
3棟の連なりで庭を懐に抱き
神社の杜の隣でのびやかに暮らす

高瀬 元秀
たかせ もとひで
タカセモトヒデ建築設計
三重県 伊勢市
住む人にとって理想の家は異なります。家を建てるということは、これから一生住まうことになる家を「考えていくこと」に他なりません。タカセモトヒデ建築設計ではクライアントとの会話や、敷地の特性からヒントを得て設計を行っていきます。ともに考えていくパートナーとして・・・快適といえる住まいの設計に携わることができればこんなにうれしいことはありません。
共に土地を探し出会ったのは
鎮守の杜の隣の広い敷地
きっかけは1通のメールから。あるとき、高瀬さんのもとにKさんから「家づくりをお願いしたい」との連絡があった。会ってみると、高瀬さんの作品が載った雑誌やホームページを見て「この人にお願いしたい」と思ったのだという。
伊勢に限らず地方都市では、住宅を取得するイコール新築戸建てというのが当たり前で、建物はハウスメーカーや地場の工務店などにお願いをするというのがスタンダード。そもそも建築家自体が少ない地域では、デザインなどに強いこだわりがあったり、難易度の高い土地でもない限り、建築家に家づくりを依頼するというケースは少ない。
そのような環境でありながらも、Kさんは自邸を高瀬さんに依頼した。しかもKさん、この時点ではまだ土地を取得しておらず、土地探しから共に家づくりをお願いしたいということだったのだ。それだけ、高瀬さんのつくる家に魅了されていたということだろう。
Kさんの希望の土地条件は主に2つ。1つめは奥様の実家からそれほど遠くない場所であること。もう1つが、庭が設けられるような広めの土地。そうして見つかったのが、神社に隣接した土地だった。
「一般的な家であれば2区画分もある、広すぎるくらいの土地でしたが、神社の杜が目の前にある抜群の環境でした」と高瀬さん。
この神社は伊勢神宮のような全国各地から観光客が集まるような場ではなく、いわゆるまちの鎮守様。日ごろは静かな環境が保たれている。そして鎮守の森は、この先ずっとここにあり続ける。いつの間にか目の前に建物が建つということはない。そして木々の緑を自邸の庭の一部として取り込めるといういくつものメリットがあった。
「Kさんも環境を気に入り、将来土地の一部を手放すことも念頭に入れつつ、この土地を入手されました」と高瀬さん。
施主の要望を的確に汲み取り
神社の隣に相応しく「伊勢らしさ」も
「私は、ヒアリングでは事細かに聞きすぎないようにしています。割と早めにプランを出し、それをたたき台に、煮詰めていくタイプです」と高瀬さん。
詳細な要望を聞き取るのではなく、叶えたいことを大まかに感じ取り、それを高瀬さんが咀嚼し、それを施主にぶつけ、家についてのイメージをもってもらう。
「きっとこんなことを望んでいるのだろう」「だとしたらこういう手法で叶えよう」という想像力と提案力で施主と勝負しているようなものなのだという。
そもそもKさんはあれこれ多くの要望があるタイプではなかったというが、高瀬さんはKさんの要望をどう感じ取ったのだろうか?
それは、ひとことでいうと「神社の杜の隣にあるという環境に相応しい家にする」ということ。
「打合せのときにふとKさんが『伊勢っぽいのもいいよね』とおっしゃっていて。それがずっと頭の中にありました。私がこれまで関わってきた住宅では、モダンさを望まれているケースがほとんどでしたが、Kさんは和テイストや木の素材感をお好みなのだと解釈しました」と高瀬さん。
また、庭も大きなキーワードになった。杜を自邸の庭の延長として、景色が楽しめることはもちろん、実用的にも使える場であること。広い庭で子どもたちが走り回ったりサッカーもできる。家族や友人が集まりBBQができる、そんな庭との距離が近い家という点も望まれていると捉えたという。
この高瀬さんの読み解きは、まさにKさんの考えていたものと一致。出されたプランは、大きな変更なく採用となったという。実はこの高瀬さんの読み解きは、Kさんだけでなく、他の施主でも正しくとらえられており、最初のプランが大きく変更されることは少ないという。高瀬さんの実力には驚かされる。
切妻屋根の3棟で庭を抱く
ご神木も見える半屋外テラスも
横長の台形のような敷地に対し、建物は北側に沿うように配置。神社の杜に面した南側を庭とした。周りの住宅から庭が守られ、さらに杜の木々が庭の延長となるゾーニングだ。また敷地の一番奥は、将来売却することも視野に入れ庭の延長とした。
特筆すべきは、建物の構成。背の低い平屋のガレージ棟の上から背の高い平屋のリビング棟が延び、さらに2階建ての住居棟が「逆くの字」に連なっている。建物が庭をその先の杜を抱えているかのような配置だ。こうすることで、外からの視線を気にせずに子供たちが遊んだり、BBQもできる。
建物の屋根は全て切妻とした。正面のフォルムは伊勢の名所の1つおかげ横丁に並ぶ店のように和を感じさせる。リビング棟は2階建てであるものの、建物の一番奥にあるため、入り口側からは見えない絶妙な高さ。
扉を開け、中に入るとそこは室内。ではなかった。ここは半屋外のテラス。屋根は掛かっているものの、庭からシームレスにつながる土間。木の構造材が見える現しの高い天井の一部は、ポリカーボネート樹脂となっており、開放感を増すとともに、神社のご神木全体が見えるようにした。この中間領域は、ガレージ棟との程よい距離感を生み、なおかつ雨や夏の暑い日差しの中でも子どもたちが遊んだり、BBQをしたり作業もできる、ユーティリティースペースだ。また、ガレージの上と天井の隙間の小屋裏には、ご主人の秘密基地スペースを提案。Kさんもとても喜んでくれたという。
テラスの先の扉を開けた先の玄関を入ると、天井の高いリビングに出る。現しになった垂木がリズミカルに並び、人間の肋骨のようにも感じられる。床のフローリングとも相まって、木に包まれているような安らかさがある。
リビングの先は天井高が低くなったダイニングキッチン。ここでリビング棟と住居棟が逆くの字に接合し、ゾーンが一変する。キッチンにいても、リビングにいても、視線の先には庭やその先の杜、特にご神木がどこにいても真正面に見えるようになった。庭で遊ぶ子どもたちの様子も手に取るようにわかり、安心なことだろう。
また、天井の高い平屋のリビングと、2階建ての建物の低い天井をもつダイニングキッチンがシームレスに繋がることで空間にメリハリがつく。こもる形のダイニングキッチンがあるからこそ、開放的なリビングがより際立つのだ。
こうして、神社の杜や庭を抱きのびやかに暮らせる家が生まれた。さらに、伊勢らしさという和テイストも取り入れつつ、モダンさも兼ね備えた。
この家が完成した時は、ちょうどコロナ禍だったという。ステイホームとなる中、Kさんご家族は、この家で快適に過ごされたという。
高瀬さんの作品を雑誌で見て「この人だったら自分が望む家をつくってくれる」という期待に、高瀬さんは見事に応えてみせた。いや、きっと想像以上の家なったと思っているに違いない。
間取り図
基本データ
| 作品名 | 杜のとなり |
|---|---|
| 所在地 | 三重県伊勢市 |
| 敷地面積 | 618.7㎡ |
| 延床面積 | 179.42㎡ |
| 家族構成 | 夫婦+子ども2人 |
| 施主 | K邸 |
撮影:Hiroshi Tanigawa
設計者情報
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