
きらめく滝と、北欧ナチュラルな住空間
注目のグリーンインフラ「雨庭」のある家

小俣 忠義
おまた ただよし
フレイム一級建築士事務所
東京都 世田谷区
設計事務所開設と同時期、近隣で偶然起きた住環境問題をきっかけに地域の人たちと世田谷区第1号の建築協定を結ぶ。 このことが、「地域独自の住まいの建て方ルール」をつくる方法として、多くの地域の先例となった。 その根底に流れる子供たちへの安全・安心の思いから「NPO世田谷まちづくり市民評議会」を主宰し、個人の住まいづくりの視点だけではなく、まちづくりの視点も大切に建築家の地域に果たす役割を強く意識しながら、現在も活動を続けている。

金子 有太
かねこ ゆうた
フレイム一級建築士事務所
東京都 世田谷区
大手ハウスメーカー(営業)勤務後、一緒に住まいをつくりたい!と大きな期待を寄せているクライアントと自身との関係に疑問を感じ漂流。マンガアシスタントやインテリア現場を経て、一級建築士を目指す。 「造るプロセスを共有化すること」を特に大切にしているフレイムに漂着し現在に至る。 建築設計から、耐震診断、まちづくり活動に関わる。
水害対策で国交省も推進
大量の雨で下水があふれるのを防ぐ「雨庭」
そんな施主さまが設計を依頼したのは、フレイム一級建築士事務所(以下、フレイム)の小俣忠義さんと金子有太さん。2人は心豊かに暮らせる空間デザインに定評があるが、未来を見据えたまちづくりの活動でも知られる建築家。豊富な知見をもとにプランを練り、「街に対して役立つ何か」という要望へのアンサーとして、グリーンインフラの「雨庭」を提案した。
グリーンインフラとは、近年、国土交通省が推進しているもので、自然環境の機能を生かして災害対策などを図る設備や取り組みのこと。「雨庭」はグリーンインフラの1つで、雨水を貯留し、少しずつ地中に浸透させていく植栽空間を指す。貯留と浸透により、雨水が一気に下水に流れ込んであふれるのを防ぐ──即ち、都市部の水害に多い内水氾濫のリスクを低減させる設備だ。
施主さまはこのグリーンインフラの考え方に賛同してくださり、「雨庭」のある家づくりがスタート。だが、「雨庭」は公共施設などで導入が進み始めているものの、個人住宅で取り入れているケースはまだ非常に少ない。
それでも常に新たな可能性にチャレンジし続けるフレイムの2人は、住宅設計とまちづくりのノウハウを結集させて「雨庭」のある住まいを実現。先進的でサステナブルな災害対策でありながら、心が潤う豊かさも備えたフレイムらしい「雨庭」を、次章でじっくりご紹介したい。
「雨庭」という防災設備を、
唯一無二のアイデアで街を彩るデザインに
仕組みをざっくり説明する。まず、この家は2階のバルコニーの屋根に穴があり、ここから雨を集水。バルコニーの床に降った雨水は屋外の配水管で下に流れて分岐し、1つは花の水やりに使う地上の雨水利用タンクへ。もう1つは庭に建てた防災備蓄倉庫上の植栽に滞留し、そこがあふれると倉庫の壁をつたう滝となり、先述の「雨庭」に流れていく。そして、かわいい草花が植えられた「雨庭」では、流れ落ちた雨水がゆっくりと地中に浸透。その隣には、地中に埋めた浸透貯留タンク(雨水を貯めて少しずつ地下に浸透させる設備。一般に浸透桝=しんとうます=ともいう)もある。
一連のシステムの中で、今回、フレイムの2人がこだわったのは暮らしを彩るデザイン性だ。「心豊かに暮らせる住空間は私たちが常に目指していることです。今回の『雨庭』も、意匠の1つとして昇華させたいと思いました」と小俣さんと金子さん。
というのも、この家でも取り入れた地中の浸透貯留タンクはすでに普及している有効な防災設備だが、あくまでも設備の域を出ておらず、お世辞にも見て楽しいとはいえない。
