンションを自然素材の住まいに。 暮らしを豊かにするマンションリノベ
眺望や最新設備が魅力のタワーマンション高層階。でも、マンションの内装素材はビニールクロスなどの新建材が一般的。「マンションでも、天然の木や漆喰を使った自然素材の心地よさを味わいたい」という希望を見事にかなえ、“住まい方”までをも豊かにしたBois設計室のリノベーションを紹介しよう。

家とともに人生を歩む。 日ごとに愛着が増す、ゆとりある家
小山田剛さんが自宅兼事務所として建てたのは、温もりあるシンプルな家。建築家としてだけでなく、夫、そして父親としての目線からも考えられた住まいは、大らかに家族を包み込んでいる。小山田さんが家の中に散りばめた「小さな豊かさ」をひも解くと、家と暮らしにおいて本当に必要なことは何かが見えてくる。

借景がまさにアート!夢を贅沢に詰め込む、こだわりの別荘づくり
ずっとマンション暮らしだったTさんが軽井沢に建てたのは、自然を絵画のように切り取り、家の景色の一部とした別荘だ。施主のTさんと建築家、佐藤さん。自然と融合した美術館のような家は、Tさんと佐藤さんのこだわりが詰まったアート作品だった。



