
プライバシーを守れて解放的、
2階で土に根を張る木々で「ホッ」

勝田 無一
かつた むいち
有限会社 創設計
東京都 渋谷区
建築家・造園家として活動。多種多様の建築設計実績多数。 特に住宅については「楽しくなければ住宅じゃない!」と言う信条のもと、 住むための「道具」という枠を超えて日常を楽しむ住宅設計を目指している。住宅雑誌等への作品・掲載多数。
ライフスタイルに合わせて計算され尽くされた庭づくり
そこで、相談したのは家と庭を一緒につくってくれるガーデナー建築家の勝田さん。30坪ほどの狭い敷地だけれども、外に出かけることが少ない分、家にもちょっと屋外の空気を楽しめるところがほしいと話をした。目の前に見栄えのしない建物があり、隣もすぐ横に迫っている環境で、勝田さんがすすめたのは、自身が「囲いの建築」と名付けている手法だった。
「囲いの建築」とは文字通り、まず、敷地の周りを塀で囲ってしまう。往来からの視線が塀で遮られると、この中は「うち」という感覚ができる。プライベートエリアだとか、自分の縄張りだとか言い換えても良いかもしれない。外の顔をしなくてもよい領域だ。
そして、そのなかに小さな庭をつくる。塀といっても素材は外の光が充分入る半透明のもの、空の方にも遮るものはなく、感覚としては屋外空間だ。1階は駐車場になっており、庭があるのは2階だが、鉢植えを並べたテラスではない。木も草花も地面に根を張った、より自然に近い庭だ。
小さな庭には、シマトネリコとソヨゴを植えた。何十年も庭をつくり続けてきた勝田さんは、この人はどのぐらい庭の手入れをしたい人か、どのぐらいできる人かを話のなかで見極め、その人に合わせた品種を選ぶことにしているという。木や草花は生き物、どうしても建物に比べて維持に手間がかかる。
せっかく心なごむ庭をつくっても、手入れが行き届かずに草ぼうぼうになってしまっては台無しだ。忙しい日々をおくるXさんご夫婦の家に、勝田さんが選んだのは、あまり手がかからない木だった。「シマトネリコやソヨゴみたいな山の木は、かえってハサミを入れない方がいいんです。もともと横に枝が伸びませんから。本当に外に出っ張った時だけ、ちょっと切ればいい。下草も刈り込みをしなくていいものにしていますので、ほぼメンテナンスフリーですね。」と勝田さん。下草が定着するまでは雑草も生えやすいため、土の上にウッドチップを敷き詰めて、草むしりの手間も省けるように配慮した。
庭と家の設計は同時進行。庭を眺めたい部屋はやはりリビングだ。そこで、庭に面したところをリビングにして吹き抜けをつくり、2階・3階からも外の景色を楽しめるようにした。リビングと庭はフラットに続いており、リビングからそのまま、ひょいと外に出ることもできる。完全にリラックスした姿も囲いのなかなら近隣から見えることはない。「街のなかで、これだけ開放的に住めるとは思いませんでした。」と、Xさんご夫婦も満足のいく家になった。
「住宅の密集する街なかの狭い敷地でも、なかなか植木の手入れをする時間がなくても、庭のある住まいはつくれます。むしろ、住宅事情のよくないところの方が囲いの建築がいきてきますね」。
家での楽しみが増える、自由に使えるリビング
小上がりになった畳のスペースには掘りごたつがある。冬にはこたつにあたってテレビを見てもいい。庭の方から差し込む明るい日射しのもと、畳に寝転がってもいい。カーテンをしめればシアタールームにもなる。スピーカーも本格的なもので、迫力ある映像を自宅のソファでくつろぎながら、楽しむことができる。
外へ出かけることが少ないXさんご夫婦にとって、多目的に使えるリビングは家での楽しみを増やしてくれた。
【勝田 無一さん コメント】
家づくりはコミュニケーションです。植物の手入れに限らず、普段の生活スタイルやご予算など、こんなことを言ったらいけないのではないかとためらわず、率直にお話いただくのが1番ですね。お話のなかからアイディアもわきますし、伺ったお話を受け止めてその人なりのお宅を提案するのが仕事ですから。
基本データ
| 所在地 | 東京都世田谷区 |
|---|---|
| 敷地面積 | 98㎡ |
| 延床面積 | 148㎡ |
| 家族構成 | 夫婦+子ども2人 |
| 施主 | X邸 |
設計者情報
この建築家が建てた家
この実例を見た人はこちらも読んでいます