そこで2人は、浸透貯留タンクと「雨庭」を組み合わせて「雨水が一気に下水に流れ込むのを防ぐ設備」を独自に再構築し、さらには、雨水が「雨庭」に到達するまでのルートを観賞できるようにデザイン。例えば、防災備蓄倉庫上の植栽の配水では、雨どいに多数の穴を空けた簡易的なスプリンクラーを実現し、水と緑のすがすがしい光景を創出。これが簡単そうで難しく、調整にかなり苦労したのだそう。また、最後に雨水が流れ落ちる倉庫のコンクリート壁は、杉板型枠とステイン塗装で天然木のようにデコレーション。耐久性の高いコンクリートでありながら見た目は木の印象だから、雨水が壁をつたう様子は小さな滝そのものだ。
水音も心地よいこの爽やかな光景は、ある程度の雨が降ると数時間楽しめる。雨天後は住まう人も道行く人も、「雨庭」の水と緑を楽しめるとあれば、憂鬱な雨もなんだかうれしくなりそうだ。何より、“地域の水害対策に貢献”“街に彩りをもたらす”という2つの側面で、「街に役立つ何か」という要望がかなえられていることがすごい。
個人住宅で「雨庭」を導入したことも注目に値するが、配水管を分岐させてタンクと「雨庭」に振り分けるフレイムのアイデアは極めて独創的で先進的。それだけにこの事例は多方面で評価され、「グリーンインフラネットワークジャパン2024」の全国大会の一部門で最優秀賞を獲得している。
「雨庭」は、できるだけ多くの住宅が取り入れることで、地域の水害リスク低減効果がいっそう高まると2人は話す。
「この事例から、『雨庭』は特別なものではなく、どの家でも取り入れられて、まちづくりにも貢献でき、植栽としても楽しめる住宅設備の1つなのだと感じていただけたらうれしいです。敷地の大小にかかわらず導入可能ですから、耐震や断熱のように家づくりのスタンダードとなり、『雨庭』のネットワークが広がる未来を願っています」
配色センスが光る、北欧ナチュラルな空間
心豊かに暮らせるやさしい住まい
家族のコミュニケーションを大切にしている施主さまは、お子さまが帰宅したらリビングを通って自室に行く間取りを希望。住空間は、ホッとくつろげる温かみのあるテイストをお望みだった。
この要望に部屋数や広さなどの諸条件をかけ合わせた結果、玄関を入ってすぐにLDKという若干唐突なプランになった。けれど、気分の切り替えを促す演出が得意なフレイムの2人が、唐突さをそのままにしておくわけがない。今回は玄関からLDKまでのコンパクトなスペースにヨーロッパの天然植物をプレスした壁紙を入れ、角にはアール(曲線)もつけて柔らかさを表現。LDKと仕切る建具はアコーディオンカーテンを使い、帰宅したお子さまを温かく迎えるやさしげな空間をつくり上げた。
また、家具はIKEAの協力を得て、施主さまと相談しながらセレクト。内装はシンプルに徹し、家具やファブリックで差し色を効かせたオールIKEAの空間は、「北欧の憧れリビング」とでもいいたくなるほど洗練されている。
同時に、一角にカウンターを設けたり、持ち運びしやすいサイドテーブルを置いたりと、フレキシブルに居場所を選べるさりげない工夫がなされている点も見逃せない。要望通り家族みんなで憩う一体感と、ほどよい距離感を両立させた居心地満点の空間となっている。
ちなみに、玄関を入ってすぐの天然植物の壁紙には、手摘みされたマーガレットが押し花のように入れ込まれている。
「実は、マーガレットは『雨庭』にも植えています。敷地に入るときにマーガレットがあって、玄関を入ったらまたマーガレットに出合う。この演出に、どなたか気づいてくださるとうれしいんですけど」と、いたずらっぽく笑う小俣さんと金子さん。やはりフレイムの2人は、心が温かく、豊かになる家をつくってくれる人たちなのだ。
基本データ
| 作品名 | 雨庭の家 |
|---|---|
| 所在地 | 東京都 世田谷区 |
| 敷地面積 | 163.94㎡ |
| 延床面積 | 163.86㎡ |
| 予算 | 7000万円台 |
撮影:大槻茂
設計者情報
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