
オーダーメイドで家族の色に染まってゆく
まっさらな麻のシャツのような住まい

増木 奈央子
ますき なおこ
市中山居 一級建築士事務所
埼玉県 所沢市山口
<住まいへのこだわり> 細部まで心を配り、さり気なくデザインし、丹精に造り込んだ住まいは、仕立ての良い麻のシャツのように、様々なコーディネートを楽しめ、着る人を美しく引き立てます。 心地よさ、落ち着き、気品があり、澄み切った空気が流れる住まいを設えます。 <私の暮らし> 庭のブルーベリーやチョークベリーでジャムを作っています。 剪定した草木を器に生け、部屋に飾るのが好きです。 猫のように、時間ごと、季節ごとに居場所を変えて、ゴロゴロしています。
世代を超え支持を集める住まいは
気品があり着心地の良い麻のシャツのよう
お祖父さまから受け継いだ土地に自邸を建てることを計画していたYさんご夫婦。依頼する設計士を見つけようと、住宅関連のサイトを見ていて目に留まったのが市中山居だったという。
その後、増木さんの自宅兼事務所を訪れたYさんは「木材と石、白い壁のバランスがとても素敵で惹きこまれました。何よりも増木さんの物腰がとても柔らかく、お話しやすい中にも細部へのこだわりがあり、ブレない芯のようなものを感じたのが決め手になった」と語る。
Yさんが感じた「ブレない芯のようなもの」とは、おそらく増木さんが大切にしている「仕事に対する姿勢」と「つくりだす家のテイスト」のことだろう。増木さんは、施主にじっくりと寄り添い、対話を重ねながら丁寧にプランを練っていくというスタイルをとる。1カ月以上もかけて新聞紙大の模型を自ら製作するなど、手間暇を惜しまないのだ。
「住宅」と「服装」には、共通点がある。ハイブランドのような高級なものもあれば、機能・デザイン・価格のバランスがとれた、コスパの良いものもある。さらにシンプルでスタイリッシュなもの、ほっこり感のあるものなどなど。その中で増木さんのつくる家を服装にたとえるならば「麻のシャツ」だ。
麻のシャツは、ブランドものの服のように「よそ行き」で、着続けると疲れてしまうこともなく、かといってTシャツやジャージのように、緩さを重視したあまり、野暮ったさのある「部屋着」でもない。気品や清廉さがありつつ、肌触りがよく着ていて心地よい「普段着」だ。
市中山居が当初想定していた顧客層は、40代50代のいわゆる大人世代だったという。夫婦2人で上質で丁寧な暮らしを紡ぐための家といったところだろうか。
しかしYさんご夫婦は30代前半で、小さなお子さんもいる。「Yさんのような若い子育て世代に選んでいただいたことが、とても嬉しかったことを覚えています」と増木さん。
「麻のシャツのような住まい」の心地よさは、世代を超えて支持を集めるのだ。
本当に叶えたいことは何か?
最適解は、期待の斜め上いくアイデア
広さもあり形も整っている、制約の少ない土地は、実は建築家泣かせだったりする。狭小、変形地、傾斜地など、土地に何らか制約がある場合、その解決に頭を悩ませることになる一方、その選択肢の数はごく限られる。ある意味、大きな問題の解決方法さえ見つければ、ゴールは近い。一方、Y邸の土地のように制約がない土地には、無限の選択肢があるのだ。
また土地の制約がなく、無限の選択肢があるからといって、建築家が自由に設計できるというケースは少ない。施主それぞれに叶えたいことが違うし、「せっかく家を建てるのだから」とつい多くを求めてしまいがち。そして最大の関門である「予算」が立ちふさがるのだ。
Y邸においても同様、市中山居の和のテイストを取り入れつつ「北欧の椅子、大きな家具が置ける広いリビングとダイニング」「こだわりのキッチンやフローリング」「建材価格が高騰するさなかでも予算内には収めてほしい」といった要望があり「叶えたいこと」と「できること」にギャップがあったという。
しかし増木さんは、Yさんご夫婦の要望だけでなく、性格や仕事、家族、生活スタイルなどあらゆる角度からじっくりと寄り添い「本当に叶えたいことは何か」「優先順位の高いものは何か」を探り、一緒に整理していった。
そして、「家族がのびのびと、おおらかに暮らせること」を叶えたい最終目標に定め、何十通りものプランを考案。そうしてYさんご夫婦に提案されたプランは、奥様曰く「期待の斜め上をいくプラン」だった。
