
シンプルだけどチープじゃない
じっくりとつくり込まれた、写真館兼自宅
カメラマンとして服部さんの仕事を熟知
土地を見つける前から依頼を
これまで都内のテナントビルにスタジオを設けていた施主のDさん。自前のスタジオ兼自宅を建てるにあたり依頼をしたのが、施主とじっくりと対話をしながら丁寧な仕事で家づくりを行う建築家、建築設計SOOの服部さん。
「私が設計した家の完成写真の撮影を何棟かお願いしていたカメラマンがDさんでした」と服部さん。Dさんは、服部さんが手掛けた家のつくりやその仕事ぶりを見て「自分の理想を叶えてくれるのは、服部さんしかいない」と思ったのだろう。
実はDさん、当時はまだ建設予定の土地がない状態だったという。土地探しの段階で、家づくりは服部さんにお願いすることとして、候補地を見つける度にアドバイスを求めていたのだという。
「候補地段階で『お試しプラン』を作り、見ていただいたこともありました」と服部さん。「お試しプラン」とは、建築家による家づくりに対する敷居の高さを感じずに済むよう、服部さんが無料で行っているプラン作成。家づくりのイメージをもつことにも役立つサービスだ。
このような過程を経て、候補地として挙がったのがこの宮前区の土地。
この土地の第一印象について服部さんは「丘の上にあって景色も良く、風の抜けも良い土地。広さも十分な高環境の中で、いかに施主のご要望に応えるか、コスト面にどう折り合いをつけるかがカギになるな」と感じたという。
では、Dさんの要望とはどのようなものだったのだろう。まずはスタジオを「自然光」で撮れる空間とすること。一方の住居部分は、ミニマル志向のDさん夫妻の暮らしにマッチする「シンプルな空間と箱にしてほしい」という要望だった。
ワンちゃんファーストなスタジオは
自然光のもとでリラックスして撮影
もともと「どこかに白い大きな壁があったらいいな」と漠然と思っていたDさん。建物の形状や向き、内部のゾーニングが検討されていく中で、Dさんと服部さんは「この建物の北側の外壁が背景として使える」ことを発見したのだとか。
スタジオのエントランスは、白い壁や椅子、木の温もりも感じられるナチュラルな空間。このエントランスはスタジオの待合としての用途のほか、もう1つの利用法があるという。
「設計当初から『いずれ庭先に、ご近所の方々が憩うコーヒースタンドをつくりたい』というお話をいただいていました。それが実現した今は、お客様が座ってコーヒーを楽しんでいただく場ともなっているようです」と服部さん。
室内に入ると天井の高い大空間が広がる。ワンちゃん専門の写真スタジオだ。南側に設けられた大きな窓からはDさんのリクエストどおりの自然光が室内を柔らかく照らしている。「この窓は、時間によってどのように陽光が入るかをいろいろシミュレーションし、位置や大きさを決めました」と服部さん。
実はDさんが自然光にこだわったのには理由がある。一般的な写真スタジオは、外光が入らない空間で照明やストロボを使って撮影することが多い。しかしストロボの光は、ワンちゃんを驚かせてしまうことにもなりかねない。自然光のストレスのないリラックスした状態で撮影してあげたいとのDさんの思いなのだ。
またこのスタジオは驚くほどシンプルだ。スタジオというと、様々なシチュエーションに対応できるよう、複数の背景のロールがあったりするが、ここでの背景は白い壁のみ。犬用のおもちゃやケージもない。ここではリードを取り外し自由な状態で撮影するのだ。これも、ワンちゃんや家族の自然な姿を撮影するという思いの現れなのだろう。
「壁の角は、線が写真に映らないように丸くしています」と服部さん。このほか、床には床暖を入れ、床の塗装はDさんと服部さんで行ったのだという。ワンちゃんが歩き回る床は汚れや傷がつきやすい。そのメンテナンスを自分でも簡単にできるようにという配慮だ。
「他の物件でも、壁を塗るなど、施主やご家族と一緒に作業をすることが多いです」と服部さん。メンテナンスのためだけでなく、ほんの一部でも家づくりに関わることで、自邸への愛着感を高めるという効果もあるのだろう。
こうした服部さんが施した様々な工夫で、ワンちゃんもご家族も安心して撮影できる環境が整った。
この建物に移転後、順調に客足が伸びているそうだが、この建物が寄与していることはいうまでもないだろう。
構造材などを使いコスト面に配慮
細やかな気配りでデザイン性も両立
D邸での最大の課題ともいえる「テイストとコスト面の両立」。この難問に対し服部さんは、構造、使用する素材など、様々な要素を検討。いくつものプランを考案したという。その中で選ばれたのが、自邸部分は、あえて仕上げを行わず装飾性のない空間とするこのプランだった。
約9畳の居間は驚くほどシンプル。テーブルは必要に応じて組み立て式のものを出して使うという。開放感を得るために設けられた大きな窓にはカーテンもなく、周りの景色がダイナミックに見える。
「夜になれば、周りの家がカーテンを閉めるから平気」とDさんが語るほど、ミニマムな空間だ。
台所もシンプルな仕上げ。洗面、浴室、WICへと回遊できるつくりで、利便性にも配慮している。
居間の先には寝室。扉は設けず壁でゆるやかに仕切るのみ。30センチの段差をつけることで、寝室の天井を低くし、居間の開放感をより際立たせた。また、この段差は、飼っているワンちゃんが自ら上れない絶妙な高さとなっているという。さらにこの段差は、床下収納となっており、隣のフリースペースからモノを出し入れできるのだとか。
居間との境の壁には、ワンちゃんの居場所や文鳥のケージを置くスペースも提案。居間にいながら、愛犬・愛鳥の姿を眺めることができるし、同じ部屋で眠りにつくことができるという配慮だ。この提案にD様ご夫妻はとても喜んでいたという。
服部さんの工夫は、ここだけに留まらない。例えば窓の位置1つとっても、外から見れば無造作な位置にあると感じるかもしれないが、室内の壁の開口から一直線に光が入る位置に置かれていたり、暗くなりがちな廊下部分の壁は、丸みをつけたうえで白く塗り、光が廻り込むように配慮した。
見た目がシンプルだからといって、仕事は簡略化せず、1つひとつに手をかけた設計をするのが服部流だ。
この家の出来栄えにDさんも「自分達の要望を上手く汲み取っていただき、機能的にもデザイン的にも満足しています」とコメントしてくれた。将来は、ドッグランをつくる計画もあるなど、この建物はさらに成長していく。
この建物では、シンプルなテイストをとったが、服部さんはシンプル・ミニマムな家の専門家というわけではない。土地などの環境面、予算面、そして施主の叶えたいことという条件を総合的に考慮して最適な提案を行う建築家だ。言い換えると、どんな要求にも応えられるだけの腕をもった建築家といえる。
これからも、服部さんはさまざまな条件をクリアした、2つとない家をつくり続けるだろう。
基本データ
| 作品名 | House SO |
|---|---|
| 所在地 | 神奈川県川崎市宮前区 |
| 敷地面積 | 228.31㎡ |
| 延床面積 | 103.63㎡ |
| 予算 | 2000万円台 |
| 施主 | D様 |
撮影:DOZONO STUDIO
設計者情報
この建築家が建てた家
この実例を見た人はこちらも読んでいます

