
都市の中に適切な余白をつくり出し
居場所をデザインした「廻廂の家」
その人が、その場所に建てるべき
「唯一無二の建築」を導き出す
「この場所に暮らしたい」という想いから先に土地購入を進められていたお施主様が重視していたのは、限られた敷地を余すことなく利用し、理想とするライフスタイルを実現するためのスペックを満たすこと。
4~5部屋の居室、ビルトインガレージ、来客用の駐車スペース、エレベーター、シャワー室、衣装部屋を含む多数の収納…と要望は多岐にわたり、この敷地の中でそれらをすべて成立させることが、「an Archi-Lab.一級建築士事務所」へのオーダーだった。
「ご要望をヒアリングした後、現地を見に行ったのですが、求められているスペックに対しては広さが足りないと思われる土地でした。しっかり考えないとパズルのようにただ当てはめただけの家になってしまう。お施主様もその点を懸念されていました」。
そう話すのは、「an Archi-Lab.一級建築士事務所」を共同で主宰する一級建築士の足立さんと鍋島さん。
そんなお二人が提案したのは、限られたスペースの中に意味のある「余白」を設けて、機能性と空間性の両立を図るプラン。
お施主様が望むスペックを網羅した上で、詰め込んだだけの窮屈な住まいにならないよう考え抜かれた、敷地全体に張り伸びた廂(ひさし)が特徴的な3階建てのお住まいだ。
吹抜け空間に設けた腰掛けは
光溜まりの中の「特等席」
必要な部屋を間取りに当てはめていく単純作業ではなく、敷地と対話しながら「居場所」をクリエイトしていく過程を、足立さんと鍋島さんは「場所を読み解き、居場所をつくり込む」と表現する。
その考え方から生まれたのが、3層吹抜けがもたらす光溜まりの階段室と、長手方向の南北に抜けるLDK。この発想の元となったのが、敷地南側の2~3階部分には半永久的に「抜け」ができるという見立てだった。
「敷地の形や大きさ、方位、高低差、景色や視線の抜け、日当たり、風の通り、周辺建物の状況など、土地を読むポイントはさまざまありますが、もっとも注目して見るのは、この土地の『宝物』はどこかということ。今回のケースでは、南北の両方にある『抜け』がそれでした。斜線制限により一段下がった敷地南側には、こちらを塞ぐほどの高さの建物は半永久的に建たないというアドバンテージがあったのです」と足立さん。
3層吹抜けのガラス窓から自然光が降り注ぐ階段室は、窓際に腰掛けを造作した、生活動線にとどまらない「特別な居場所」。
帰宅して2階に上がる前にちょっと休憩をしたり、お子さんがおもちゃを広げて遊んだり、寝転んで昼寝をしてみたり。
用途を決めているわけではないけれど「なんとなく居たくなる場所」は暮らしを豊かにする余白であり、そんな居場所の集合体こそが、お二人がめざす「そこにしかない、居たい建築」なのだ。
建物の四方に張り巡らせた「廂」が
限られた敷地に余白をもたらす
まず、斜線制限をかわすボリュームの外観を立ち上げ、外壁後退制限にかからない廂を四方に張り巡らせて、建物外周に半屋外的な役割を与える。
さらに、玄関を道路面ではなく敷地奥の長手面に設け、四方に張り出た廂下の空間に「アプローチや前庭、通路、坪庭、駐輪スペース、ビルトインガレージ」などを充てがうことで、敷地全体の平面利用を図るという提案だった。
「求められるスペックを必要十分に備えつつも、法規制を含めた敷地特性と応答して適切に余白を取ることで、ただ詰め込んだだけではない豊かさを実現する『都市型住宅の在り方』を体現しました。お施主様は合理性を大切にされる方でしたので、余白として提案するスペースの意義を丁寧に説明。納得し共感いただいた様子を確認しながら進めることを心がけました」と、鍋島さんは打合せを振り返る。
場所から、居場所をつくり出す
「そこにしかない、居たい建築」
「私たちがめざしているのは『そこにしかない、居たい建築』。建築地の環境や条件を丁寧に読み取り、場所から人へと収束させていく、『場所』から『居場所』をつくる設計事務所です」と語るお二人。
「この理念の下に設計した今回のお住まいは、密度を追い求められがちな都市住宅の中に無理なくきちんと余白をつくることで、『居たい場所』を実現させた一つの事例。今回は、お施主様の考え方や、求められた敷地の有効利用や必要十分なスペックによって、私たちの思考・提案も自然と合理的な方向に収れんされていきました。なにもおざなりにせず、一つとして同じでない場所と人に合わせた、詰め込んだだけではない豊かさの実現を目指す。そんな想いに共感いただける方のための居場所を、これからも一つひとつ手がけていきたいです」。
撮影:冨田英次 写真事務所
基本データ
| 作品名 | 廻廂の家 |
|---|---|
| 所在地 | 兵庫県 |
| 延床面積 | 207.94㎡ |
| 家族構成 | 夫婦+子ども2人 |
設計者情報
この建築家が建てた家
この実例を見た人はこちらも読んでいます