モダンと暮らしやすさを両立した、自然と人が集まる家

のびのびと暮らせる秘密は中庭にあった。 毎日「いいな」と感じる我が家
まんなみ一級建築設計室の堀井博さんが設計したK邸は、外観と内部空間のギャップに驚かされる。外に向かってはほぼ窓もなく閉じた印象なのに対し、家の中は明るく開放的な空間が広がっている。それを可能にしたのは、家の中心にある中庭。中庭を内包する家での暮らし方とは、一体どのような感じになるのだろう。

眺望も明るさも! 無柱の開放空間をかなえた“キール”とは?
見晴らしがよくて、明るくて、開放的。家族の居場所がゆるやかにつながる一体感や遊び心もあり、夏も冬も快適に過ごせる──。施主様の理想をかなえたY邸ですが、実は西向き・傾斜地など気になる条件もあったのだそう。そんな懸念材料をメリットに変え、魅力的な住まいをつくり上げたのは建築家の蘆田暢人さん。「これぞ建築家の建てる家!」といいたくなる、高度な設計ノウハウと発想力に迫ります。

庭の木々に遠くの山並み、籠れる離れまで いくつもの景色や居場所がある家
訪れた建物のフォルムや内装、居心地の良さに「素敵だな」と感じることは誰しもあるに違いない。そして「自邸をこの建築家にお願いしたいな」と漠然とした思いをもったことがある人もいるかもしれない。しかし実際にその建築家に連絡をとり依頼をするという行動を起こした人はほんの一握りだろう。施主のUさんご夫妻にそう思わせた店舗を手掛けたのは、京都を中心に活動する建築家田中郁恵さん。運命的な出会いから、どんな家をつくりあげたかに迫る。

《ビルの事例》光るらせん!吉祥寺のランドマークはどう出来た?
東京・吉祥寺に住むNさんは、地域活性化に向けた一つのミッションとして、テナントビル経営に着手。駅前の一等地に土地を購入し、3階建て鉄骨造ビルの建設を企画。建築家の金田崇さんに設計を依頼したことで、期待以上のビルが完成しました。

中庭を活かし「プライバシーと開放性」を同時に実現した家
JR鎌倉駅から徒歩約15分。住宅と商店が立ち並ぶ市街地の、122㎡(約37坪)の旗竿状の敷地。これが、個人事務所を立ち上げた直後に江藤剛(えとう・ごう)さんが取り組んだ、初めての案件だった。施主様の多彩な要望や、敷地が抱える複雑な課題にじっくりと向き合い、丁寧に解決する江藤さんが作り上げた住まいは、中庭を活かした特徴的な家となった。

古い空き店舗が建築の力でみんなの居場所に 社会課題の解決に繋がるリノベーション
空き家問題、放課後の子どもの居場所、地域コミュニティーの衰退など、日本には様々な社会課題がある。これらの解決に、とある古いクリーニング店が一役買っているという。その建物のリノベーションを手掛けたのは、YN studioの一級建築士並木さんだった。

リノベーションで再発見した、抜群の住環境 築90年の長屋で緑豊かな暮らし。
築90年の長屋のリノベーションを手掛けることになったnote architectsの鎌松亮さん。家の裏には清澄庭園があり、そこに長屋が並ぶ風景は、長い間町の人々に愛されてきたという。景観を守りつつ、暮らしやすく、抜群の環境を活かした「家の中にも緑あふれる空間」をつくりあげた。

川のせせらぎも、もはや我が家! 自然と一体の家づくりの極み
自然が好きで、山と海にひとつずつ家がほしいというQ さん。まず手に入れたのは、近くを多摩川が流れる土地でした。人の手が入っておらず木が生え放題の場所を、どうしたら川が楽しめる家にできるのか、Qさんはガーデナー建築家、勝田さんに期待をかけました。


