
1階に生活を集約、安全に暮らせる家に。
築100年の古民家をリノベーション

戸川 賢木
とがわ さかき
一級建築士事務所サカキアトリエ
静岡県 静岡市
読書が好き。ミステリー小説とかで1頁1頁、1字1字、ドキドキしながらゆっくり読むのが好き。ポジティブになれる本が好き。でもあまり難しい本は読みません。 ジョギングが好き。でも気ままなので頻度は疎ら。 休日はバルコニーでBBQ。お酒?飲みますよ。 基本ポジティブ。 良いと思ったものは使い続ける、食べ続ける、眺め続ける。 良い出会いを大切にしています。
不安を解消したい。ほぼ使用されずにいた
古民家をリノベし、1階のみの生活に
依頼したのはMさま夫妻。以前は増築側に設けられた1階のダイニングキッチンと、2階の寝室と浴室を使用して暮らされていた。古民家のほうは仏壇にお参りいらっしゃる来客の接待に使うことくらいで、主に物置のようになっていたとのこと。
夫婦ともに70歳を超え、だんだん2階への上り下りが億劫になるなど、日常生活に不安が生まれ始めたことからリノベーションを決意。戸川さんが提案したのは、古民家部分をフルリノベーションして仏間や応接室、寝室、水回りを配置し、既存のダイニングキッチンはそのまま使用するプランだ。
さすがに築100年ともなれば傷みもあり、夏は暑く冬は寒い家だったという古民家。壁は全て取り払い、断熱性能の高いものに変更することでこの上なく快適な住環境を実現した。もちろん室内はバリアフリーに。加えて要所要所で手すりも備えている。1階で生活が完結するおかげで階段の心配がなくなっただけでなく、思わぬ転倒などに対する不安もぐっと減り、安心して暮らせるようになった。
バリアフリーはもちろん壁面もフラットに。
歩きやすさを追求した動線で暮らしやすく
まずひとつは、仏壇へお参りにいらっしゃる来客をスムーズに応対するための居室の配置や動線だ。広々とした玄関を上がると応接室、仏間までが一直線で繋がる。お客さまも高齢の方が多く、最短距離でアクセスできるようにしたかったと戸川さん。一度にたくさんの人数が集まることはないため、仏間は3畳とコンパクトに計画。しかし、応接室と繋がる壁面には縦格子が入り視界が抜けるおかげで、圧迫感はない。さらに玄関側の仕切り戸を開放すれば、視線を適度に遮りつつ玄関まで見通せるようにした。
仏間のみを畳スペースとし、応接室は板の間にテーブルと椅子を置くプランにしたのも立ち座りを考慮してのことだ。また、応接室は既存のダイニングキッチンに隣接しており、お茶の用意もしやすい。ご夫妻にとってもお客さまにとっても安心してくつろげる環境を整えた。
プライベート空間についても細やかな配慮が光る。玄関から仏間までの動線の左側に、寝室と水回りをやはり直線で繋げる動線をつくった。中心にある応接室が2つの動線を緩やかに繋げている。寝室を出て、前へ進むと水回りへ、右に進むと応接室やダイニングキッチンへ、と室内全体でとにかく単純な動線を意識した理由はやはり「歩きやすさ」だ。「1回の折れ曲がりがあるだけで、だいぶ歩きにくくなってしまうんです」と戸川さん。
もちろん、将来に向けても考えた。ひとつひとつの空間がゆったりとしているのだ。先述の通り床がフラットでバリアフリーであることはもちろん、寝室や水回りの仕切り戸が大きく開くため、車椅子を使用するようになっても動きやすい。
もうひとつ、暮らしやすい家にするために大事な要素があるという。それは、床だけでなく壁面も可能な限りフラットにすることだそうだ。なるほど、手摺りを使用している場合に途中で凹凸があったら、と想像すると納得できる。
よく表れているのが、玄関とその裏に配置された寝室の関係。寝室にはベッドを置く予定で、壁の幅いっぱいにベッドヘッドを兼ねたカウンターをあらかじめ造作した。そして、カウンターをつくるにあたりできた張り出しの部分を、裏側に位置する玄関の靴箱のスペースとして活用したのだ。玄関側から見ると靴箱は壁の中に吸収されており、壁面がすっきりしている。
さらに、必要な量も見極めたうえで、室内の的確な位置に収納を設けた。家具を置く必要がなくなり、フラットな状態が維持できる。
Mさま夫妻から不安な要素を伺ってそれを排除するだけでなく、さらに深く理解し、まるで先回りするかのように細やかにプランへ反映する。経験豊富な戸川さんだからこそのプランニングだといえるだろう。
築100年の記憶を残したリノベーション。
古く貯まった不要物整理のきっかけにも
ほかにも寝室の雪見障子や襖など、再活用しているものは多くある。さらに、これらのものと雰囲気を合わせて壁や床の塗装色を選び、新しいのに親しみやすく落ち着く家ができた。それでいて新しく入れた柱や、床の高さが変わったことで既存の柱の間にできた隙間を埋めた部分には、あえて新しさを残しアクセントを加えている。
また、100年もの長い間家を支えてきた梁や柱は現しとした。どっしりとした雰囲気はそれだけで安心感がある。以前の天井を取り除いて天井高を上げ、一部は梁と天井の間に壁を入れずに間を空けたことで、空間に開放感が生まれた。さらに、それによって室内全体に光が届くようになったという。仏間は家の奥にあるが、玄関からの光が格子を抜けて届くため暗すぎるというイメージはない。
築100年だからこその課題もあった。以前は物置のように使われていたということからもわかるように、何世代もがこの家で暮らしていたため、不要なものが貯まっていたのだ。そこで戸川さんは一角に納戸とも呼べるような大型の収納を計画した。おかげで思い切った整理ができたという。さらに次の世代に渡していくためにも、リノベーションがいいきっかけとなった。
バリアフリーに改修したい、ということからはじまったリノベーション。狙い通りに期待を超えるプランでご要望に応えた。「お引き渡し時、笑顔でお礼を言っていただきとても嬉しかったです」と戸川さん。それはMさま夫妻にとって暮らしやすく、だけでなく、暮らしが楽しみになる家に生まれ変わったからに違いない。
基本データ
| 作品名 | 層の格子 |
|---|---|
| 所在地 | 静岡県静岡市 |
| 家族構成 | 夫婦 |
| 予算 | 1000万円台 |
撮影:橘 薫
設計者情報
この建築家が建てた家
この実例を見た人はこちらも読んでいます

