
高低差のある住宅密集地に光と風を
3層の立体設計が叶えた豊かな空間
徹底した対話で捉える理想の住まいの輪郭
わずか2日で希望を収めたプランを提示
この家の設計を手掛けたのは、建築設計SOOの服部さん。施主に寄り添い、対話を重ねながら住みよい家をつくることで定評がある。
そんな服部さんのもとへ、一本のメッセージが届いた。Wさんの奥様からの、インスタグラムのダイレクトメッセージ(DM)だった。
これまでマンション住まいだったというWさんご家族。光や風が感じられ、やさしい雰囲気に包まれた家に住みたい。そう願って戸建ての注文住宅を検討し始めていた。そして、その設計を服部さんに依頼したいというご希望だった。
建築家に家づくりを依頼する施主の多くは、既に候補となる土地を持っていて「この土地に、理想の家を建てたい」という依頼が一般的だ。ところがWさんは土地取得前。つまり、土地が決まる前に「建築家ありき」での家づくりを望んでいたのである。
それは、服部さんがこれまで手掛けてきた作品のもつやさしさ、柔らかさ、精度高くどこか欧風を感じさせる世界観と、建築やインテリアに造詣の深いWさんご夫妻の感性が、見事にマッチしていたことを物語っている。
「土地探しから一緒にとのご依頼でした。土地を探しつつ、どんなテイストが好きなのか、叶えたいものは何か、どんな暮らしを望んでいるか。そうしたことをヒアリングしていきました」と服部さんは振り返る。
服部さんのヒアリングは対話型だ。会話を通じて施主が好きなものや叶えたいことの要素をつかみ、その本質を読み解いていく。繰り返されるやり取りの中で、漠然とした想いが徐々に、かつ鮮明に輪郭を帯びていくのだ。
Wさんご家族からの大きな要望は、光や風を感じられること。やさしい雰囲気に包まれた空間であること。あるいは、日常の喧騒を忘れてごろんと横になれるような、ほっとできる場が欲しいということ。
「候補となる土地が出てくるたびに、『こういうボリュームだったら、Wさんの希望が叶えられるな』と脳内シミュレーションと、簡単なスケッチを繰り返していました」と服部さんは語る。
そんな中Wさんから「この土地を見てほしい」と言われたのが、現在W邸が建つ世田谷区の土地だった。閑静な住宅街の一角。敷地は高台で、低層住宅が立ち並ぶ地域。条件的には申し分ない。
「住宅街なので隣家が迫っていますが、敷地の裏側にはマンションの空地があり、そこから十分に光と風が取り込める。そう感じました」と服部さん。
そして、この土地を見てからわずか2日で、服部さんは「こんな感じの家ができそう」というボリュームプランをWさんに示した。
「土地の取得はスピード感が必要です。それに、これまでの事前ヒアリングや、様々な候補地での脳内シミュレーションを通じて、Wさんご夫妻の好みやゾーニングの希望は把握できていました。綿密な計算をしている時間はありませんでしたが、きっとこれなら問題なくできるだろうという予測はついていたんです」
そのプランとは、敷地前後の約1mの高低差を巧みに活かしたものだった。コンクリート造の半地下(下層)に、木造の居住部を載せた混構造の3層の建物。2台分の駐車スペースを確保しながら、光や風をうまく取り込み、建蔽率や斜線制限もクリア。当然、予算面でも納得できるという、絶妙なプランだった。
不動産会社から提示された一般的なモデルプランに疑問を感じていたWさんご家族。服部さんのプランを目にした瞬間、確信が生まれた。「この家が実現できるなら、この土地を購入しよう」と即断したという。
その後、本格的な設計に進むことになるが、驚くべきことに、このプランは大きな変更を経ることなく完成まで至った。服部さんの読みと、事前の脳内シミュレーションがいかに正確であったか。綿密な設計を行っても、十分に成立するものであったとともに、Wさん夫妻にしっかりと刺さったプランだったのだ。
半地下を含む3層すべてに光と風を届ける妙
心地よいごろんスペースが日常を豊かに彩る
住宅街を進んでいくと、堅牢なコンクリートの土台の上に、テラコッタ(素焼きの土)のような、ざらりとした素朴な風合いをもつベージュの建物が載ったW邸が見えてくる。大きな窓は十字にデザインされ、ヘリンボーンのタイルで彩られた、ヨーロッパテイストを感じさせる邸宅だ。新築でありながら、以前からそこにあったかのように周囲に馴染んでたたずんでいる。
「Wさんご希望のやさしい雰囲気を演出しました。ちなみに、窓の十字は実は防火サッシのタテの桟を目隠しするためのものなのです」と服部さん。機能的な制約をデザインの力で美しく解決する、設計者としての手腕が光るディテールだ。
せり出した大きな庇の下は、車2台分のガレージ。道路側から建物までの距離が適切に保たれることで、プライバシーの確保にもつながっている。
エントランスまでのアプローチには、丸いタイルを半円状に敷き詰めた。歩を進めていくと見えてくるのが、庇を貫通する大きなシンボルツリー。庇の上の植栽とともに、この家を彩り、家族とともに成長していく。
