
土間縁側で内と外がゆるやかに繋がる
夫婦の時間も家族の集まりも心地よい家
仕事ぶりや自己研鑽姿勢に敬服し
実家の農家建築の建て替えを依頼
奥様と宇佐美さんは、宇佐美さんが名古屋で勤めていた設計事務所の元同僚という間柄。以来、友人関係でもあるとのことだが「友人だから依頼した」というわけではない。奥様自身は、建築士ではなく事務方だというが、仕事柄当然のように数多くの建築・建築士と関わっている。作品や建築士の仕事ぶりもつぶさに見てきた、いわば建築のセミプロ。そんな人が見直にいる建築士ではなく、わざわざ東京在住の宇佐美さんを選んだのだ。それは宇佐美さんが手掛けてきた建築の素晴らしさや、仕事ぶりを高く評価しているからに他ならない。また、宇佐美さんは独立後、数多くの仕事をこなしながら、現在も建築塾に続け、優秀賞を何度も受賞しているという。奥様は宇佐美さんのそんな自己研鑽を怠らない姿勢に敬服し、そのことも依頼をした理由の1つになっているという。
実は宇佐美さんへの依頼と並行して、地元の住宅メーカーにもプランづくりを依頼。比較検討の上、宇佐美さんが選ばれた。
友達のような関係性で施主と対話
本音を引き出し、プランに活かす
そんな環境だった元の家を、夫婦2人のいわば「大人の住まい」へと変貌させるリクエストは、大きく3つ。ご主人の趣味である漫画を収納し楽しめる漫画部屋がほしい。料理好きの奥様がパン作りをしやすいキッチン。そして、仏壇を納られる和室が欲しいということ。元の家で当然のように行われていた、親戚が集まり法事を行うといったことを、新しい家でも継続できるようにという希望だった。
建築家のメインの仕事の1つでもあるプランの作成。その前段階である「施主の要望をどうやって汲み取るか」の手法は、建築家によってさまざま。多岐に渡る質問が書かれたオリジナルのヒアリングシートを使う人、大まかな要望を聞いた上で、いくつものプランを提示し、それを叩き台としてブラッシュアップしていく人、施主とじっくりと対話し、施主の好みや性格を把握した上で家に望んでいることを引き出す人。宇佐美さんは「対話タイプ」の建築家だという。
「私はめちゃめちゃ質問しちゃいます。直接家づくりに関係のない趣味の話を聞いたり。いつの間にか『友達か!』という関係を築くのが得意ですね」と宇佐美さん。
「実は施主さんは、思っていることを上手く言葉にできないことも多いんです。ちゃんと伝えなきゃと思って居たりするので、つい部屋数だったり、何畳といったスペックをおっしゃったりします。でも大事なのは『どんな暮らしがしたいか』なんです」と宇佐美さん
宇佐美さんの話しやすい雰囲気もあって、友達のような近い距離感で対話が重なる。そうした中で、ポロっと本音が飛び出したり、施主の真に望んでいる暮らしが捉えられる。
M邸の家づくりにおいても、宇佐美さんが伝えた「元の家であったような、人が気楽に来れる感じはいいですよね」という言葉は、まさにMさん夫妻も大切にしたいと思っていたことだったという。
こうして「元の暮らしの良い部分は活かした、現代の暮らし」がテーマとなった。
このテーマを踏まえ、宇佐美さんが導き出したのは、室内に大きな土間縁側を設けること。そして独立した離れのような和室を設けるプラン。
ハウスメーカーでは、出てこないような、おそらく施主の想像を超えたプランだったが、Mさん夫妻はこれを採用。このプランがほぼそのまま建築されたという。じっくり対話を重ねるからこそ、施主に刺さるプランが出せる。宇佐美さんの仕事の真骨頂がここにある。
多様な使い方が可能な土間縁側と階段空間で
夫婦2人も集まった人も心地よい家に
一方、落ち着いた佇まいの玄関は、開けたときに中が丸見えにならないよう、木が植えられ緩やかに目隠しされている。玄関扉は、造作のドアノブなし、鍵穴も正面から見えない仕様。お店を訪れたような高級感を演出している。
邸内に入ってすぐの場所にあるのがLDK。庭に面した大きな掃き出し窓と、屋根勾配を利用し天井の一部が高くなっていることにより、抜群の開放感と明るさがもたらされている。そして扉を開け放つと、視線の先には土間縁側と和室があり、さらなる大空間へと変貌する。
宇佐美さんは、この土間縁側を元の家のオマージュの1つとして利用した。土間は内と外を緩やかにつなぐ中間領域。庭の景色や外からの光を感じ、明るさと開放感をもたらす。また実用性の高いユーティリティー空間だ。庭と土足で出入りすることができるため、何かの作業スペースとして活用したり、モノを置いたりするのにも重宝する。また、隣に住むご両親が和室の仏壇を訪れる際、いちいち玄関やリビングを通らずに気軽に出入りできる。友人やご近所さんもふらっと訪れ、靴を脱ぐことなく腰掛け話しをしていくことあるだろう。まさに昔の農家の暮らしが実現できるのだ。
法事や来客など、多くの人が集まるときは、この場にテーブルを出すなどすれば、リビングが拡張されることになる。奥様の友人達が、ワンちゃんを連れて遊びに来ても平気だ。
土間縁側という1つのアイデアがいくつもの機能と効果をもたらした。宇佐美さんの手腕には驚かされる。
8畳の和室は、琉球畳と堀炬燵、二面障子で現代風の和室とした。大きな仏壇のスペースは、ブルーの扉で隠せるようにして、部屋の雰囲気を壊さないようにという配慮も。仏壇下には、床置きでエアコンを設置。暖気が床下を通るのだという。
2階へ上る階段の先のホールには、漫画を収蔵できる大きな本棚が。宇佐美さんは、「漫画部屋がほしい」というご主人リクエストを額面どおりに受け取って部屋をつくるのではなく、漫画が置ける場と読める場があればいいと判断。本棚の前にはベンチも設け、階段とライブラリーを兼ねた。こうすることで、専用の部屋を設けるというムダを省けたのだ。これこそが宇佐美さんの真骨頂。施主が本当に望んでいることを的確にとらえ、目的をしっかり果たしつつ、望みを叶えてみせた。今では、ご主人だけなく、近所に住む弟さんもよくこの場で漫画を読んでいるのだという。
この家の出来栄えにMさん夫妻も「土間空間を色々楽しんでいる」「階段空間は、訪れた人の人気の居場所になっている」と大変ご満足の様子。
「まだ幼い甥っ子ちゃんたちがこの家に良く来るようになったらしいです。奥様が『お昼ごはんとか出したりして大変』と言いながらも、ニコニコして嬉しそうなご様子でした」と宇佐美さん。
この家は、大人の夫婦の家であり、子ども向けのものがある家ではない。それでもこの家に幼い子たちが居つくのは、Mさん夫妻のホスピタリティーはもちろんなのだろうが、この家の心地よさを感じているからに他ならない。
宇佐美さんは、施主の真の望みを叶えた家をつくるだけでなく、家を訪れる老若男女が心地よいと感じられる家をつくることができる建築家だ。
基本データ
| 作品名 | 土間縁側のいえ |
|---|---|
| 所在地 | 愛知県額田郡幸田町 |
| 敷地面積 | 689.01㎡ |
| 延床面積 | 109.84㎡ |
| 家族構成 | 夫婦 |
| 予算 | 3000万円台 |
| 施主 | M様 |
撮影:塚本浩史
設計者情報
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