
2つの棟をブリッジがつなぐ
浮かぶ建物の下から中庭の緑が見える家
景観との調和、高低差、地下を通る水対策
すべてを解決した、2つに分かれた家
「子どもが遊ぶ姿もほとんど見られなくて」と語る2人。お子さまが元気いっぱいに遊べることはもちろん、家が建つその場が少し明るく楽しい雰囲気になるような家にしたいとプランニングが始まった。
真っ先に浮かんだのが、庭で遊ぶ子どもを家の中から親が見守る風景だ。しかし、ただ庭を設ければいいというものでもない。近所には道路側いっぱいに建物が配置された家が多く、セオリー通りに道路側に庭を、家は奥にと配置すると、景観の調和が乱れてしまう。それは不本意だったと2人は語る。
さらに、土地を購入した後に判明した課題もあった。土地の上のほうに大きなため池があり、そこからの水が敷地のすぐ下を流れていることがわかったのだ。このエリアはアップダウンが激しく、この家の敷地内で1m程度の高低差がある。奥側の高いところは一般的な基礎のつくり方で対応できるが、道路側の低い部分は水や湿気の対策が必須となったという。
これらの課題をひとつひとつ丁寧に解決していき、出した答えは2棟分棟。道路側にLDKの棟、奥側に寝室やトイレ、浴室などプライベートな空間を集めた棟をそれぞれ配置して、その間に中庭を設けた。加えて敷地の低い部分にあたる道路側の棟は、湿気対策を兼ね筋交いで建物を持ち上げた。
道路側にはあえて窓をつくらず、建物の浮遊感を強調したという。木製の筋交いは主張しすぎることがなく、なるほどふわりと家が浮いているように見える。「学園前の家」は昔ながらの住宅街の雰囲気は残しつつ、それでいて新しい息吹を感じる、まさに若い家族が楽しく暮らせる理想的な佇まいだ。
浮かぶ建物の向こうには美しい緑が。
2棟に挟まれた中庭が、暮らしを豊かにする
実際に中庭まで進めば開放的な空間が広がる。さんさんと日が差し、植物たちも元気に育ちそうだ。2つの棟に挟まれた中庭だが、隣家との間に塀を設けていないため抜け感がある。さらに、道路側の棟の下から道路へ視線が伸びるため圧迫感は感じられない。2棟はともに庭に面して全面開口しており、庭と室内、どこにいてもお互いの様子がわかりやすく安心だ。
2棟は真ん中を走るブリッジで繋がっている。庭はブリッジを挟んで片側に花や木を植え、反対側にはウッドデッキを設けた。ウッドデッキのレベルはプライベートなエリアである奥側の棟に合わせている。くつろぎのスペースとしてはもちろん、水回りから近いため洗濯干しスペースなどとしても便利に使用されているとのこと。
いわゆる渡り廊下の役割を果たすブリッジは、室内の一部ではなく外構に近いイメージに仕立てたいと、外装にはポリカーボネート板を用いた。ラフで華奢なつくりだからこそ、建具を開け放てば庭がひとつになる。また、庭のどちらかに面しているほうだけ開けたり、もちろん両側を閉じたりもできるため、多彩な庭の使い方ができるのだ。庭のしつらえが両側でそれぞれ違うことも、更なる可能性を広げている。
余計なものをそぎ落として統一感を演出。
その結果としてコストが抑えられる
2棟は雰囲気を合わせた内装で、室内は構造材の梁や天井を現しにしており高さがある。照明は、裸の細い蛍光管を天井から吊るした。昼間は注意して見なければ気づかないほど存在感がない照明のおかげで、空間が一層広く感じられる。
玄関は奥の棟にあり、ブリッジを通ってLDKに進む。2棟は庭に向かって開口しているため反対側に視線や声が届きやすく、ご要望の「コンパクトな間取り」が叶った。
LDKはすっきりと整った印象だ。リビング空間のテレビが置かれた壁面の裏は収納棚。本をたくさんお持ちのHさまのために収納場所を確保したと同時に、見せたくないものも隠せる。さらに、この棚は動くのだ。「将来、部屋の内側に棚を動かして一部屋増やすこともできます」と2人。フレキシブルに使える場所は、将来必ず役立つときが来るだろう。
「コンパクトに」という希望は、ダイニングキッチンでも叶えられている。作業するワークトップを大きなものにし、ダイニングテーブルを兼ねた。食事をした後そのままそこで洗い物ができて便利なのはもちろんのこと、お子さまのお絵描き机となるなど、一日のシーンに合わせて使い方が変化する。
さらに、そのテーブルや収納棚が美しく機能的なことも印象深い。聞けば、施工に来ている職人たちに造作してもらうのだそうだ。家具メーカーに発注することもできるが、現場でつくってもらえばコストも抑えることができる、というのが理由のひとつだという。
コストダウンを図りながら洗練された空間ができる理由は、普段から「そぎ落としてシンプルにする」点を心がけているからだ。すると結果的にコストが下がると語る2人。この家でいえば、構造材や仕上げ材をできるだけそのまま用いることで統一感を出しつつコストを下げた。さらに、土地の高低差をそのまま生かしたプランニングで、造成に余計なコストをかける必要をなくした。
お話を伺っていると、とにかくすべてが合理的だと感じる。それは大胆ともいえる構成の「学園前の家」が、最初に提出したプランからほとんど変更なく竣工したことからもわかる。Hさまは、この課題に対してはこれで解決、この問題に対してはこれで解消、と的確に説明してくれたおかげですんなりと理解、納得できたという。
こんな生活をしたいという大きなイメージから、しっかりとした道筋を立てて、住みやすいのはもちろん周りの環境までを考えた家を建ててくれるのが、北野さんと八木さんなのだ。
基本データ
| 作品名 | 学園前の家 |
|---|---|
| 所在地 | 奈良県奈良市 |
| 敷地面積 | 160.83㎡ |
| 延床面積 | 91.02㎡ |
| 家族構成 | 夫婦+子ども1人 |
| 予算 | 2000万円台 |
撮影:山内紀人
設計者情報
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