
室内にいながら屋外のような開放感!
料理好きの奥様のために建てた鎌倉の注文住宅
Eさんご夫婦のお住まいはセカンドハウスという位置付け
こうして、ご夫婦が選んだ場所は鎌倉だった。巡り会った現在の場所は、閑静な住宅街でありながら、あじさいが有名な長谷寺が散歩コースという好立地。鎌倉という土地に馴染みつつ、Eさんご夫婦の希望をかなえる住まいを手掛けたのが、建築家である松岡淳さんだった。
「この家はご主人のご意向もあり、奥様の希望をかなえることに重点を置いて設計しています。まず、予算の上限を決め、そのなかでベストを尽くしました」と松岡さん。料理を楽しみたい家というと、多くの場合、キッチンまわりを軸に設備を充実させようと考えがちだが、松岡さんならではのクリエイティブな発想が、Eさんご夫婦を感嘆させることになった。
「料理というのは、作るだけでなく食べる楽しみもあるわけです。キャンプやバーベキューで食べる料理が格別に美味しいと感じることがありますよね。また、小学校の調理実習の授業で、友達と大きな調理台を囲んで料理を楽しんだ記憶をお持ちの方も多いと思います。そこで、最高に料理を楽しめる家ってどういうものがベストだろうかと考えたときに、“屋外のように開放的な空間で、気心の知れた人たちとの料理を楽しめたら良いのではないか?”というアイデアにたどり着いたんです。このアイデアを取り入れたご提案をしたところ、すごく喜んでいただけたんです」と松岡さんは語る。
繰り返しになるが、Eさんご夫婦にとって、このお住まいはセカンドハウスという位置付けだ。この住まいを拠点にして、関西方面などへ旅行に出掛けることを想定しており、滞在するのは1ヶ月に1回程度、期間は1週間ほどだという。セカンドハウスならではの思い切った設計ができることも、この住まいが実現した要因のようだ。
すべては料理好きの奥様のために…。決められた予算のなかで目指した住まいとは?
1階部分は、和室とリビングダイニング、そして洗濯機や冷蔵庫、エアコンの室内機(全館を空調できるもの)などをまとめて置けるユーティリティスペース、そしてトイレという構成だ。生活感が感じられがちな玄関は、敢えて框(かまち)を設けず、靴を脱ぐスペースが明確に区切られていない。「室内にいながら屋外にいるかのような開放的な空間を演出したかったんです。そこで、和室だけ段差をつけまして、ここを屋内、あとは屋外と捉えていただいてもよい設計としました。家の中に縁側を設け、そこを境に屋内と屋外が家の中に内包されているイメージです。突飛な発想のように聞こえるかもしれませんが、土間にかまどが置いてあるような、伝統的な町家の構成が骨格となっているので、どこか懐かしさが感じられる空間となっています」と松岡さん。その屋外的な要素を強調するために、床からは1本の木が“生えている”かのような演出がなされている。
「この木はシマトネリコと言いまして、玄関先にシンボルツリーとして植えられることが多い木なんです。光が差し込めば室内でも育ちますし、毎日水やりをする必要もないほど丈夫な木なんです。床の上にプランターを置く方が簡単なのですが、これを敢えて床材の下にプランターを置き、“地面から木が生えている”かのような演出を試みました。床の仕上げには、フレキシブルボードという安価な素材を使用しています。この素材を用いることで、コストを抑えつつ、モルタル仕上げの土間のような印象を作り出すことができるんです。さらに、シマトネリコの存在と相まって、まるで屋外であるかのような空間を演出するのに一役買っています。もちろん、周囲のボードを取り外してプランターごと持ち上げることも可能なので、メンテナンスも簡単です」と松岡さんは語る。和室からシマトネリコの木を眺めていると、まるで縁側から庭を眺めているかのような錯覚を覚える。そして障子を閉めると、完全に独立した空間となるのだ。
1階の大部分を構成するリビングダイニングにあるのはアイランドキッチンだ。この部屋のために設えたオーダーメイドのように思えるが、実はシステムキッチンをベースにセミオーダーした既製品であり、これだけでかなりコストが抑えられるという。そして何より、開放的な空間で料理をつくりながら、ダイニングテーブルに座るご主人や友人たちとの会話も楽しむ光景が目に浮かぶ。実はここにも、松岡さんのさりげない配慮が行き届いている。「"屋外にも見える”という設定ですから、照明類も直接目に触れることのないような配置を心掛けました。存在は隠れているけれど、照明としての役割を果たしていることに重きを置いています。さらに、家の中では冬でもTシャツで過ごすという北海道の生活に慣れたお2人のために、この家では全館空調(基礎断熱工法により、床下を空調するシステム)を採用しています」と語る。
2階は、寝室および洗面所と浴室、そしてトイレという構成だ。寝室から1階の様子を眺められるようになっており、障子を閉めればプライベートな空間を保つことも可能な設計となっている。さらにバルコニーが備えつけられているので、寝室から直接屋外に出て朝日を浴びることもできそうだ。
浴室は敢えて既製品のユニットバスを選ばず、コストを費やしてでもこの住まいの雰囲気に合ったものとしているという。「浴室の向こうに見えるのは、半永久的に建物が建たない敷地なんです。この借景に映える浴室のイメージを頭に浮かべたとき、ユニットバスにしてしまうのはもったいないと考えたんです」と松岡さん。
決められた予算のなかで、施主と建築家が信頼関係を育みつつ、二人三脚でつくりあげたからこそ、鎌倉の街並みに映え、Eさんご夫婦にとって理想の住まいができあがったのだ。高級な材料をふんだんに用いたとしても、それが美しいとは限らない。それは料理にも同じことがいえるかもしれない。一緒に味わい、会話を楽しむからこそ、より一層料理が美味しく感じられるのだろう。そして何よりも、このE邸という空間が、奥様の手料理に彩りを添えるうえで欠かせないスパイスとなっていることは間違いなさそうだ。
基本データ
| 所在地 | 神奈川県鎌倉市 |
|---|---|
| 家族構成 | 夫婦 |
| 予算 | 2000万円台 |
| 施主 | E邸 |
設計者情報
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