
細長敷地の二世帯住宅をセオリー破りで解決
家族の一体感もそれぞれも楽しめる暮らし
200の候補から厳選した建築家
決め手は「傾聴力」と「柔軟性」
N邸は、Nさん夫妻とお子さん、Nさんのご両親が住む2世帯住宅。
もともとこの地にあった工場兼実家の半分、約50坪の敷地に建てられた。
Nさん夫妻はこの家づくりにあたり、「やるからには妥協すべからず!」との意気込みで、依頼する会社をリサーチ。ハウスメーカーや工務店はもとより、大阪で仕事をしている設計事務所の建築事例を見ていったという。その数約200件。その本気度がわかる。
そこから、自分達の好きなテイストなどで絞っていき、数社に厳選。各社にアポをとり面談をしていったという。
その候補の中の1人が、関西を中心に活動する建築家安部秀司さん。安部さんは、人気のシンプルモダンテイストでありながらも「こんな家ここにしかない」と思わせるほどオンリーワンの家づくりを得意とする。Nさん夫妻も、きっとそんな安部さんの作品に惹かれたのだろう。
「メールをいただき、お会いしました。その席で、家づくりに関する要望をまとめたシートを見せていただきました。そこには、親世帯・子世帯で「必ず叶えたいこと(MAST)」と「できれば叶えたいこと(WANT)」が整理されて書かれており、とてもしっかりしたお客様だなという印象をもったことを覚えています」と安部さんは振り返る。
Nさん夫妻はその後、最終的に3社にプランの作成を依頼。その1社として安部さんを選んだ。「安部さんの傾聴力や柔軟性の高さに心を奪われた」とNさんは語る。
安部さんは、その仕事のアイデア力やクオリティーはもちろんだが、実際に対話をしてみてわかる人間性も魅力の1つだ。施主たちは、自分達の話をしっかり聞いてくれ、要望を受け入れてくれる安部さんの懐の深さに感じ入り「この人に家づくりを頼みたい」と思うのだ。
住まう人のことを考え抜き
セオリーの中庭ではなく長庭で
「間口が狭く東西に細長い土地は、面白そうだなと感じました。また、要望は多かったものの、叶えたいことが明確でした」と安部さん。
N邸の土地は、間口が6.5m弱、奥行25m弱という、うなぎの寝床ともいわれるような土地。隣家も迫っているため、光の取り込み方がカギとなる。
要望としては、親世帯は「犬と暮らしやすい生活」をテーマに2匹の愛犬との暮らしが楽しめることが第一とされ、子世帯は「共働きで子育てしやすい」ことが条件となった。お互いの世帯それぞれで、来客があることへの配慮を必要とし、それでいながら親世帯・子世帯で音を遮断したいという要望もあった。
この条件を満たす一種のセオリーとしてあるのが、中庭の採用だ。東西に長い建物の中心部分に中庭を作り、東に親世帯、西に子世帯といった形で中庭を挟んで向かい合うゾーニング。
こうすることで、どちらのサイドにも中庭上空から光を採り込める。
しかし安部さんは、あえてそのセオリーを破ったプランを提案した。では、どうやってこの家に光を採り込むのか?その答えは、建物の南側に細く長い庭をとり、そこから光を採り込むという方法だ。
親世帯、子世帯が中庭を挟む構図では、向かい合う形となり、家族の様子が伺えるというメリットはあるものの、一方でお互いが丸見えになったり対面してしまうことで緊張感が生まれる。またお互いに見える方角が違うため、同じ景色が共有できない。一方で、上下を長い庭で繋ぐこのプランでは、上下に分かれるものの、同じ景色を見る一体感も生まれる。
安部さんは、この考えのもと1階は親世帯、2階を子世帯とし、親世帯のLDKは建物の後方に配置。一方の子世帯のLDKは道路側へと寄せた。こうすることで、互いの世帯に来客があっても、中庭から丸見えになることを避けることができる。さらに2階LDKは駐車スペースやお父さんの仕事部屋の上部になり、家族が集まることの多い夜や休日に1階に人がいることは少ない。一方、親世帯のLDK上部は、子供部屋やWICのため、こちらも音の問題に悩まされることはないという絶妙な配置とした。
また、1階2階で世帯を分けたのは、それぞれの世帯の生活を気兼ねなく過ごせるようにという配慮と、ご両親が将来、毎日階段の上り下りをせずとも1階だけで生活が完結するようにということ。さらには、散歩から帰ってきてすぐにリビングに入れるという愛犬との生活への気遣いでもある。
「他社さんは、きっと中庭のプランを出してくると思っていましたし、Nさんご家族も中庭を予想していると感じていました。よい意味でそれを裏切りたいという想いがありました。Nさんご家族のことを考えた抜いた上でのプランなので、採用されるという自信がありました」と安部さん。
