
ずっとここにいたくなる。
光・風・緑を感じて豊かに暮らす「窓辺の空間」がある家

小野 喜規
おの よしのり
オノ・デザイン建築設計事務所
東京都 目黒区
建て主の方とじっくりと打合せを重ねながらつくった家には、 流行のデザインとは別の、独自の個性が宿ることでしょう。 そしてそれらの個性的なスペースを、 一日のなかで行ったり来たり、上ったり下りたりしながら 過ごすことは、まるで風景を巡っていくような変化が感じられ、いつも新鮮な気持ちを日々の暮らしにもたらしてくれることと 信じています。
1つ1つの窓に個性を創出。自然を感じてくつろげる居心地のよい窓辺
この家の「窓辺の空間」を語るうえで外せないのは、1階の玄関を入ってすぐの応接ルームだろう。玄関ドアは大胆なガラス張りで、いわば「大きな窓」。その先には60~70年前からこの地を見守るモミジがあり、初夏はみずみずしい青紅葉、秋は鮮やかな紅葉を室内から鑑賞できる。
「以前は、このモミジの場所が敷地内の動線から少し外れていて、存在をあまり意識することもなく暮らしていました。でも建物をモミジに寄せ、玄関ドアを窓に仕立てたことでぐっと身近になり、愛着がわいて四季を感じる機会も増えました」と小野さん夫妻。
応接ルームには母屋の中庭に面した窓もあり、玄関側とは違った景色を室内に取り込んでいる。この窓は、大人が余裕で座れるほど深くせり出した出窓。出窓部分をテーブルに見立てて中庭を見ながらお茶を飲むこともできるし、出窓に直接座って読書にふけりたくなるような雰囲気もある。さらに、天気のいい日は庭木の影が落ちてきて、枝や木の葉のシルエットが影絵のように室内に映り込む。小野さん夫妻はどの窓も、天候・時間帯による変化や、インテリアと自然の調和をイメージしながら設計しているのだ。
出窓の反対側の少し奥まったスペースには、隣家の緑を望むかわいい小窓。ここには造り付けの小さなカウンターとル・コルビジェの椅子がある。格子の木枠で覆われた小窓は心和む温かさを醸し、外部の視線も適度にシャットアウト。独立感もあり、コンパクトなのに居心地がいい。通風・採光のためと割り切るならアルミサッシの小窓だけで事足りるが、カウンターと格子の木枠をあしらうことで心地よいパーソナルスペースに仕上げている。
こうした「窓辺の空間」へのこだわりは、小野さん夫妻の設計の大きな特徴。
小野さんはいう。「この家のコンセプトの1つは、敷地内にもともとあった古い庭木を活かすことでした。そのため建物は庭木を避けるように設計してあり、凹凸のある細長い形状になっています。おかげでシンプルな四角い家では得られないさまざまな窓ができ、個性的な『窓辺の空間』ができました。どんな環境の土地でも、建物のどこにどんな窓をつくれば、心地よい光や風、景色を感じるスペースができるかを考える。それは、設計における僕らの楽しみでもあるんです」
ちょうどいいところにちょうどいい窓を開け、限られた居場所を心地よく
「そういう体験を突き詰めていくうちに、住宅の設計でも、心地よいと感じる些細なものを大切にしたいと思うようになりました。そして、暮らしに心地よさをもたらす光、風、緑などを一番感じられるのが、ズバリ、窓辺なのかな、と」
いわれてみれば、窓辺は室内において唯一、外とつながる特別なスペース。「家は、家族がホッとできる場所。ホッとできる要素はいろいろありますが、緑などの自然もその1つですよね」と齋藤さん。五感で自然に触れると心地よいと感じるから、人はおのずと窓辺に近寄る。
面白いのは、窓辺にこだわるといっても、小野さん夫妻の中では「いい窓=眺望・明るさ・開放感」という方程式ではないことだ。
例えば、2階のダイニング・リビングにある窓。大きく開口しているが「見えるのは母屋の壁だから、見なくてもいい」と、大きな障子で塞いでしまった。確かに、障子紙を通した光も、光を受けた障子紙の色味も室内を柔らかく彩り、素っ気ない壁が見えるよりずっと居心地がいい。
先述の応接ルームの出窓も眺望・明るさ・開放感への執着がない。あえて大開口を避け、適度な大きさにとどめてある。「なぜなら、室内全体が明る過ぎると所在ない空間になりやすいからです」と小野さん夫妻。
この話は照明に置き換えるとわかりやすい。隅々まで煌々と明るい事務室のような部屋。ソファやテーブルまわりに、やんわりと光が当たるホテルのような部屋。好みもあるが部分的に光が広がる後者の方が、くつろげると感じる人が多い。同じようなことが窓の採光でもいえるのだ。
「僕らの設計は、『ちょうどいいところだけに、ちょうどいい窓を開ける』というスタイル。生活の中での居場所は意外と限られるので、どこが居場所になるかをきちんと考え、そこにほどよい光や眺めを得る窓辺をつくる。壁や床、建具なども、温かみや表情のある質感を選んでいく。その積み重ねは自然な陰影を生み出し、リラックスして落ち着ける部屋になると考えています」
家づくりの際、広ければ広いほど、明るければ明るいほど「いい」と考える人は少なくない。それも1つの在り方だ。しかし小野さん夫妻の話を聞いていると、広さ、明るさ、開放感を最大限にすることは、居心地のよさに直結するとは限らないと気づく。逆にいえば狭小地でも、変形地でも、設計の力で心地よさを生み出せるのだ。
文豪・谷崎潤一郎は随筆『陰翳礼讃』で、静かなほの暗さによって明るさが活き、両者の対比があるからこそ美しいと感じ、心落ち着くことを語っている。そんな日本人の美意識やDNAに寄り添うような空間センスと設計力。それが、小野さんたちがつくる住まいの最大の魅力なのだろう。
間取り図
基本データ
| 所在地 | 東京都⽬⿊区 |
|---|---|
| 敷地面積 | 増築部 建築⾯積 39.38㎡ |
| 延床面積 | 増築部 85.69㎡ |
| 家族構成 | 夫婦+子ども1人 |
| 予算 | 2000万円台 |
| 施主 | O邸 |
設計者情報
この建築家が建てた家
この実例を見た人はこちらも読んでいます

