
急斜面を逆手に絶好の借景!
目を落とせば室内にも本気の庭

勝田 無一
かつた むいち
有限会社 創設計
東京都 渋谷区
建築家・造園家として活動。多種多様の建築設計実績多数。 特に住宅については「楽しくなければ住宅じゃない!」と言う信条のもと、 住むための「道具」という枠を超えて日常を楽しむ住宅設計を目指している。住宅雑誌等への作品・掲載多数。
敷地の特徴を生かした、吹き抜けと家のなかのテラス
「景色も眺めたいし、庭仕事もしたい。作業の合間にちょっとお茶が飲めるようなところもほしい、というお話でしたから、インナーテラスをおすすめしました。インナーテラスというのは、土間のような半屋外の空間です。土間といっても暗い感じはなく、明るく開放的な空間です」と勝田さん。それまでの事例を紹介したところ、Sさんご夫婦も気に入り、庭と家をトータルで設計することが決まった。
早速、現場を見に行くと、かなり急な勾配の傾斜地。敷地の奥へ向かって上っていき、道路の方をふりかえると、向かいの山の美しい稜線が目に入った。この景色を活かさない手はないと、Sさんご夫婦と勝田さんは話し合った。雄大な景色を味わえるテラスをつくり、大きな吹き抜けにして奥のリビングからも山並みを眺められるようにしよう、勝田さんの頭にイメージが広がっていった。
そこで、ふと頭をよぎったのが、今後のこと。最も高くなっている敷地の奥に建物を寄せると、道路から家までは1階分ぐらいの高さをのぼらなくてはならない。今は元気なSさんご夫婦でも、年をとったら階段をあがるのが大変ではないかと、勝田さんはエレベーターをつけて渡り廊下で家までつなぐプランも提案した。しかし、エレベーターをつけるとなれば、それなりの工事になる。検討の末、エレベーターはあきらめることに。ゆるやかな勾配なら、家まで少し歩くのも悪くないだろうと、アプローチを工夫することになった。
「上るのが大変だからといって、道路の際(きわ)に建てたのでは、せっかくの眺望がもったいないですから。やはり建物は1番上にして、アプローチガーデンを楽しみながら上がっていくのもいいだろうということになりました。そこで、玄関までのアプローチの道のつけ方も、延段やスロープで変化をつけました。最後は疲れてくるだろうからスロープにして、なるべく負担を感じさせないようにしています。道の両脇には草花を植えて、玄関までの道のりも飽きないようにしました」と勝田さん。
そして、玄関先にはインナーテラスを設けた。何段ものぼってきた分、見晴らしは抜群に良い。斜面の上にあって、すっと外に出られないという意味でも、この家にはインナーテラスが適していた。インナーテラスは、屋根があり、窓や壁で囲まれた完全なる室内にある。隣接するリビングとの境には壁がなく、リビングの一角にテラス席があるような印象だ。室内ではあるものの、使い勝手は外の庭と同じ。土足であがれて、愛犬も駆け回れる。テラスをふちどるように作られた庭には、好きな植物を植えることもできる。もちろん、窓の外は最高の景色だ。
この景色をなるべくそのまま切り取って、家のなかでも楽しめるよう、インナーテラスの部分は吹き抜けにした。大きく開いた窓を通して、リビングからも眼下に広がる街の景色と遠くの山並みが同時に視界に入る。「ちょうど夕日が沈むのも見えるんです。リビングは随分、楽しんでいただいているようですよ」と勝田さん。
通勤時間が延びても惜しくない、自然を感じてゆったり暮らせる住まいが実現した。
廊下に洗面スペースを置き、朝日に包まれて歯を磨く生活
「もともと、楽しくなければ住宅じゃないというのを信条に住宅設計をしています。何の変哲もない日常の生活行為でも、ちょっとした変化を与えることで、毎日が楽しくなるのではないかという発想なんですね。歯磨きって、だいたい狭い洗面所で鏡に向かってするのが普通でしょう。でも、朝日のはいる吹き抜けで歯を磨いてもいいんじゃないかというのが僕の提案です。吹き抜けの下はリビングですから、家族とコミュニケーションもできる。わざわざ部屋をつくらなくても、その方が気持ちいいですよね」
基本データ
| 所在地 | 埼玉県所沢市 |
|---|---|
| 敷地面積 | 510.69㎡ |
| 延床面積 | 206.00㎡ |
| 家族構成 | 夫婦+子ども2人 |
| 施主 | S邸 |
設計者情報
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