アプローチを進み門扉を抜けた先は、耐力壁を巧みに使ったポーチ。雨には濡れない空間でありながら、光や風は通る。外と内の境界をやわらかく仕切る半屋外の中間領域であり、自転車も雨や盗難の心配なく置いておける実に便利なスペースだ。
アクセントに緑色を採用した扉を開け玄関に入る。上階からの光が降り注ぐ空間には、ヨーロッパテイストを感じさせるクロスを貼った。迎える側にも、訪れる人にも心地よい空間だ。玄関付近には、落ち着いた雰囲気の手洗い場を造作。エコカラットのタイルをあしらうことで、調湿効果も備えている。
さらに玄関付近には、Wさんの書斎を設けた。半地下空間は暗くなりがちだが、服部さんはポーチのスリット状の隙間から光を取り込めるよう設計。光がやさしく差し込む気持ちよい環境の中、集中して仕事に取り組める環境を実現した。
廊下を進んだ先にはドライエリアを確保し、光や風を導くとともに、植栽を置いて庭のようなスペースを生み出している。限られた敷地の中で、外部空間との関係性を豊かにする工夫だ。
階段を上った先は、家族それぞれの個室や、バス・トイレ・洗面が集まるプライベートゾーン。洗面所はマンションの空地に面しており、朝の光を浴びながら気持ちよく身支度ができるよう配慮した。
3階に上がると見えてくるのが、バルコニーに面した小上がりの「ごろんスペース」と名付けられたエリアだ。Wさん家族が望んだ「ごろんと横になれる場所」を具現化した空間。
床のフローリングは、波を打ったような名栗(なぐり)加工。裸足で踏みしめる感触、バルコニーからの光が織りなす美しい陰影が、とても気持ちの良い空間を創り出している。
「部屋ではないこの空間は、もったいないと感じられる方もいるかもしれません。でも、こういった気持ちの良い籠れる場所があることの豊かさを感じていただきたいと思い、提案しました」と服部さん。
実際、お子さんたちはこのごろんスペースがすっかり気に入り、ここで寝ころがりながら本を読んだり遊んだりしている時間が多いという。用途を固定しない空間から生まれる余白を、Wさん家族は存分に楽しんでいる。
ごろんスペースの反対側がLDKゾーン。最大天井高3mを誇る大空間だ。バルコニーと正面の大きな窓が一直線につながり、光と風が心地よく通り抜ける。まさにリクエスト通りの空間が形になっている。床のフローリングはヘリンボーン貼りにし、外壁のタイルとのデザイン的な一体感も演出した。
この家の出来栄えに、Wさんご家族も大満足のご様子だ。
「あるときWさんから、『知人がオフィスをつくる予定があるというので、服部さんのことを紹介しておきました』とのお話をいただきました。家にご満足いただけただけでなく、私のことも信頼いただけたと大変嬉しく思いました」と服部さんは語る。
家づくりにおいて、設計を建築家に依頼するというのは、世間一般ではまだまだ少数派だ。しかし、建築家に頼みたいと思っている人は、潜在的には多くいるはずである。ただ、建築家に頼むことへの敷居の高さや、価格の不透明感を必要以上に恐れてしまっているのではないだろうか。
そんな思いを払拭すべく、服部さんは「無料お試しプランニング」を行っている。さらに、事務所のウェブサイトには費用の説明も細かく記載されている。
「まずは気軽に声をかけていただきたいという思いがあります。さらに、私は、家づくりというのは、施主と建築家が二人三脚で良い関係性を築いていかないと、良い家はできないと思っています。だからこそお試しプランニングを通じて、私とのやり取りや、プラン、費用感などを体験してから、じっくりと検討していただきたいと思っています」と服部さんは語る。
費用をとらず、その後の営業も一切行わない「お試しプランニング」だからといって、決して手を抜かないのが服部流。実際、このお試しプランニングを通じて服部さんの誠実な仕事に触れた人のほとんどが、そのまま正式な依頼につながっているという。
施主との対話を大切にし、土地の可能性を引き出し、暮らしの豊かさを形にする。W邸は、そうした服部さんの建築哲学が、Wさんご家族の想いとぴったり合致した結果の姿だ。良い家は、建築家一人の才能だけでは生まれない。施主の信頼と想い、そして両者による丁寧な対話が重ね合わさることで、初めて最高の住まいが生まれる。
服部さんは、今日も施主に寄り添い、二人三脚で理想の家を実現している。
撮影者:DOZONO STUDIO
基本データ
| 作品名 | House TD |
|---|---|
| 所在地 | 東京都世田谷区 |
| 敷地面積 | 124.45㎡ |
| 延床面積 | 190.58㎡ |
| 家族構成 | 夫婦+子供2人 |
| 施主 | W邸 |
設計者情報
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