
広さ5m×10mの狭小地で実現
運河の街に溶け込むプライベートサロン
5ⅿ✕10ⅿの狭小地で始まった
堀川を奥庭に据えたサロンづくり
そんな堀川沿いに立つのが、Oさんが2022年4月にオープンしたプライベートサロンだ。もともと隣地にあるビルでサロンを経営していたが、そのビルを立ち退くことが決まり、たまたま空いていた隣の土地を購入。そこに新たなサロンをオープンすることを決めたのだという。
土地の面積は66.47㎡。5m×10mほどの決して広いとは言えない土地である。友人からの紹介で設計を担当することとなった佐々木さんは、最初にその土地を見た時の印象をこう語る。
「やはり狭いと思いました。でも、堀川は東京でいうと神田川のような風情ある川で、川奥に名古屋城が隣接しているのでとても景観がいいんです。Oさんからも『この景色を活かすことができないか』という要望をいただいたので、景色を眺めながらゆっくりと過ごせる居場所をつくれたら…と夢が広がりました」。
Oさんの希望は、訪れたお客様がゆっくりと過ごすことができ、かつ自分自身もくつろいで働ける場所。併せて、Oさんの趣味であるアンティーク家具や植物が映える場所にしたいという要望も伝えられた。
「あとは、やはり美容院なので、カット台やシャンプー台の数が決まっていました。カット台が3台、シャンプー台が2台。それでサロンの規模感が大体決まっていきました」と佐々木さんは語る。
外と内の空間を繋げることで狭さに負けない開放感を演出
外観は印象的な灰色の金属張り。モダンな印象を与えつつも、周囲の街並みに溶け込むよう工夫されている。玄関は真鍮製の戸袋に扉をすべて引き込むことができ、街とカットサロンが開放的につながるつくりだ。中に入ると、そこは吹き抜けの広々とした空間。ところどころにOさんの趣味であるアンティーク家具が配されており、落ち着いた雰囲気となっている。
建物の中はスキップフロア構造で、サロンから堀川へ向かって階段を降りると目の前に堀川を臨むシャンプースペースが。そして吹抜けを介して半階上がると、川に向かって大きく開いたコミュニティサロンのような待合スペースが現れる。まるで川床のようなこのスペースは堀川を眼下に臨み、名古屋城の緑や行き交う遊覧船を眺める優雅な時間を楽しむことができる。さらに待合から半階上がったカットサロンの上階には、エステサロンが配された。
閉じがちな空間の内外を繋げることで、敷地の特性以上の奥行き感を最大限に引出すことに成功した今回のサロンづくり。
「Oさんからは特に感想はお聞きしていませんが、不満の声をお聞きすることなく使っていただけているのが一番の誉め言葉じゃないかと思っています」と佐々木さんは言う。
そんな佐々木さんに、自身が建築家して常に心掛けていることは何かを聞いてみた。
「やはり、建物と周囲の街の雰囲気に親和性を持たせることですね。今回のように狭小地で川があるから川に向かう。というのはわかりやすいですが、新宿のゴールデン街ならどんな家が良いか。軽井沢の別荘地ならどんな家が良いか。周囲の環境と住まい手、自然、状況をクロスさせて家づくりをするように心がけています」。
その言葉どおり、運河の街に溶け込むOさんのプライベートサロン。これからもこの街と共に歩み、多くのお客様と物語を紡いでいくことだろう。
基本データ
| 作品名 | ant. |
|---|---|
| 所在地 | 愛知県 名古屋市西区 |
| 敷地面積 | 66.47㎡ |
| 延床面積 | 79.88㎡ |
| 予算 | 2000万円台 |
| 施主 | Oさま |
撮影:Tololo studio 谷川寛
設計者情報
この実例を見た人はこちらも読んでいます

故郷に似た気候の札幌へ、東京から移住 2人の英国人が堪能する、坪庭のある家
札幌市の手稲区に、独創的な邸宅が誕生した。母国の気候に近い北海道へ、東京からの移住を決意した2人の英国人女性のための家だ。この地を選んだ決め手は、金山の雄大な眺望だった。一方で住宅街にあるため、隣家からの視線カットも必要となる。眺望とプライバシー確保の両立に成功した、この作品をご紹介しよう。

緑豊かな八ヶ岳の自然の中に佇む 家族が集うファミリーハウス
高知県に暮らす施主のIさんご夫妻。ずっと憧れていた山の暮らしを実現すべく、設計を依頼したのは、施主とじっくり対話し、自然環境とマッチした家をつくることに定評のある建築設計SOOの服部さん。土地探しから関わり、つくりあげた八ヶ岳のファミリーハウスに迫る。

プライバシーと採光を叶える「ずらし」の妙 個の時間も、家族の団欒も楽しい2世帯
住宅密集地での二世帯住宅づくりは、プライバシーの確保、さらには採光・通風など解決すべき課題は多い。その難問を様々な手法で見事に両立させてみせたのは、顧客との「対話」を通じて価値観や家づくりのプロセスを「共有」することを大切にしている建築家、河野有悟さんだった。

モダンと暮らしやすさを両立した、自然と人が集まる家

リノベーションだからこそ叶えられた 安全、快適、立地すべてを満たした住まい
結婚を機に自宅をつくろうと考えた建築家の西本さん。選んだのは事務所のすぐそばで売りに出ていた倉庫をリノベーションすることだった。和歌山市内でも一等地で住まいを持てたのはリノベーションを選んだからこそという西本さん。安全性を高め、光や風にあふれる住まいをどのように実現したのだろうか。

土地の声を聞き、敷地の課題をクリアする。 風景に馴染み、奥行き感ある平屋
畑の土地を宅地に変更、家を新築するご依頼を受けた建築家の森屋さん。敷地には様々な課題があったが、環境を見極めクリアした。同時にその工夫は内部空間にも生かせるように計算されており、お施主様が望むコンパクトながら奥行き感がある平屋ができた。一帯の風景をより魅力的にしているこの家の秘密を探る。

融通無碍な発想と専門知識で難条件を克服 「室内の通り」がある大ワンルーム住宅
氾濫リスクがあり、交通量の多い国道に面した難条件の土地を、土木知識と建築の力量で見事に解決したのは、愛知県豊橋市在住の建築家・伊藤啓輔さん。鍵となったのは「室内の通り」という独創的なアイデアだった。そうして生まれたのが、建物に生活が縛られない、可変性と自由度に満ちた大きなワンルームの家。融通無碍な発想が生んだ住まいの秘密に迫る。

家族を繋ぐリビング、元気に遊べる庭。 スキップフロアが叶えた安心で快適な暮らし
「子どもが遊べる広い庭」「明るく暮らしやすい家」という要望を、駆け回れるほど広い庭と奥行きある建物で叶えた建築家の池田さん。庭でも室内でも親の視線が死角なく届き、安心してお子さまが遊べる家になった秘密は家族をつなぐスキップフロアにあった。

木立の中での暮らしを楽しむ 河畔林にそっとたたずむ家
「巡り合ったその土地に住むことが、もっと好きになる家を」。建築家の斉藤さんが大切にする想いと、施主Sさんの「自然に囲まれて暮らしたい」という想いから生まれた「河畔林にたたずむ家」。土地の魅力と生活空間をどのように重ね合わせ、住まいに形を与えていったのか。そのプロセスについて伺った。