施主の言葉そのままを受け入れ、「できる」「できない」を判断するのが建築家の仕事ではない。真の建築家は、施主の言葉などを咀嚼し、施主が本当に叶えたいことを一緒に探り当て、それを実現するアイデアを出せる人。増木さんは、施主にじっくりと寄り添うからこそ「最適解」をみつけることができる。増木さんは、建築家に家づくりを依頼することの醍醐味を味わわせてくれる稀有な建築家の1人だ。
大きな庇の下の広々ウッドデッキ
家族が寛ぎ、遊び、集う大らかな暮らし
Y邸の魅力の1つが、庭に面した約10畳もある広々としたウッドデッキ。桂離宮をモチーフにしたというこのウッドデッキは、リビングとダイニングにL字型に面しており、幅2mもある木製建具を壁の中に引き込み全て開け放つと、シームレスに繋がる。リビング、ダイニング、2つの異なる居場所からウッドデッキ、さらにその先の庭が1つに繋がり「庭屋一如」を体現した。庭には、お祖父さまがこれまで大切に育ててきたベニシダレモミジをそのままに、造園家小林賢二さんの手によって再生された。
しかもこのウッドデッキには大きな庇がかかっている。この家を訪れたお母さまが、ベニシダレモミジを背景にしたウッドデッキを見て「まるで能舞台ですね」と言ったという。それほど、庭と一体化した美しさをもっている。
実はこの庇は美しさのためではなく、高い実用性に基づいている。夏の強い日差しはもとより、雨も凌いでくれる。また、3階建ての隣家からの視線を遮る役目も果たす。朝は、庭の樹々を見ながらコーヒーを一服、昼には、親戚や友人が集まりBBQ、夜には、鈴虫の音を聞きながらお月見と、第二のリビングとして重宝するほか、お子さんたちがトランポリンやハンモックで遊ぶ場としても活用できる。
増木さんは、このウッドデッキで「家族の大らかな暮らし」を実現してみせたのだ。
この大らかさは邸内でも見ることができる。23畳あるL字型のリビング・ダイニングは、船底天井(最高約2.8m)とすることで、高さ方向にも開放感が得られている。リビングの中央には、ヒノキの丸柱を大黒柱とし、その柱にもたれかかるように大型のソファーや造作の棚を配置。安心感と抜け感のある大らかな空間に仕上げてみせた。ソファーに腰掛けると、庭から差し込む木漏れ日、ウッドデッキの庇が落す影、このバランスが程よく落ち着く。増木さんは大きな模型を肉眼で覗き込みながら、このリビング・ダイニングの採光を設計したそうだ。
一方キッチンは、「臭いや音が伝わり、丸見えになるのが嫌」という奥様の要望に応え、あえて部屋に籠るような形をとった。とはいえ、家事をしながら、リビングで寛ぐ家族の様子や庭の景色も楽しめるように窓を設け、奥様の特等席を用意した。また、キッチンからパントリー、玄関、駐車場へと回遊できる動線とすることで、ストレスなく家事が行える工夫も凝らした。
この家の出来栄えに、Yさんも「じっくり向き合って作り上げた家だからこそ、至る所に愛おしさを感じて日々を過ごしている」「子供たちも『この家が大好き、全部の部屋が好き』と言ってくれ、そのことが何よりも嬉しい」とコメント。
「まだまだ新品でまっさらな麻のシャツですが、ゆっくりゆっくり、私たち家族の色に染めていけたらと思っている」と語るYさん。
増木さんのつくる麻のシャツは、既製品のシャツではない。施主一人ひとりに似合うように、丁寧に採寸し、ディテールにこだわってデザインされた究極の1点モノ。だからこそ、施主の体にピッタリとフィットし、着心地良く過ごせるのだ。
これからも増木さんは、そんな麻のシャツをつくり続けていく。
基本データ
| 作品名 | 麻のシャツのような住まい |
|---|---|
| 所在地 | 埼玉県蓮田市 |
| 敷地面積 | 298.73㎡ |
| 延床面積 | 166.39㎡ |
| 家族構成 | 夫婦+子ども2人 |
| 予算 | 4000万円台 |
| 施主 | Y邸 |
撮影:中村晃写真事務所(一部:市中山居)
設計者情報
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