一見するとこのセオリー破りの長庭案は、ただでさえ細長い土地を庭に奪われ、建物をより細くしてしまうことになる。それでもあえての提案はNさんご家族のことを考え抜いたからこそ出された解。
この提案にNさんご夫妻の反応は「そう来るか!」というような、自分達の予想を超えてきたという反応だったという。
ほどなくして「安部さんにお願いしたい」との一報が届く。
安部さんは、施主の要望を叶えるばかりか、その期待を上回る提案をしてくれる。建築家に家づくりをお願いする醍醐味を存分に味わわせてくれる建築家だ。
こだわりと思い出が詰まった家づくりで
光あふれ家族が程よく繋がる家に
素地のガルバリウム鋼板で覆われた外観は、安部さんが得意とするシャープでソリッドな印象。道路に面した2階部分は子世帯のリビング。あえて窓を設けないデザインは「家っぽくない外観」を希望されていたNさんご夫妻のイメージにもピッタリだ。
門扉を開いた先、建物と南の隣地との境界壁の間に長庭が延びる。一見すると単なる通路のようにも見えるが、様々な鉢植えの植物で彩られ、役割としては庭そのもの。この庭はN邸に光をもたらす大きな役割を担う。上部からの光が、ガルバリウム鋼板に反射、暗くなりがちな1階へと導かれるのだ。
2世帯共有の玄関脇には、お父さんの会社名STUDIO POOLにちなみ、ミニチュアのプールをつくるという遊び心も。
玄関は3層の吹き抜けとなっており、ここからも室内に光が導かれる。天井から吊るされた棒状の照明は、高さと角度が変えられ、真下から見上げると放射状に見えるという工夫も。
玄関の奥、道路側にはお父さんのオフィス、中央には共同で使う浴室などが設けられ、プライベートとパブリックを分けたゾーニングだ。
右手側に進んでいくと親世帯のLDKが広がる。天井を現しにして、高さからくる開放感と、長庭に面してずらりと並んだ掃き出し窓による抜け感が、空間に広がりを与えている。上空からの光が、ガルバリウム鋼板の壁に反射、長窓からふんだんに降り注ぎ、驚くほど明るい。
これだけの開口をもっていても、隣家とは壁で隔てられているため、プライバシーを気にせず生活が送れることも、気持ちからくる開放感をもたらしているに違いない。
階段を上り2階へと歩を進める。階段は光を邪魔しないようスケルトン階段。階段の桁や手すりは、安部さんがデザインし、意匠性と実用性を兼ね備えた。
2階は階段を境に、道路側にLDK、逆サイドには子供部屋や寝室、WICなどを配置。こちらもプライベートとパブリックのゾーニングをはっきりと分けた。
2階のLDKも長庭からの光がふんだんに入り込み、明るく開放的。グレーチングでデッキを設けることで1階の射光を邪魔せず、リビングを拡張することにも成功している。
LDKと廊下を隔てるのはガラス戸。こうすることで、デッキからの光を玄関上の吹き抜けへと導くとともに、上下のフロアがゆるやかに繋がるのだ。
逆サイドのプライベートゾーンには、将来に備え2分割できるよう計画された子供部屋、長く広いWIC、一番奥の静かなゾーンには、夫婦の寝室と書斎を設け、テレワーク等にも対応。
屋上の半分はテラスに。家族や友人が集まってBBQをしたり、子供のプールも設置できるよう水道も完備した。愛犬のドッグランとしても活用できる。
こうして足掛け2年のN邸の家づくりが終わった。この家づくりを振り返りNさんは、「どこに目を向けてもこだわりと思い出がある」。奥様も「安部さんは、要望の多いクセの強い家族のこだわりを上手く組み込んでくれた」「ときめく空間を作ってくれた」「想像の100倍大変だったが、後悔のない家づくりだった」と大満足の様子。
そしてこの家での新生活について「家を育てる余白が残っているので、インテリアやアートも勉強したい」「自分達に合った仕事・子育て・暮らしを模索していきたい」との希望を持たれているという。
きっとこの家では、家族や友人・親戚が集い、笑いや喜びに満ち溢れた暮らしが待っているに違いない。
「家づくりに正解はない」と言われるなか、安部さんは、施主家族にとってオンリーワンの正解に導いてくれる建築家だ。
間取り図
基本データ
| 作品名 | 北花田の家 |
|---|---|
| 所在地 | 大阪府堺市 |
| 敷地面積 | 158.24㎡ |
| 延床面積 | 168.5㎡ |
| 家族構成 | 両親+夫婦+子ども1人 |
| 施主 | N邸 |
撮影:河田弘樹
設計者情報
この建築家が建てた家
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