
細長空間で実現した終の棲家
「クジラの家」
家に居ながらにして四季の変化や外部の景色を常に感じられる住まい
そこで、住まいづくりを相談したのが、建築家の矢嶋一裕さんだった。矢嶋さんは、設計だけではなく、土地探しからYさんご夫婦にアドバイスを行った。敷地は田園の中にある間口10m、奥行50mという特異な形状の土地をあえて選択。一般的には好まれない極端に細長い形状の土地だが、おおらかな環境とすべての居室を南向きに配置でき、家の内部と外部が一体化したようなユニークなプランの家が建てられると考え、矢嶋さんはYさんご夫婦にお勧めしたとのこと。
矢嶋さんは「Yさんご夫婦にとって、ここが終の棲家となります。今はお元気で、遊びや旅行に出掛けることも多いようですが、リタイア後は家の中で過ごす時間が長くなるのは避けられません。そのとき快適であることはもちろんのこと、家の中に居ながらにして日々の変化が感じられる楽しい住まいにしたいと考えました。Yさんご夫婦が、日長テレビを観て過ごすような住まいにはしたくありませんでした。そこで、家の中と外が密接に繋がり、自然と庭の景色を眺め、四季の変化や窓からの刻々と変わる光を感じられるようなデザインにしました」と語る。
生活のすべては1階で完結し、テラスと水廻りを中心にLDKと個室を分けて配置。2階は絵が趣味のYさん婦人のためのアトリエとした。
単調になりがちなバリアフリー空間に変化をもたらす傾斜天井
将来を見据えて、床は当然のことながら段差のないバリアフリー住宅。単調になりがちな空間に変化をもたせるため、天井に高低差をつけたのが、この家の大きな特徴である。外観をみてもわかるように、テラスを中心に屋根はなだらかな傾斜を描き、端にいくほど高くなっている。「シンプルでありながらも、飽きのこない変化に富んだ世界を構築して欲しい、というのがYさんご夫婦のご要望でしたから」と矢嶋さん。床に高低差が付けられない代わりに、天井高や景色の見え方で変化をもたせたわけである。
家の中央に配置したデッキテラスはLDの延長として活用し、バーベキューなどを楽しむことができるが、実はそれだけではない。廊下を挟んですぐ近くに水廻りを集中的に配置したのは、洗濯をして、デッキで干し、取りこんで畳むといった一連の家事作業を、年齢を重ねて身体が衰えてもスムーズにこなせるように配慮したもの。また、キッチンも同様に、パントリーと戸外のゴミ置き場が隣接し、調理・食品補充・ゴミ捨てといった一連の作業がスムーズに行えるよう配慮している。
特別豪華な内装を施したり高価な調度品を置くという手法ではなく、床と天井に用いられている木の素材を生かした温もりを感じられるシンプルなインテリアが、かえって戸外の景色や光の変化を際立たせる。2階のアトリエもまたうらやましい限りのスペース。誰にも邪魔されず自分の世界に入り込める。今までの人生に対するご褒美のような空間だ。
この家に住み始めたYさんは、四季を感じられる庭と日当たりの良さに、とても満足しているそう。「夏は全部がつながっているのでどこでも風が通り抜けますし、冬は引戸でそれぞれの部屋が仕切れるので暖房することも問題ありません。」と話す。これからもこの家を舞台に、楽しいリタイアメントライフが続いていくに違いない。
間取り図
基本データ
| 所在地 | 埼玉県吉川市 |
|---|---|
| 家族構成 | 夫婦 |
| 予算 | 4000万円台 |
| 施主 | Y邸 |
設計者情報
この実例を見た人はこちらも読んでいます

限られたスペースを有効活用!築40年、37平米のマンションを素敵にリノベーション
都心にほど近い街で暮らす、kurachiffon 瀧内未来一級建築士事務所代表の瀧内未来さん。築40年ほどのマンションをリノベーションしたという物件は、自宅兼仕事場として、日々の生活を送りつつも、使い勝手や生活導線を考えながら設計をしていったそうです。以前は、日当たりや風通しがよいとはいえない部屋に住んでいたという瀧内さん。今回は、切望していた日当たり、そして風通しのよい新たな住居を造り上げていった過程や、リノベーションの魅力についてお話しを伺いました。

