
二世帯、つかず離れず快適に。
ジグザグ曲がった大きな平屋
視線を操る“ジグザグ”と、ほどよい距離感を生む“中庭”
清正 崇(せいしょう たかし)さんが設計したK邸も、両親と息子さん夫婦の二世帯住宅である。築50年ほど経つ家屋を建て替えた大きな平屋で、玄関やキッチンなどは別々。生活はきっちり分かれ、それでいてお互いの気配は感じる“つかず離れず”の距離感が絶妙だ。
だがK邸は、上下または左右で世帯が分かれる、そのどちらにも属さない。家屋を上から見ると、少し外に広がる「つ」のような曲線を描いており、蔵の建つ中庭を挟んで親世帯と子世帯が向き合う二世帯住宅となっている。
「向き合う」と聞くと丸見えになりそうに思うが、その懸念を払しょくするのが“ジグザグ”と“中庭”だ。清正さんは居室を直線でつなげず角度を少しずつ変え、ジグザグの配置とすることで視線のぶつかり合いを回避。中庭を介し、お互いの住空間がチラッと視界に入る程度のほどよい距離感を生み出した。
加えて、各世帯の主な生活空間が中庭に直面していなのもポイントだ。それぞれのリビングなどは建物の外側に広がる庭や、小さな内庭に向かって大きく開口。食事やくつろぎの場を彩る景色は世帯ごとにまったく異なる。
「空間をジグザグに配置したのは、増築を繰り返し、家屋がランダムに建っていた以前のスタイルを踏襲する意味もありました」と清正さん。建て替え前のK邸は広い敷地の中で自由奔放に家屋が建ち、目線があちこちに向いていた。その佇まいに四角四面ではないおおらかさを感じ、再現したいと思ったのだという。
清正さんは二世帯住宅の設計について、「最も心をくだくのが距離感です。家というのは何十年も住むものですが家族の先々の変化はわからない。“つかず離れず”の距離感は暮らし方の幅を広げ、2つの世帯が長い年月に渡って心地よく住むための大切な要素だと思います」と語る。
たしかに、どんな家族でも学業、仕事などで世帯ごとにライフスタイルが変わる時期があるだろう。そういうとき、生活の基盤が分かれていたほうが気兼ねないと感じる可能性は大いにある。もっと言えば、世代交代したら現状では想像もつかない事情が出てくるかもしれない。
一方で、清正さんは2つの世帯のゆるやかな一体感も意識した。具体的には、両世帯をひとつにまとめる屋根である。「居室はジグザグですが大きな屋根でぐるりと覆う。このデザインで“ひとつ屋根の下”を表現しています」。この屋根は中庭に向かって高くなる片流れで、中庭側の高い壁には端から端までハイサイドの窓が連なる。世帯ごとに生活空間は違っても、視線を上げれば空や中庭の木々といった同じ景色を目にすることができるのだ。
屋根には、親世帯から子世帯まで続く長い屋上テラスをつくった。現在、息子さん夫婦は4人のお子さんに恵まれている。おじいちゃん・おばあちゃんのいる場所から自分たちの居場所までひと続きになったこのテラスは、元気いっぱいのお子さんたちの格好の遊び場になっているそうだ。
自然、歴史を継承。先人たちとのつながりを感じる懐の深い家
ゲストスペースは家屋の中央、親世帯と子世帯の間に配されている。両世帯とも普段使い用に個別の玄関があるが、清正さんは“K家の顔”としてゲストスペース近くにも立派な表玄関をしつらえた。表玄関を入ると洋室の応接間と20畳以上の広間があり、少人数での歓談から大人数の宴席まで対応可能。竣工時には清正さんをはじめとする関係者が集い、広間で祝いの席が設けられたという。
ゲストスペース専用の洗面室は、建て替え前の仏間にあった、木を格子に組んだ格(ゴウ)天井を再利用。ほかにも建具のガラスや引手など、以前の家屋で使われていたものを活かしたスペースは多い。中庭には風格漂う蔵を残し、慣れ親しんだ木々も植え替えている。以前の家屋の解体時に出てきた中庭の井戸は想定外だったが、かつてはK家の日常を支えた大切な水源と思えば残さずにいられない。
親子三代の二世帯と、ゆかりある人々との交流の場がつながる快適な住空間。そこには一族の歴史を静かに物語る自然や空間の一部がさりげなく存在する。過去、現在、未来が邂逅するK邸は、お子さんたちが成長した後も折に触れて思い出す懐かしい原風景となるはずだ。
【清正 崇さん コメント】
二世帯の距離感と一体感のバランスを考えた住宅です。建物は中庭を囲む平屋で両世帯が向き合いますが、中庭側は居室の角度を少しずつずらすことで視線がぶつからないよう配慮しました。ジグザグ曲がる中庭側に対し、建物の外側はまっすぐなラインを描いているのもこの住宅の特徴です。この対比で独特のおおらかさが生まれ、増築でランダムに家屋が建っていた以前のお住まいのよさを継承できたのでは……と思っています。
基本データ
| 所在地 | 東京都福生市 |
|---|---|
| 敷地面積 | 2,952㎡ |
| 延床面積 | 477.98㎡ |
| 家族構成 | 夫婦+子ども4人 |
| 施主 | K邸 |
設計者情報
この建築家が建てた家
この実例を見た人はこちらも読んでいます

