
「この家がほしい!」から始まる
狭小住宅の完成形
この家が入る土地を探して!から始まった
広い土地での狭い家
Mさんも、そんな鈴木さんのつくる家に魅了された1人。家づくりを検討する中、インターネットで鈴木さんを知ったMさん。鈴木さんと会い、過去に手掛けた物件を見てとても感銘を受け「この家がすっぽり入る土地を探してください!」と土地探しからの家づくりを依頼したのだという。
狭小住宅を売りにしているというと、顧客の多くは「狭い土地をお持ちの方」なのかと思うが、実はそうではないという。むしろ土地は持っていないが「この家がほしい」と、家ありきで土地を探したり、土地探しを含め鈴木さんに依頼をしてくる方が多いのだとか。それは、きっと鈴木さんがつくる狭小住宅の完成度の高さや、鈴木さんの家づくりに対する考え方、さらには鈴木さん個人に魅了されたからに他ならない。
こうして始まったMさんの土地探し。いくつかの土地を探していく中で見つけたのが、Mさんのご自宅やご実家からほど近く、2階にからは港に停泊する大型フェリーの姿も見えるという眺めのよい土地。しかしこの土地は少々広く、鈴木さんの手掛ける家なら2邸や3邸建てられるほどだった。それでもMさんは「家が広いと、モノを買ってしまうから、狭い家でいいんです」と、当初予定どおり狭小住宅を建てることにしたのだという。
わずか77㎡の家にグランドピアノも
抜群の家事動線も
「私もキャンプをするのでわかるのですが、テントを干したりする場が意外とないんです。そういうアウトドア道具をメンテナンスしたりする場として使えます」と鈴木さん。
また、大きな屋根がついていることで、豪雪地帯である新潟の雪から車を守ることにもなる。さらには、BBQをしたり、お子さんが日差しを避けながら伸び伸びと遊ぶ場にもなるという配慮だ。
「駐車スペースも十分あるので、友人たちが遊びに来てくれるようにもなりました」とMさんもお喜びの様子。
このカーポートは、車のための場所だけでなく、様々な使い方ができるフリースペースなのだ。ここにも、1つのものに複数の役割を与える鈴木さんの技が発揮されている。
M邸の外観は、鈴木さんが手掛ける他の物件同様、耐久性やメンテナンス性を考えた、新潟県産の杉板とガルバリウム鋼板。杉板は、経年によって風合いが変わり“味”にもつながる。
玄関扉を開けるとそこは、家の中に玄関フード(風除室)が組み込まれたような土間空間。冬の寒さが厳しい新潟では、外と中との間に中間層を設けることで、気密性や冷暖房の効率を上げるのだ。また、この土間空間は、ちょっとした収納スペースにもなる。ベビーカーや雪かきの道具など、外で使うものの一時置きとして重宝する空間だ。
室内に入ると広がるのが6畳ほどの空間。実はこのスペース、奥様のお母様の形見であるという思い出のグランドピアノを置くために考えられたもの。家族が出入りするときにお母様のことを思い出したり、訪れるお客様を迎えるインテリアにもなる。隣の部屋との境界を、障子とすることで洋のインパクトの強いピアノを、和のテイストでやんわりと包み込むという和洋折衷。また家の中心近くにあるため、気密性・断熱性の高さも相まって、外への音漏れは驚くほど小さいという。
障子を開け放つと、眼の前は寝室スペース。裏庭からの光が差し込むみ明るい。左の障子の先には、バスルームと洗濯スペース・収納、脱衣所が一体となった空間。入浴時に脱いだものを洗濯し、洗濯したものを乾かし、収納するという一連の家事が同じスペースで行える最短の家事動線。コンパクトな家のメリットを上手に生かした工夫。
また、これらの部屋は普段は障子を開け放つことで、1つの大きな空間となり、開放感をも感じさせてくれる。
テーブルを支える脚は1階から生える?
構造からも一石二鳥を考案
そして何より驚かされるのは、この空間にある造作の数々。鈴木さんが施したいくつもの仕掛けがあるのだ。例えば、畳敷きの小上がり。背となる壁に、リモコンやスマホ、グラスなどをおけるニッチを設けた。そこには、コンセントもつけた。わずかなスペースだが、とても重宝しているという。先端のテーブルは、壁から生えるような片持とすることで、足を伸ばすことができ、ちょっとしたワークデスクにもなる。さらに小上がりの下には間接照明を仕込みフットライトの役割を果たすほか、1階寝室と2階との空気の通り道にもなっているのだという。
ダイニングテーブルにも驚きの仕掛けが。先端をぐるりと丸くした形状は、人数に縛られず座れるという鈴木さんの配慮。なるほど、テーブルが四角ければ1面に何人という形になってしまうが、円であれば詰めて座ることも可能だ。そして注目すべきはこのテーブルの脚。
実はこのテーブルの脚は1階の障子を受け止める柱につながっていて、2階を支える構造材でもあるのだという。テーブルの足と柱の位置を合わせ、構造に利用するばかりか1階からテーブルの足が生えているように感じさせるデザイン性を兼ね備えた。
他にも例を挙げたらキリがないほど、1つの造作やデザインでいくつもの役割を果たすもので満ち溢れている。これは、M邸に限ったことではなく、鈴木さんが手掛ける物件ではごく当たり前のことなのだ、このあっと驚くような仕掛けは、設計にとどまらず構造計算まで鈴木さん自らが行うからこそ為せる技。実際この十徳ナイフのような多機能さに魅了され、設計を依頼する方も多いのだという。
魅了されるという点では、鈴木さんのつくる家だけでなく、鈴木さんという人に魅了され、いわばネイティブディメンションズのファンとなっている人が多いのだ。
「住まいづくりを自分自身楽しみたいし、『鈴木さんとやったら楽しそう』と思われたい」と鈴木さんは語る。
実際Mさんも「打ち合わせのために、定期的に会いに行くのが楽しかった」とのこと。完成し入居した今でもLINEで連絡を取り合ったり、鈴木さんが定期的に出演している、フローリング専門店のインスタライブに一緒に登場いただいたりと、良好な関係を築いているのだそう。
また他の施主さんも新作の見学会に集まり「この家もいいけど、やっぱり自分の家が一番!」と言われることもしばしばなのだという。
鈴木さんは、1つの案件に対し、設計に1年、施工に半年程度かけるという。経済的な側面からすると、同じタイプの物件をたくさんつくることもできそうだが、そうはしないという。
「何度もお話をして要望を聞き出していきます。そして頭の中にあるものを形にするのに時間をかけます。設計にも理由をもたせ、仕掛けはもちろん、部材の選び方やフローリングの貼り方までこだわって考えるんです」と鈴木さん。
コンパクトだからといってどんどん作れるわけではないのだ。
こうした一つひとつにじっくりと時間をかけ取り組むのは、自分の仕事、施主、建物に「愛情を注いでいる」からこそ。そして、地元の材を使い地産地消に役立てたり、家そのものが地域環境や地域の文化になることも願っているのだという。
鈴木さんは、狭小住宅を通じ、地域の人々を包む大きな愛を育んでいる。
基本データ
| 作品名 | ministock-10 |
|---|---|
| 所在地 | 新潟県新潟市 |
| 敷地面積 | 221.76㎡ |
| 延床面積 | 77.02㎡ |
| 家族構成 | 夫婦+子ども1人 |
| 予算 | 2000万円台 |
| 施主 | M邸 |
撮影:布施貴彦
設計者情報
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