まるで避暑地の別荘のよう! 地域からも愛される、雑木の庭が気持ちいい住まい
平和公園にほど近い、閑静で緑豊かな住宅街に佇むKさん邸。「大きな窓から緑を感じたい」という施主の希望通り、敷地の南側に広がる庭には落葉樹と常緑樹がバランスよく植樹され、周辺の環境とも美しく調和しています。設計を手掛けたのは森建築設計室の森さん。「別荘地のような雑木の庭のある、住まう方からも、周りからも長く愛される家」をテーマに、果たしてどんな家が誕生したのでしょう。

川のせせらぎも、もはや我が家! 自然と一体の家づくりの極み
自然が好きで、山と海にひとつずつ家がほしいというQ さん。まず手に入れたのは、近くを多摩川が流れる土地でした。人の手が入っておらず木が生え放題の場所を、どうしたら川が楽しめる家にできるのか、Qさんはガーデナー建築家、勝田さんに期待をかけました。

三角形の変形敷地は、余白を活用。ひとり時間も、大勢での集いも楽しめる家
ひとりで暮らす自宅を新築するため、ほぼ三角形の敷地を購入されたお施主さま。建築家の戸川さんは、三角形の敷地に小さな正方形を配置し、余白も活用しながらゆとりある家をつくりあげた。ご友人たちとパーティーをしたり、ひとり時間を楽しんだり。どんなシーンにもフィットする家はどのように完成したのだろうか。

片流れ屋根の下、家族がひとつになりながら プライバシーを保って暮らせる住まい
開放的で、同じ空間に家族皆がいると感じられる家が欲しい。けれど子どもたちのプライバシーは保ちたいと考えられていたお施主さま。購入したのは2方向に見える山の風景が美しい、山裾にある土地だった。建築家の中川さんは、恵まれた環境を生かしつつこれらの希望を全て叶えた家をつくり上げた。

施主の理想を実現した、家族の和をはぐくむ都会派西海岸住宅
注文住宅は、施主の理想を実現するためのものである。建築家にとっては、それにどう向き合い、応えるかが腕の見せ所。「アメリカ西海岸風の家」というテーマに対し、建築家の幸田真一さんは、どのようなアプローチをしたのだろうか。

日当たり 良好な2階はすべてが特等席!富士山も見える、都心の絶景注文住宅
Fさんご夫婦が、それまで住んでいた社宅から近い場所で出会った、見事な眺望を誇る土地。「見晴らしが良く、シンプルな家にしたい」というご夫婦の思いにこたえたのが、建築家の木名瀬佳世さんだ。Fさんご夫婦と木名瀬さんがつくりあげた、理想の家づくりをご紹介します。

実家も勤務先も“お隣”!子どもたちがのびのび過ごせる家
建築業に携わるご主人とその奥さま+小さな子ども3人、一家5人が仲良く暮らす家。若いご夫婦が「子どもたちの成長をずっと見守っていける、心のかよい合う住まいを」と願い、細部にわたり杉山靖彦さんと話し合いを重ねてできたのがこちらのお宅だ。施工にはご主人やご主人のお父さまも参加。家族みんなが心地よく暮らすための工夫が随所に施された、こだわりの家を紹介する。

ペットがいてもインテリアをあきらめない。 犬猫専門建築家がつくる大満足の住宅とは?
ペットと暮らす家をどうつくるかは、飼い主にとって大事なテーマ。でも、「ペットのための何か」を加えただけでは、人もペットも真の満足感を得られない。ではどうするか? その答えは、犬猫専門建築家・廣瀬慶二さんの自邸兼アトリエにあった。

まるで十徳ナイフ あえて「狭小住宅」という選択
家族で暮らす「狭小住宅」というと、予算や土地といった制約から「やむを得ない選択だった」ということもあるだろう。そんななか、妥協ではなく「この狭小住宅に住みたい!」と思う家族が絶えない建築家がいる。新潟県で狭小住宅に特化した家づくりを行っている、ネイティブディメンションズ一級建築士事務所の鈴木さんだ。多くの人々から選ばれる狭小住宅とは、どんなものなのだろう。