コンパクトな中に、驚きの大収納も欲しい部屋も、全部ある!
川沿いに建つ、ランダムにあけられた窓が印象的なI邸は、間口4.5m、奥行き12m、約10坪の狭小住宅。しかしそのコンパクトな外観からは想像できないほど、居住空間はのびやか。スキップフロアのLDKは大容量の床下収納も備えるなど、随所にワザありの住まいなのです。

日当たり良好 さまざまな窓が生み出す 「開かれた家」の居心地の良さ
住宅の顔ともいえる窓は。窓の大きさや数、形によってその家の印象はもとより、暮らしやすさにも左右する重要なアイテム。大きな窓をはじめとした、さまざまな窓で、陽当りや開放感を実現し、居心地の良い家を作ったのは、伊藤明良一級建築士事務所の伊藤さん。つい長居したくなる、この家の秘密に迫る。

のびのびと暮らせる秘密は中庭にあった。 毎日「いいな」と感じる我が家
まんなみ一級建築設計室の堀井博さんが設計したK邸は、外観と内部空間のギャップに驚かされる。外に向かってはほぼ窓もなく閉じた印象なのに対し、家の中は明るく開放的な空間が広がっている。それを可能にしたのは、家の中心にある中庭。中庭を内包する家での暮らし方とは、一体どのような感じになるのだろう。

個性的な住戸が集うコーポラティブハウス。全住戸に庭付き一戸建ての豊かさを
奥野公章さん設計の『荻窪ロウハウス』は、集合住宅でありながら自分好みの住まいをつくることができるコーポラティブハウス。驚くことに全住戸が庭付き一戸建て感覚で住めるという。住戸の事例とともに、工夫を凝らした奥野さんの建築の魅力を紹介しよう。

家族が集い、ご近所の輪も広がる 新しいコミュニティ型賃貸住宅
防災・防犯・子育てなどの面からコミュニティ形成への意識が高まっている昨今、地域住人との関りが希薄な賃貸住宅でも近隣住人との自然な交流を生み出そうとする物件がある。それが今回紹介する「MOB TOWN ミナミシモハラ」。‟賃貸でも自由に楽しく住む”をコンセプトに建てた井村さんならではの想いやこだわりに迫ります。

土地の声を聞き、敷地の課題をクリアする。 風景に馴染み、奥行き感ある平屋
畑の土地を宅地に変更、家を新築するご依頼を受けた建築家の森屋さん。敷地には様々な課題があったが、環境を見極めクリアした。同時にその工夫は内部空間にも生かせるように計算されており、お施主様が望むコンパクトながら奥行き感がある平屋ができた。一帯の風景をより魅力的にしているこの家の秘密を探る。

三角形の変形敷地は、余白を活用。ひとり時間も、大勢での集いも楽しめる家
ひとりで暮らす自宅を新築するため、ほぼ三角形の敷地を購入されたお施主さま。建築家の戸川さんは、三角形の敷地に小さな正方形を配置し、余白も活用しながらゆとりある家をつくりあげた。ご友人たちとパーティーをしたり、ひとり時間を楽しんだり。どんなシーンにもフィットする家はどのように完成したのだろうか。

閉じたファサードの先に緑豊かな洗練空間。時間と空間の「レイヤーを重ねる家」
建築家の八田政佳さんが手がける家は、デザイン性と住み心地のよさを両立させていることが大きな特徴。重厚感漂うファサードの先に、緑あふれるくつろぎの空間が広がるM邸もその1つ。日常を豊かにする、時間と空間のつながりを意識した設計も必見だ。

日本最北端の厳しさでも快適に、デザインも諦めない工夫とは?
毎日、雪かきをしなければ生活できない北海道稚内市の住宅では、雪対策・防寒対策が何よりも重視されます。そうした生活ニーズとデザインの両立は難しいと多くの人が思っていた場所に2014年、機能も充分に満たしたデザイナーズ賃貸が誕生しました。




