
敷地の形状や環境を暮らしやすさに生かす。
シーンに合わせ日常を彩る3つの庭
広大な敷地にさりげなく佇む
お施主さまの思いをデザインで表現した家
1100㎡を超える広大な敷地は代々引き継がれてきたもので、以前の家にはおばあさまが暮らされていた。ご家族で住まう家に建て替えるにあたり、まず心がけたのは、景観を壊さないことだったという。長い間使われていなかったため鬱蒼とした山のようになっていた敷地を整備しつつも、緑の豊かさは維持するよう配慮。設計の依頼を受けた一級建築士事務所 株式会社seki.designの石憲明さんは、「既存の石垣も、しっかり補強したうえで残しました」と話す。
完成した家は、ゆったりとした佇まいで威圧感がない。意匠性の高いデザインでありながら緑に囲まれさりげなく、静かに存在している、そんな印象を受ける。控え目に、というSさまのイメージをそのまま表現した外観。長くこの地で暮らしているからこそこの地域にお返しをするような気持ちで、どんな家が建てば景観がよりよくなるのか考えられたのだろう。
石垣だけでなく、門扉の一部も以前の家のものを継承して活用したという「芦屋・丘の上に建つ家」。竹が生えて山のように荒れていた土地が、家の建て替えによって本来の魅力を取り戻したともいえる。近隣に住まう人々も、この家が建ったことを喜ばしいと感じたに違いない。
それぞれがシーンに合わせた役割を果たし
家を快適に、魅力的にする「3つの庭」
それだけではない。石さんは趣の異なる3つの庭を計画し、敷地の広さや環境のよさを最大限に引き出したのだ。
まず1つめは、家のど真ん中に設けた「光庭」だ。特に広い家では、家の奥まで日射が届かず暗くなりがち。家の中央に中庭を設けたことで、内側からも光や風を届けられるようになった。
LDK、和室、水回り、ゲストルームを配置した1階は光庭を軸として回遊性があり、家族はもちろん来客も光庭の緑を眺めながら移動できる。たとえば来客時、応接間を兼ねた和室は玄関からまっすぐ進んだ突き当りにあるため、それなりの距離を移動しなくてはならない。そんなときでも、光庭のおかげで雰囲気よく、距離を感じずに進むことができるという。
2つめは既存の庭を再構築した「和室の庭」。石垣を背景として生かし、更に敷き詰めたごろた石により庭地面に起伏を持たせて、まさに眺めるための庭として設えた。植えられた紅葉が落とす影も美しく、縁側に向かって座っていると時間の流れが穏やかに思えてくる。雪見障子のみを開け、客人と語らいながら和庭園の風情を楽しむのもよいだろう。そして3つめ。LDKいっぱいに開口した窓から続く「丘の庭」の開放感は筆舌に尽くしがたい。南に位置するため日射が十分に入ってくるのはもちろん、風も抜ける。そのうえ視界の広さも群を抜いている。石さんが「ただただ広いというのも、落ち着かないものですから」と立てたエリアを区切るための低めの壁が境界線かと思いきや、その向こうにも丘が続いていくからだ。パノラマで広がる視界の先には海まで見えるという丘の庭。気持ちよく窓を開け、いつでも外気を感じながら暮らせる贅沢な環境を、石さんは配置の妙によ
りつくり上げた。
丘の庭は一体感を重視し、リビングから庭までフラットで続くイメージで計画した。先述の通りエリアを壁で区切っているため、LDKからは程よい大きさで庭が見えるのだという。庭いじりがお好きだというSさまは、庭の手入れも無理なくでき、気持ちが楽だとお喜びとのこと。さらにリビングにはあえてソファーを置かずに床に座る暮らしを選択したおかげで、庭がより親しみのある、近しい存在になった。
プランニング前、Sさま家族のそれまでの暮らし方などを細かに伺ったという石さん。見え方や距離感が全く異なる3つの庭は、生活スタイルにフィットしているからこそ魅力的で、かつ、暮らしやすさにも貢献できているのだろう。
要望を、期待を超えるデザインで叶える。
暮らし始めてから更に満足感が増す住まい
省エネにも考慮して欲しいというご要望に応え、「丘の庭」へ続く窓は気密性が高い木製サッシを使用。軒を深く出し、夏の強すぎる日差しを和らげた。また、ご希望だった雨戸も取り入れ、快適性をアップ。雨戸は使用時以外では完全に隠して収納でき、普段はすっきりしたデザインのフォルムを邪魔しない。
空間を整えることにも配慮した。キッチンの裏に大容量のパントリーを用意したのに加えてキッチン家電はリビングから見えにくい位置に配置し、キッチンはいつでも整然とした雰囲気に。リビングが散らかりにくいのは、テレビを設置した台を全て収納としているおかげだ。もちろん、各居室に必要な収納が備え付けられ、更にはストレージも備えている。お仕事柄、来客も多いというSさま。「収納を上手くまとめてくださったおかげで、急な来客時も焦ることなくお出迎えすることができて助かっています」とお喜びだ。
モダンな和室、シンプルながらキラリとセンスが光るLDKなど、デザイン性の高さもSさまがご満足されている点のひとつだという。決してデザイン先行になることなく、希望を叶えるためのデザインであり、かつ想像以上のものが仕上がってくるのだと感心されていた。
既製品を上手に使いながらコストを抑える一方で、和室に使用したリンゴの木や、外壁の一部には家業に関係の深いビンテージの酒樽をイメージさせる古木調タイルを採用するなど、ポイントを押さえた素材選びは、石さんらしい家づくりの一面をよく表している。「その時々で出会った素材をどう生かそうか、どのように表情をつけようかということをいつも考えています」と石さん。
お施主さまのことを第一に考え、同時にseki.designらしさにも向き合う。想像以上の家ができた、とSさまをはじめお施主さまの多くが口々にそのような感想をくださるのは、石さんの家づくりに対するひたむきさと、確かなプランニングによるものに違いない。唯一無二の家をつくるなら、石さんのような人にお願いしたいと思うのは当然のことだ。
基本データ
| 作品名 | 芦屋・丘の上に建つ家 |
|---|---|
| 所在地 | 兵庫県芦屋市 |
| 敷地面積 | 1117㎡ |
| 延床面積 | 236㎡ |
| 家族構成 | 夫婦+子ども2人 |
撮影:Akiyoshi Fukuzawa
設計者情報
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