
建築家ならではの工夫が満載の1Rリノベ
「ここに住みたい!」と選ばれる物件に
収益物件となるリノベの証明のため
築38年の1Rを自ら取得
そんな中、築38年という年月が経過したマンションでありながらも「ここに住みたい!」とすぐに入居者が決まった1Rがある。 このマンションのリノベーションを手掛けたのが、蟻川建築設計事務所の蟻川さんと村田さん夫妻だ。
蟻川さんは、学校や福祉施設など規模の大きい建物の建築設計に関わってきたキャリアをもち、建物の構造面や法規などに精通している。一方村田さんは、住宅に携わってきた経験が豊富でインテリアなどにも強く、2人でこれまで数多くの住宅の新築・リノベーションを手掛けてきた。
そんな2人が自ら1Rマンションを取得し、リノベーションを手掛けた。
「自分たちで購入したのには、家賃収入を得るという目的もありますが、顧客ニーズに合ったリノベーションを施すことで、しっかりと収益を上げられる物件に蘇らせられることを証明したい、という思いがありました」と蟻川さんは語る。
当初は、古民家のリノベーションも検討したというが「まずは小さく始めよう」とのことで、1Rに絞っていったという。
候補となるのは、新耐震基準を満たしている築30年から40年の物件。都心に勤務する20代~30代の単身者をターゲットとした。40件前後の候補の中から4物件を内見。その中から選んだのが、文京区にあるファミリータイプの部屋もあるマンションの一室だった。
「都心からも近く、管理が行き届いていました。裏手に庭園もあって借景として使うと素敵な部屋になると感じました」と蟻川さん。
こうしてスタートした1Rのリノベーション。基本コンセプトは「部屋で過ごす時間を豊かに」だった。
このコンセプトの実現の1つに挙げられるのが、水回りの充実。
従来型のワンルームは、居室部分をなるべく広くとるといった目的や、投資効率の観点から設備に予算をかけず、水回りをコンパクトにしているケースが多い。ユニットバスで風呂とトイレが一緒だったり、キッチンも狭くコンロも1つだけだったりが一般的だ。
「これまで数多くリノベーションを手掛けてきましたが、お客様の要望で多かったのが、水回りの充実でした。その経験から、1Rにおいても同様のニーズがあるのではないかと考えました」と蟻川さん。
風呂・トイレ別、キッチン周りを充実となると、当然、居室部分のスペースはより狭くならざるを得ない。それでも「ゆったりとお風呂に浸かる」「料理を手作りして楽しむ」部屋にニーズはあるはずだ」と蟻川さん村田さんは踏んだのだ。
もう1つの柱が「緑と共に暮らす」ということ。窓の外に広がる庭園の景色を借景として使うことはもとより、室内にも植物を置きガーデニングを楽しめるような場を設ける。部屋の中に常に植物の緑が目に入る癒しの空間をつくりたいと考えた。
室内でガーデニング、機能的な水回りetc.
ここにしかない工夫で、選ばれる物件に
扉を開けると、明るい光が差し込む部屋が広がる。視線の先、窓の奥には庭園の緑も。玄関ゾーン左側には、靴や小物を置ける可動棚とお手洗いを、右側には洗濯機置き場と収納を配置した。
以前の部屋では、ユニットバスが迫り細い廊下の先にわずかに光が差す暗くなりがちな空間だったが、木に包まれたような柔らかなゾーンに生まれ変わった。
壁や天井には、コストを抑えつつ、多少の汚れも気にならない素材ということで構造用合板を採用。「経年でどれだけ変化するかの実験的な意味もあります」と蟻川さん。
白いポリカーボネート波板を貼った収納の扉は90度開くと、ちょうど廊下を塞ぐ扉ともなる。宅配便を受け取るときなどに、部屋の中が丸見えにならないようにとの配慮だ。そのため扉の裏側を構造用合板とすることで、玄関ゾーンとの統一も図られている。さらに扉の取っ手は、バスタオル掛けとしても使えるという。一石三鳥ともいえる役割を持たせる工夫には驚かされる。
歩を進めた先が、バスルームやキッチン、そしてガーデニングスペースのある水回りゾーン。玄関ゾーンの木の様相とは対照的に白くて清潔感を感じさせる。壁や床には、水に強いポリカやモザイクタイルを採用した。
驚かされるのが、バスルームに設けられた大きな窓だ。すぐ先のガーデニングスペースに置かれた植物や部屋の中、さらには窓奥の緑まで目に入ってくる。狭く閉塞的な空間になりがちな1Rのバスルームが、開放的な空間になった。ゆったりとお風呂に浸かり、疲れを癒すひと時を過ごせることだろう。
右側には、村田さんが考案したオリジナルのキッチン。一見すると配管もむき出しになっており、デスクにシンクと水道をくっつけたかのようにキッチン感が薄い。しかしこれにはいくつもの理由があるのだという。
「実はこのキッチンは、洗面台を兼ねているんです」と村田さん。
1Rのキッチンはコンロとシンクだけのところが多い、またファミリータイプのキッチンは、コンロとシンクの間に、まな板を使ったり皿を置いたりするワークトップがある。しかしこのキッチンは、右にコンロ、中央にシンク、左をワークトップとした。こうすることで、ワークトップ部分がデスクの役割も果たし、化粧をしたりちょっとしたワークスペースとしても使えるという。さらに、上部の収納棚の扉は鏡にもなっている。
お風呂場ではなく、落ち着いた場所でゆっくりと身支度を整えたいという女性のニーズにマッチした設備だ。女性の村田さんだからこそ気づけたことなのだろう。夫婦で営む蟻川建築設計事務所のメリットが存分に発揮された。
さらに先、一段低くなった場所はフローリングと白い塗装の壁の居室スペース。寝室兼リビングといったところだろう。「ここはあえて何もしていません」と蟻川さんが語るように、入居者が自由にモノを配置し、オリジナルな空間をつくるのだ。
もちろん、ガーデニングスペースだって植物専用というわけではない。ガーデニングスペースは、あくまで豊かな部屋時間を過ごすための1つの提案。趣味のものを置き、お風呂からそれを眺められるようにしたって構わないのだ。むしろ「ここはこう使おう!」という想像力を働かせて楽しむ場といってもいいかもしれない。
どこにでもある1Rが蟻川さん、村田さんの手で「ここに住みたい!」と選ばれる物件に生まれ変わった。実はこの部屋、同マンション内の別の1Rの部屋よりも2万円ほど高い家賃であるものの、募集開始すぐに入居者が決まり、転勤による退去後もすぐにまた別な方が入居されているという。
これらリノベーション工事は、エアコンや給湯設備の交換を含め、総額約400万円だったという。この投資額の妥当性は個人の判断に委ねられるが、将来的な家賃収入、空室リスクの軽減、そして中長期的なメンテナンスコストを総合的に考えると、決して過剰な出費とは言えないだろう。適切な投資によって物件の魅力を高め「選ばれる物件」として、入居者に長く快適に住んでもらえることこそ、持続可能な賃貸経営の理想的な姿なのではないだろうか。
蟻川さん、村田さんは、大家さんの強い味方になってくれるに違いない。
撮影者:中村 晃
間取り図
基本データ
| 作品名 | 室内に「ガーデニングスペース」を設けたマンションリノベーション |
|---|---|
| 所在地 | 東京都文京区 |
| 延床面積 | 2㎡ |
| 予算 | ~1000万円台 |
設計者情報
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