ストーリーを感じる空間は極上の居心地。 視界いっぱいに海が広がる、美しい青瓦の家
沖縄県では珍しいという木造住宅を数多く手がける建築家の岸田さん。優れた性能を確保することはもちろん、デザイン性の高さも岸田さんがつくる住宅の魅力のひとつだ。気候や風土、地域と調和し、住まう人が愛着を持てる家はどのようにつくられるのか。作品のひとつ「グランブルーテラス」を例にとり紹介する。

狭小でも明るくほっこり 1階と2階が緩やかにつながる家
深い庇に切り取られた豊かな緑が美しい広々バルコニー。木のぬくもりを感じる開放感抜群のリビング。狭小地であることを感じさせない、居心地の良い住宅を設計したのは、ESPAD環境建築研究所の藤江保高さん。狭小・ローコストという難題をクリアし、家族4人が快適に暮らせる住まいの秘密に迫る。

建てる前に知っておきたい!「本当に快適な家」のつくり方
家を建てるなら、こんな間取りでこんな床。窓はこうして照明は…。多くの場合、インテリアの延長で家への夢を描きがちだが、長く快適に住むには機能性も大事。天井高約5mの開放的なリビングのある住まいを建てたC様ご一家は、建築家・関太一さんとの出会いで「あること」への意識が高まり、想像をはるかに超える住み心地の良さを実現。プロのアドバイスがなければなかなか気づかない、その「あること」とは?

築15年の鉄骨造の家を大胆リフォーム。 森のような庭を楽しむための贅沢な住まい
洋風な外観、建売住宅を彷彿とさせるインテリアの築15年の家を、リフォームすることに決めたお施主さま。素材感が楽しめる、格調ある家にしたいと考え建築家を探し始めた。依頼を受けた傳寶さんは、お望み通りの品格ある佇まいの家と、豊かな庭を実現。居心地も含め全てが上質な家ができた。

大きなスラブが1階の屋根&2階の床に。 建物内外の回遊性をとことん高めた住まい
東京・名古屋を拠点とする女性建築家の謡口志保さん。繊細なやさしさと、施主に「男前」と言わしめるいさぎよさが共存するデザインは、感性豊かな発想から生まれている。建物・空間のみならず、ご家族の快適な暮らしまでを見据えた謡口さんの設計の素晴らしさが詰まっているのが、今回紹介するT様邸だ。

あえて収納を減らす、子どもと楽しむ住まいのリノベーション
リフォームして新たに生まれ変わったM様邸。無垢のフローリングにラワン合板のしつらえがとても美しいシンプルなお宅は、木と家族のぬくもりがいっぱいにあふれている。

土手下の三角の土地に理想の我が家を ウイークポイントを個性に変える匠の技
家づくりにおいて土地条件は大きな要素だ。広さ、形状、高低差などの理由から、思い描いていた家が建てられないということもよくある話。「土手下の三角の土地」での建て替えを計画したIさんご夫妻。ハウスメーカーや工務店などと話をするも、希望通りの家にはなりそうもなかったという。そんな中、一縷の望みをかけたのが、土地のもつ力を巧みに利用し、快適な空間を作りだす匠、ア・シード建築設計の並木さんでした。

1階は保育園の園庭で2階が住居?併用住宅に夢と可能性を感じさせる居心地の良い家
Mさんは、代々暮らしてきた土地に建つ戸建てでひとり暮らしだという。そんなMさんが、現在の住み慣れた土地に新たな住まいを構えようと考えたとき、単身女性でも安心かつ居心地の良く暮らすにはどうすれば良いのか?結果的に導き出された答えは「1階の一部をお隣の保育園の園庭にする」という斬新なものでした。このプランを見事に実現したのは、「松浦荘太建築設計事務所」代表の松浦荘太さん。ちなみに、依頼主であるMさんとは、実は松浦さんのお母様なのです。母親と息子。親子ならではの、お互いを知り尽くしているからこそ実現できた「皆が幸せになれる住まい」について、松浦荘太さんにお話しを伺いました。

明るく広いLDKと多彩な収納で、すっきりシンプルな暮らしを実現
明るく快適なLDK、使い勝手の良いたっぷりの収納、そして無駄のない家事動線。施主のKさん夫妻が、それまで暮らしてきた家で感じた不満を解消すべく、建築家の北川裕記さんとともに家造り。居心地のよい空間、それぞれの用途にあった収納と動線の工夫とは?すべての要望を見事に実現した解答プランを見ていきたい。





