
大好きな音楽と植物に囲まれて暮らす
夫婦の憩う癒しの空間
kitokino architecture キトキノ アーキテクチャ
「音」も「光」も「植物」も
成功のカギはゾーニングにあり
その趣味の1つは音楽。ピアノとバイオリン、ビオラを演奏するというお2人。「グランドピアノを購入したい」「音楽仲間を招き、一緒に演奏ができる空間もほしい」という希望もあった。
そんなNさんご夫妻を知人から紹介され会ったキトキノの小林さん。ご自身も音楽をやってきたという共通点もあり、ぜひ叶えてあげたいと思ったのだそう。
話をしていくうちに、叶えたいことは音楽室だけではないことがわかってきた。
1つは、Nさんの敷地は、2方向が道路に面していて、車や人通りが多い。そんな中でも静かな暮らしがしたいということ。植物が好きで、庭がほしいこと。とくに元々あった桜や梅は残したいという。
さらに奥様の口からは「南側にこんなに大きなマンションがある場所では、光いっぱいのあたたかい家なんて難しいですよね?」という言葉も発せられたのだとか。
奥様はこの場所に慣れ親しんできたからこそ、陽光を取り入れることが難しいことを熟知している。半ばあきらめていた光への思いをつい口にしてしまったのは、「小林さんの話しやすい雰囲気」があったからに違いない。
建築家には「たくさんのプランを出し、施主に選んでいただく」「一定のテイストがありそれをあてはめる」などいくつかのタイプがあるが、小林さんは「対話の中から答えを見つけていく」タイプの建築家だ。それも「要望を聞き出す」というよりは、何気ない会話から糸口を見つけたり、愚痴や悩み相談のようなおしゃべりの中で施主の思いが吐露されることが多いのだという。
そうして引き出されたNさんご夫妻の思いを聞き、小林さんは「この家が成功するかどうかは、ゾーニングがカギになるな」と感じたのだという。
音楽が奏でられる音や道路からの騒音、庭をどのように配置するか、北側に開けていて南側からの光が望めない環境で、どう明るさを実現するのか?
この問題を解決するため、庭については、初期段階から造園家を交え、樹種なども含め打合せを行った。また、光の取り込みについては、精緻な日射の環境シミュレーションを行って、この土地の環境を把握していった。
それらを踏まえ、小林さんが導き出したプランは2つ。1つは土地の中央に建物をもってきて、周りを植物でぐるりと囲むという案。もう1つが実際に採用となった、L字型の建物をつなぎコの字とし、中庭を設けるという案だった。
この案に対して、Nさんは「僕もこういう配置がいいと思ってたんだよ!うれしいな!もう1つも良さそうだけどこっちに決めます」とコメント。実はNさんはご自身で家の配置を考えていたのだという。
Nさんご夫妻の思いと、小林さんのアイデアが1つに重なった。しかしこれは偶然ではない。小林さんがしっかりと施主に寄り添い、思いや思考を汲み取ったからこそ為せる業と言えるだろう。
プライベートとパブリックの両立
どの部屋からも中庭の植物を楽しめる
建物は向かって左、大きな道路に面した側に音楽室のある平屋、右にLDKや寝室を備えた2階建てといった、L字型の建物を繋げたコの字の配置。左サイドはパブリック、右サイドはプライベートといったゾーニングだ。
「プライベート空間は、道路から一番遠い側に配置しました。音楽室を道路側にもってくることで、ご近所へのご迷惑にならないようにとの配慮もあります」と小林さん。
当然、遮音シートを張るなど、防音には務めるものの「防音室」のような無音にすることはできない。そうであれば、元々交通量が多く騒々しい道路側に音楽室を設けることが最適だったのだ。
アプローチに一番近い扉を開けると、そこはグランドピアノが鎮座する音楽室。クラシカルな雰囲気をつくるため、ウォールナット調に仕上げた。音楽室には、玄関とは別の出入口がありゲストは直接出入りができる。実際に行われた合奏練習では、ゲストがここから出入りをしたのだとか。
右サイドは、プライベート空間。広いLDKと小上がりそして2階に夫婦の寝室がある。こちらのテイストは、音楽室よりも木の温もりを感じられるほっこり空間。天井を現しにしたり、使う材もあえて節のあるものを使うなど、自然の中にいる感覚を大事にした。
そして、懸案だった光の取り込み。わずかに南から差し込む光を逃さないよう、リビングの上部に開口を設け、それを白壁に反射させることで室内を明るく照らしている。
光という点では、中庭も大きな役割を果たしている。建物が中庭を取り囲むことで、北側でありながらも、適度な明るさをもたらしてくれる。
もちろん、この中庭はその眺めも素晴らしい。植えられた樹木・草花の総数は家全体で93種にものぼる。その樹々が四季折々に、様々な表情を見せてくれるのだ。それを、この家のどこからでも、どんなときにも楽しめる。リビングで寛ぎながら、料理を作りながら、お風呂からだって楽しめる。もちろん音楽室からも。庭の景色は、音楽を奏でるために集まったゲストへのおもてなしにもなることだろう。
「この案件では、初期段階からNさんご夫妻、造園家、私の3者がタッグを組み、一緒に植栽を計画しました。実は中庭の庇の一部は、木の成長を妨げないよう、予めカットしてあるんです」と小林さん。
中庭の木々の一部には、Nさんご夫妻も自らの手で植えられたものもあるのだという。Nさん邸にとっては、植物も家の大事な要素の一つ。それを自らの手で植えることは、家への愛着にもつながることだろう。樹々の成長は、この家の成長でもあるのだ。
「音」「光」「植物」といった異なる要素をもつ要望を、絶妙な配置計画と卓越したセンスで叶えてみせた小林さんの手腕には驚かされるばかりだ。
奥様から小林さんには、定期的にメールがあり、先日も「お蔭様でこの夏は申し分なく大変快適に過ごせました。寒い季節に入ってからも今のところ日中は暖房照明要らず、木漏れ日の様な光を受けて心地良いお家時間を過ごしています。難点は出不精になった事でしょうか(笑)贅沢な悩みですね。」とのコメントとともに、季節ごとに表情を変える庭の写真が添付されていたのだという。
出不精になってしまうくらいの家、それは言い換えれば「居心地のよい家」。誰しもが望む居心地の良い家の実現への第一歩は、小林さんとお話をすることから始まるのかもしれない。
共同設計 杵家里紗子
間取り図
基本データ
| 作品名 | 新森の四辻 |
|---|---|
| 所在地 | 大阪府 大阪市旭区 |
| 敷地面積 | 334.01㎡ |
| 延床面積 | 152.02㎡ |
| 家族構成 | 夫婦 |
| 予算 | 4000万円台 |
| 施主 | N邸 |
撮影:Ookura Hideki
設計者情報
この建築家が建てた家
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