「展示場」として実際に見学できる 森の景観を活かしたホテルライクな邸宅
豊田市の住宅街にポツンと残された緑のなかに、『森にたたずむ邸宅』はありました。天然石による重厚な佇まいが目を惹くこの家を設計したのは長坂篤建築研究所(略称nalabo)。海外リゾートを思わせる、ホテルライクな邸宅の全貌を見ていきましょう。

緑あふれるテラスとLDKが1つになる。 家族の憩いを楽しむリゾート風邸宅
「リゾート風の空間で家族の時間を楽しみたい」。施主さまのそんな願いをかなえたのは、内と外のつながりを豊かに生み出す設計に定評のあるdesus(デサス)建築設計事務所。家づくりの新たなスタイルとなり得る「0LDK」の間取りも要チェックだ。

築40年マンションが洗練空間に一新。水まわりも移動して理想の間取りに
結婚を機に築40年のマンションをフルリノベーションした施主さまご夫妻。「難しい」とされることが多い水まわりの移動も行って間取りを変え、内装はシンプルモダンな洗練空間に一新。設計を担当した八田政佳さんに、思い通りの間取り・内装を実現し、長く快適に暮らせるリノベーションの秘訣を聞いた。

洋の家具もしっかり馴染む!上質で快適な”和”空間づくりとは
Mさんご家族は、30代の共働きご夫婦と小さなお子さん2人の4人家族。「四季や自然を感じられる、飾り気のない住まいを」という願いを受け、日本ならではの自然素材を用いた住宅建築を展開する建築家・加藤武志さんがつくりあげたのは、まさに「人、自然、家が一体となる安らぎの空間」だった。

再建築不可物件をリノベ自由な物件に 空き家再生の新機軸
年々深刻化を増している空き家問題。とりわけ「再建築不可物件」は、なかなか買い手もつかず、負の資産となることも多い。そんな再建築不可物件を自ら購入したのは、新築住宅の設計はもとより、空き家再生も手掛けてきた建築家、H2DOの久保和樹さん。久保さんは、どのように再建築不可物件を再生させたのか。

妻の趣味と夫の仕事を両立し、快適な暮らしも叶えた建築家の自邸
偶然に紹介された土地が運命の出会いとなり、設計事務所兼自邸を建てたいという気持ちがふつふつとわき上がったアトリエ住之舎の角野さん。ところが、奥様は土地に縛られるのがイヤで、持ち家にはかなり否定的だった。諦めきれない角野さんが、奥様を納得させ、ついに念願の一軒を完成させるまでの経緯を伺いました。

明るく広いLDKと多彩な収納で、すっきりシンプルな暮らしを実現
明るく快適なLDK、使い勝手の良いたっぷりの収納、そして無駄のない家事動線。施主のKさん夫妻が、それまで暮らしてきた家で感じた不満を解消すべく、建築家の北川裕記さんとともに家造り。居心地のよい空間、それぞれの用途にあった収納と動線の工夫とは?すべての要望を見事に実現した解答プランを見ていきたい。

2世帯住宅でも非日常の空間を実現!ひとつ屋根の下で心地良く暮らせる住まいとは?
食事、睡眠、家族との会話…。それはまさに自宅における「日常の暮らし」そのものです。しかし、施主であるSさんご夫妻が住まいに求めたのは「非日常の空間での暮らし」。さらに、息子さんご夫婦との同居が決まり、S邸のプランは2世帯住宅へと変化していきます。ひとつ屋根の下で2つの家族が適度な距離感を保ちつつ、非日常空間が感じられる住まいを実現したのは、腰越耕太建築設計事務所代表の腰越耕太さん。今回は、相反する要素を見事に両立した家づくりをご紹介します。