フレキシブルで、さらなる価値を 築50年のビンテージマンションリノベ
マンションのリノベーションには、新築や戸建てリノベとは違った難しさがある。築50年を経過したビンテージマンションとなれば、その苦労は計り知れない。たくさんの困難を乗り越え、自宅兼事務所として様々な顔を見せる素敵な空間に仕上げた極意に迫る。

自慢したいデザインと心地よさ。空間を洗練させるプロの技!
「家づくりのために貯めた大金を、規格住宅に使いたくない」。それは、唯一無二のわが家を求める施主様がふと漏らした本音。建築家・松岡淳さんはその思いを真摯に受け止め、家中のどこにいても快適で心地よく、それでいて自慢したくなるほど「カッコいい」家を完成させた。制約の中で広さ・快適性・美しさを実現した、松岡さんならではの家づくりとは!?

本物の暮らしやすさのためのリノベーション 間取りの変更だけでなく環境の改善が必要
築30年を超えるマンションの部屋をリノベーション。昔ながらの間取りを今の時代に合わせ、開放的に明るくするとともに、動線も整えた。建築家の松下さんは、それに加えて断熱改修も提案。冬暖かく夏は涼しい、全てにおいて上質な部屋に生まれ変わった。

1棟4役? 毎週3時間かけて通いたくなる 富士山の見える別荘
あるときは、家族が休日をのんびり過ごす別荘として。あるときは、社員の保養所・研修所として。またあるときは友人や取引先を招く迎賓施設として。さらには一人集中して仕事に没頭できるプライベートオフィスとしての顔をもつ建物。非日常の高級感と使いやすさを兼ね備えたセカンドハウスを作ったのは、建築家の牧野嶋さんでした。

料理も空間も評判の、居心地満点レストラン 理想の生活と仕事を両立させた店舗併用住宅
開放的な子世帯と、レトロモダンな親世帯。そして、ホッと和める居心地の良いレストラン。異なる3つの世界を備えた店舗併用住宅を設計したのは、コーデザインスタジオの小嶋直さん。公私を共存させつつ世界観はしっかり分けたプランニングの魅力に迫る。

木のぬくもりが感じられる家で、のびのびと暮らす
家族それぞれの考えや生活に合わせて、じっくりとつくった家。その設計に関わった建築家は、我が家を最もよく知る「おうちのお医者さん」でもありました。

《店舗の事例》お酒を”楽しむ”場が人を呼ぶ!老舗酒店のリノベ
建築家との家づくりの秘訣が、住む人がそこでどう暮らしたいかを考えることなら、建築家との店づくりの第一歩は、お店の人がそこでどう働きたいかを考えることかもしれない。自由が丘の酒屋さんのリニューアルの背景には店長の熱い思いが隠されていました。

正面は「田」の字形のコンクリート外壁。防火地域ながらも、外壁の安心に囲まれて家族の将来を見守り続ける木造の家
20年~30年後、50年後、100年後の未来を見据え、家族構成の変化や、その時々に住まう人のライフスタイル、将来的なリノベーションなども考慮して設計している「裕建築計画」の浅井さん。キーワードは「長く住み継げる」&「ライフスタイルの変化に順応できる」家。今回紹介するK様邸は名古屋の商業地、防火地域にあり、難しい諸条件を斬新な発想で解決して、末永く住み継いでもらえる住まいだ。

琉球畳に座って過ごす空間を実現!山手に佇む事務所×二世帯住宅
自営業を営むAさんの事務所兼自宅が完成したのは、山手の静かな住宅街。Aさんご夫婦とお子さん3人、そしてご両親とお兄様の計8名が暮らす二世帯住宅です。家族がプライベートを確保しつつ集うことができるA邸は、まさにAさんが思い描いた空間そのものだそう。そんな理想の住まいづくりについて、設計を担当したアトリエスプリングの石原潔さんを交えてお話を伺いました。

