
ペットがいてもインテリアをあきらめない。
犬猫専門建築家がつくる大満足の住宅とは?
「問題行動」軽減の近道は、
犬や猫が楽しく暮らせる家をつくること
廣瀬さんはペット共生住宅の設計に多くの実績をもつ「犬猫専門建築家」。3人家族の廣瀬さん一家が暮らすこの家にも、1匹の犬と2匹の猫が住んでいる。
今や犬や猫は単なる愛玩動物ではなく、伴侶として人間と密接な関係をもつ「コンパニオンアニマル」という概念が広まっている。犬や猫が家の中で生活するのはごく当たり前のこととなり、ペットと快適に暮らせる住宅のニーズは高まる一方だ。
それだけに、廣瀬さんの知見は国内外で注目され、ペット共生住宅に関する著書やメディア出演・掲載実績は多数。廣瀬さんが手がけたペット共生住宅が、あのニューヨークタイムズで取り上げられたこともある。
『住吉山手の家』について、「自邸ですから実験的な意味合いも含め、犬や猫との暮らしに適した要素を数多く入れています」と話す廣瀬さん。
中でも猫のための工夫には、廣瀬さんならではのオリジナリティが豊富に盛り込まれている。
猫は、交通事故、感染症、虐待被害、ご近所トラブルといったリスクが大幅に軽減される「完全室内飼育」が主流となって久しい。
とはいえ、犬のように散歩の機会がない分、(猫にとって)面白くない家で24時間過ごしているとひどく退屈してしまう。その結果、場所の奪い合いや破壊行動など、人間から見ると「問題行動」といえる行動を起こす。
しかし、「猫を退屈させない空間をつくれば、ほとんどの問題行動は解決します」と頼もしい言葉をくれた廣瀬さん。猫も人間も両者ハッピーな完全室内飼育を実現している『住吉山手の家』とは、いったい、どんな住宅なのだろうか?
猫はその家で一生を過ごすから、
家の中を「猫の都市」に見立てて設計する
この家は地下1階、地上2階建てでロフト付き。このうち1階~ロフト階には爪とぎ柱やキャットツリー、吹抜けの猫階段、キャットウォークなどが多数あり、廣瀬さんの設計では、これら全てが「猫の都市」のエレメントとして機能する。
例えば、ロフト階のキャットウォーク。
まず廣瀬さんはロフト階の中央に、端から端までの長くて大きなメインキャットウォークを設置。さらに、メインキャットウォークから分岐する横断用のキャットウォークもつくっている。
「メインキャットウォークは猫にとっての大通りです。ドーンと1本通っていてわかりやすく、横断キャットウォークを介してあちこちへ行けるので、猫は自然にメインキャットウォークにのぼります」
メインキャットウォークには、廣瀬さんの高度な設計スキルも生かされている。
メインキャットウォークがあるロフト階は、通常なら屋根裏に当たる部分。普通につくれば、束(つか)と呼ばれる柱のような構造材が必要だ。しかし、束を立てるとメインキャットウォークは柱がニョキニョキ生えた状態になり、猫が歩きにくくなってしまう。
そこで廣瀬さんは方杖(ほうづえ)という斜めの補強材を採用し、耐震性を確保しながら「邪魔な柱(束)がない、見通しのよいメインキャットウォーク」を実現。両端の壁には外を眺められるハイサイド窓も設けた。
同じくロフト階の一角には、複数のキャットウォークがクロスする「交差点」のようなエリアもある。これは猫が「行先の選択肢が多い場所」を好むからだそうで、ロフト階はまさに、猫にとっての都市といえる豊かな空間となっている。
加えて注目したいのが、窓とキャットウォークの関係性。「カーテンレールの上など、猫が外を見られない場所につくられたキャットウォークを見ると残念でなりません」と廣瀬さん。猫は外を見るのが好き。なのに、窓より高い位置にあるキャットウォークは(猫から見ると)無策の極みといえるのだ。
***
思いきりダッシュできる大通りは、行先がいろいろあって外も見られて楽しいニャ。猫階段やキャットツリーでいっぱいジャンプするのも楽しいし、遊び疲れたらお昼寝できるところもたくさんるし……。ホーント、ここは天国だニャ……(寝落ち)
***
この家の2匹の猫の気持ちを表現したら、こんなところだろうか。相手が猫だから直接取材することはできなかったが、おそらく間違っていないだろう。
あくまでも「人」の住み心地を大切に。
空間の魅力とペットの幸せを両立させた家
この家のプランニングは、音楽好きな廣瀬さん一家のライフスタイルを大切にすることからスタートし、地下には高い防音性能を誇る音楽室を設置。LDKは北欧テイストを感じる品のよいナチュラルな内装で、キッチンはCUCINAにオリジナルを特注するなど、クオリティの高い住空間をつくっている。
それでも、廣瀬さんがペット共生住宅に力を入れていることはまぎれもない事実。その理由を、廣瀬さんはこう語る。
「どんなに贅沢なお宅でも、ペット用グッズが置かれているとインテリアを台無しにしかねません。私はそれを、建築の力で解決したいと思っています」
その好例といえるのが、『住吉山手の家』にもある「猫ダイニング」だ。
猫のいる家によくある3段ゲージは猫の生活には役立つが、お世辞にも見た目が素敵とはいえない。
「だったらゲージの役割を担う空間を、きちんとデザインして造作したほうがいい」と、廣瀬さんは間取りに猫ダイニングを加えている。猫の食事スペース、水飲み場、トイレ置き場を備えた小さな空間で、臭い対策の換気も万全。それでいて、デザインは高級ホテルのサニタリールームのように洗練されている。
廣瀬さんの設計は全てがこんな調子で、「ペットのための何か」がインテリアの魅力を損なわない。
『住吉山手の家』のキャットウォークも、猫が楽しめるように設計する一方で、空間に木の風合いを添える「現し天井」としてデザイン。目立つキャットウォークは組子細工でつくって意匠性を高めている。
また、家具も人間の好み優先で、アトリエに設けた猫ロフトに置いているのはカッシーナとポラダの高級チェア。
「犬や猫はソファがペット用か、人間用かなんて考えませんからね(笑)。そもそも、犬や猫がいるからといってインテリアをあきらめるのはおかしいと思うんです」
ここまでくれば、もうおわかりだろう。
廣瀬さんの設計の最大の魅力は、「人が満足できる快適でデザイン性の高い空間」と、「犬や猫が楽しく健やかに暮らせる空間」を両立・共存させてくれること。これこそが廣瀬さん流のペット共生住宅なのだ。
取材中、猫たちは廣瀬さんのアトリエで自由に遊んでいて、爪とぎ柱を秒で駆け上がる姿は見とれるほど美しかった。この家には、猫たちが妙なストレスを感じずに「本来の姿」を見せてくれる環境が整っているということだ。
大切な存在が幸せそうだと自分も幸せな気持ちになるのは、相手が人でも犬や猫でも変わらない。廣瀬さんがつくるペット共生住宅には、そんな幸せが満ちている。
間取り図
基本データ
| 作品名 | 住吉山手の家(犬と猫と音楽の家) |
|---|---|
| 所在地 | 兵庫県 |
| 敷地面積 | 175.65㎡ |
| 延床面積 | 184.48㎡ |
| 家族構成 | 夫婦+子ども1人+犬1匹+猫2匹 |
| 施主 | H邸 |
設計者情報
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