
曲面壁で、居心地も明るさも
家族が集う光あふれるナチュラル空間
テーマは家族の団らん
店舗バックヤードを住居にリノベ
かつて施主さまはこの地で食品スーパーを営んでおり、『飯島の家』は1階に店舗のバックヤード、2階に施主さま一家の住居が入った建物だった。しかしスーパーを閉業後、1階も住居にリノベーションすることに。このとき施主さまが望んでいたのは「家族が団らんできるスペースをつくること」。既存の2階住居は複数の廊下を介して部屋が細かく分かれており、家族が同じ空間に揃うのが難しい住まいだったのだという。
「プランニングでは、大人4人でくつろいでいただけるスペースを、しっかりつくってさしあげることが重要だと考えました」と話すのは、設計を担当した酒井建築計画事務所の酒井宏文さん。どことなくかわいらしさのあるモダンな作風や、自然素材を使った空間の住み心地の良さに定評がある建築家だ。
そんな酒井さんが手がけた新空間は、南向きのLDKを中心に据えたプラン。LDKの東側には玄関・客間・PC室や水まわり、西側には家族の寝室が並んでいる。
このプランについて「ご家族が顔を合わせる機会が増えるよう、あえて廊下を設けずに、LDKを通ってから自室や洗面へ向かう間取りにしました」と酒井さん。
そしてこのプランにはもう1つ、居心地や使い勝手を良くする大きな注目点が存在する。それは、『飯島の家』の最大の個性ともいえるLDKの曲面壁。酒井さんは既存建物が鉄骨造であることを生かし、アールの壁、すなわち曲面壁で、LDKとその他の空間を仕切ったのだ。
曲面壁で面積配分をコントロール
それぞれの空間を思い通りの広さに
目的の1つは、「各スペースの面積配分です」と酒井さん。LDKの両サイドの壁を曲面にすれば、LDKの横幅は、曲面に沿って広くなったり狭くなったりする。酒井さんはこれを利用し、
「LDKの南側は大きい窓に面した家族みんなでゆったり座れるソファスペースにしたいから、壁のカーブを広げて幅広に」
「PC室は日常的に使える場所につくりたいから、壁のカーブでLDKの幅を狭めて、隣に少しこもれるPC作業スペースを確保」
というように、各空間の広さをコントロールしたのである。
曲面壁といってもカーブは非常にゆるやかなので居心地の違和感は全くなく、むしろ仕切りが柔らかく感じられ、おおらかな心地よさのある空間に仕上がった。また物理的に天井高を高く確保できなかったそうだが、南の庭に向かって視界が広がることで開放感も生まれている。
思い通りの面積配分を実現するだけでなく、空間のデザイン性や快適性も向上させた一石二鳥のこのプラン、酒井さんの設計スキルの高さを感じずにはいられない。
明るさ・広さで居心地良く
家族が自然に集まるスポットをつくる
実は、リノベ前の1階は日当たりが良いとは言い難い空間だった。南向きの窓はあったが庭を挟んで隣の建物が迫っているし、大きめの庇も付いていて、日差しが遮られていたからだ。
そこで酒井さんは庇の素材を透過性のある屋根材に変更し、光を採り込む大窓も設置。さらに、曲面壁は白い漆喰で仕上げ、「光を通す庇×白壁の反射光」の相乗効果で明るさを創出した。
こうして広さと明るさを得たLDKには、酒井さんの設計で生み出された「家族でくつろげる居心地の良いスポット」がいくつもある。
例えば窓際に造作した、大人4人が余裕で座れるL字のソファ。ここは庭の緑と陽光に包まれる公園のベンチのようで、居心地抜群の特等席。その傍らには、のんびり日向ぼっこできる屋根付きのテラスもある。
また、施主さまは魚をさばくのがお得意で、奥さまも息子さんも料理がお好きという話を聞いた酒井さんは、「キッチンも団らんの場になる」と重視。庭を眺められるダイニングとキッチンをLDKの中央に置き、オリジナルのアイランドキッチンをデザインした。このキッチン、2つのカウンターが並行する造りで空間にゆとりがあり、複数の大人が一緒に調理可能。ダイニングと合わせて、家族で「食」を楽しめる魅力的なスポットとなっている。
熱環境や自然素材もコストバランスに配慮
「どう暮らしたいか」を形にする家づくり
今回のリノベーションでは、家庭用エアコン1台で広範囲の室温を快適に保つことができるような断熱方法と床下エアコンを採用している。冬の気温が氷点下になる信州でとても大事な熱環境の対策において、今回、酒井さんが床下エアコンをセレクトしたのは建物の状況とコストに鑑みてのことだった。既存建物の床下を調べた際、床下エアコンシステムが効果を発揮しやすい状態だとわかったため、提案したのである。
新生活ではストーブの灯油を運ぶ負担が激減し、トイレや洗面脱衣室も寒くなく、身体への負担が減りご高齢の施主さまは大変喜んでくださっているとのこと。既存建物の特徴を的確に捉え、コストを含め、効率的な対策を取ってくれるのはうれしい限りだ。
また酒井さんは、「綿や麻の服が心地いいのと同じで、住宅も自然なものを使ったほうが気持ち良く暮らせると考えています」と、内装に自然素材を多用する。
だが、こちらについても「ご予算の兼ね合いがある場合は、よく使う場所を優先して自然素材にするなど、コストバランスを取る方法も提案させていただいています」と、頼もしい言葉。『飯島の家』もLDKの壁は漆喰の左官塗りだが、ほかの部屋は適宜、珪藻土クロスを用いるなどしてメリハリをつけ、良質なものを厳選しながらコスト圧縮を図っている。
事前の打ち合わせでは常に、どんな暮らしがしたいか、どんな時間を過ごしたいか、施主の話にじっくり耳を傾けるという酒井さん。間取りを具体的に指定されたときも、なぜそうしたいかを丁寧にヒアリングするという。
そうやって得た多くの情報から導き出すアンサーは、『飯島の家』の曲面壁のように個性的なプランになるケースもあるだろう。
けれどその真意と目的を聞けば、望む暮らしにぴったりハマり、必要以上のコストもかけない「住まう人にとっての最適解」だと納得するに違いない。とことんカスタマイズされたアイデアで、自分がしたい暮らしがかなう理想の住まいを手に入れる──。酒井さんとなら、そんな家づくりも夢ではない。
基本データ
| 作品名 | 飯島の家 |
|---|---|
| 所在地 | 長野県上伊那郡 |
| 敷地面積 | 621.73㎡ |
| 延床面積 | (改修部分)137㎡ |
| 家族構成 | 夫婦+弟+子ども |
| 予算 | 2000万円台 |
撮影:SHUN FUKUDA
設計者情報
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