家族が1つになる、1人にもなれる家 「ズレ」によってできる家族の「新たな間合い」
一見すると周囲の家々と馴染む普遍的な佇まいの家が、中に入ると驚きの空間に仕上がった。「普通であること」と「差異をつくること」を意図し、家族皆が大満足の家となった秘策「ズレ」に迫る。

趣味も仕事も!「思い出の実家」のリノベは生き方をどう変えた?
子どもたちも独立し、現在はふたり暮らしだというKさんご夫婦の住まいは、以前は奥さまの実家だった一軒家。建築家・秋山怜史さんはご夫婦の願いに真摯に向き合いながら、この家に詰まった大切な思い出は残しつつ、さまざまな工夫を凝らしてより住みやすい空間へとつくり替えた。

コンパクトなのにゆとりある空間の秘密は 螺旋階段と個性的な大容量収納
決して広いとはいえない空間の中に、見せる収納と隠す収納、両方が欲しい。見せる収納のデザインにはお施主様の明確なイメージもあった。建築家の戸川賢木さんは、1階から3階を繋いだ螺旋階段に、見せる収納を組み合わせてお施主様の要望を叶えながら、開放的でゆとりを感じられる空間をつくり上げた。

庭の心地よさを取り込んだ、リビングが暮らしの中心にある平屋
奥様の実家でもある築100余年の家を大切に守り、暮らしてきたSさんご夫婦。ご子息が巣立ち、夫婦二人のこれからの暮らしや耐震性への不安を考慮して、建て替えることにしました。Sさんご夫婦のリクエストは心地よく暮らせる平屋。石川さんが提案したSさんの住まいの工夫をご紹介します。

室内を区切るものは壁ではなく、光と影。 美しい景色を、より魅力的に切り取る家
目の前に広がる田園風景と、裏山の間に位置するE邸。ハナトアーキテクツの保科陽介さんと堤理紗さんは、田園と裏山の空気感を繋ぐような家にしたいと考えた。異なる素材を使い分けて両者の特徴を入れ込んだ室内空間には、夏はひんやり冬暖かくと、快適に暮らせる工夫も隠されている。

庭の木々と木製家具に癒される…。 都市の中で実現した、憩いの住まい
「デザイン性だけでなく、機能性にもこだわった住まいをつくりたい」。そんなSさんご夫婦の夢を請け負ったのが、いのはな設計の鈴木宏昌さんである。緑を望む庭に、インテリア性の高い造り付け家具、高い断熱性。Sさんの希望をみごとに叶えた鈴木さんの家づくり。気になるその中身をのぞいてみよう。

地域と共に自然と共に 日本の原風景を感じさせる家
自らが生まれ育ったまちで、ゆったりと暮らしたい。そんな施主の思いを実現したのは、日本人の心の原風景にあるような暮らしを現代の建築で叶える建築家、礒健介さん。自然体の暮らしを実現した、礒さんの家づくりに迫る。

建てる前に知っておきたい!「本当に快適な家」のつくり方
家を建てるなら、こんな間取りでこんな床。窓はこうして照明は…。多くの場合、インテリアの延長で家への夢を描きがちだが、長く快適に住むには機能性も大事。天井高約5mの開放的なリビングのある住まいを建てたC様ご一家は、建築家・関太一さんとの出会いで「あること」への意識が高まり、想像をはるかに超える住み心地の良さを実現。プロのアドバイスがなければなかなか気づかない、その「あること」とは?

大勢の懇親も、家族の団欒も 内外2つのシンメトリーなLDKがある家
大勢のお客様を呼べる広く開放的なリビングを持ちながらも、周りからの視線が気にならないプライベート感もという、両立しにくい施主からの要望。この難題を内外2つのシンメトリーなLDKという秘策で見事に解決してみせたのは、関西を中心に活動する建築家、市井洋右さんでした。






