
建築家が自分のために設計!
四季を楽しむオーナー邸付き賃貸住宅
オーナーと入居者がそれぞれ快適に暮らす、緑豊かな洗練の住空間
設計にあたってまず考えたのは、自らが住むオーナー邸と賃貸住戸の動線や生活空間をしっかり分けることだった。
完成した建物は中庭を囲むコの字型。敷地は道路より一段高いため、立体的に見ると [1] 道路と同じ高さの地階(※といっても、一般的な”地下”のイメージは皆無。道路より高さのある敷地から見ての“地階”であり、道路からは1階に見える)、[2] 敷地と同じ高さの1階、[3] そして2階の3層に分かれる。
現在、渡辺さん一家が住むオーナー邸は2階にある。賃貸住戸は地階と1階なので2階にいるのは自分たち家族のみ。しかも2階は建物の南半分だけにつくられており、中庭を挟んだ北半分は高度斜線制限の関係で1階まで。つまり、2階のオーナー邸から見ると中庭越しに同じ高さの住戸がなく、建物内の“賃貸スペース”をほとんど感じることがない。
エントランスへの動線も独立感がある。オーナー邸は建物南端に設けた専用階段でアプローチ。一方、賃貸住戸のエントランスは道路から別階段を上がったところに広がる中庭や建物北端の道路に面し、オーナー邸への動線とはまったく異なる。閑静な住宅街ですっきりと洗練された表情を見せる建物には、視線や動線を巧みに操る設計マジックが隠されているのだ。
こうして、住戸の高低差と中庭によってプライバシーを確保した渡辺さんの自邸は、主寝室~LDK~子ども部屋が並ぶシンプルな間取り。白が基調のモダンな空間にはタイルや黒い格子窓などのヨーロッパ風ディテールが用いられ、南欧の邸宅のような心地よい非日常感が漂う。
自邸がヨーロッパテイストなのは、渡辺さんが建築を学び、キャリアを積むために14年間滞在したロンドンやパリでの生活経験が無関係ではないだろう。「1年中、どこかに季節を感じる花や実があるように」と、入居者も目にする中庭や道路沿いに四季折々の草木が植えられているのも、かの地で盛んなガーデニングと結びつけたくなってしまう。さらに、自邸のルーフバルコニーの植栽スペースにはオリーブとレモン。いずれも地中海沿岸の特産品で、南欧のリゾート風景を彷彿とさせる植物だ。
渡辺さんはこの住宅を「W-HOUSE 2」と名づけている。これは建築学会の受賞歴を持つご実家の建物につけられた、「W-HOUSE」という名前に由来する。「W-HOUSE」を設計したのは、渡辺さんのお父さまであり、世に知られる建物を多く手がけた建築家の渡辺 明さん。この「W-HOUSE 2」はお父さまから受け継いだものと渡辺さん自身が積み上げてきたものがひとつになり、“心地よい住空間”として美しく表現されているのである。
自邸は実験の場。賃貸住戸は空間の豊かさを追求
先述の通り、渡辺さんの自邸もその期待を裏切らない洗練されたリゾート風空間だ。しかし、「建築家がつくる自分の家は実験ですよ」と渡辺さん。実験対象は建材や住まいの性能に関わる住宅商品まで多岐に渡るという。
渡辺さんが実験的にとり入れたもののひとつが、家全体の室温を快適に保つ冷暖房システム。これは床下などの温水循環と高気密・高断熱構造を組み合わせた住宅商品で、冬暖かく、夏涼しく、省エネも実現するという。「実際どうなんだろうと思いましたが、冬でも常に室温が24℃、湿度が40%くらい。冬場の平均的な湿度は20~30%ですから、たしかに効果は感じます」と語る表情は、住み手というよりシステムを検する設計者の顔だ。
では、自身がオーナーである賃貸住戸はどうなのだろう。
「メンテナンスとコストは考えます。けれど、賃貸といえども住まいには心地よく暮らせる空間の豊かさが欲しい」
7戸ある賃貸住戸のうちの4戸は、地階と1階を利用したメゾネットタイプ。空間使いや見える景色にメリハリがつき、住む人が自分らしい暮らしを楽しめるスタイルだ。
内装でこだわったのは床である。「重厚感があり耐久性も高いピンカドの無垢材や、ウォルナットの複合材を使いました。自分自身の経験から言っても、扉を開けて入ったときの印象がよければ『住みたい』と思える。床は、空間を目にした瞬間『わぁ…』という好印象を持てるかどうかを大きく左右します」
壁は光の反射率が高く10%明るさが増し、消費電力の削減につながるという高性能クロスを使用。水まわりの仕様やゆとりも、一般的な賃貸住戸のそれよりクオリティが高いものになっている。
この賃貸住宅は不動産業者の一括借り上げとしたため、造りについては不動産業者からのリクエストもあった。だが、たとえ「メンテナンスが大変なのでは?」と懸念されても可能な限り入居者の住み心地を優先した渡辺さん。賃貸住宅としての「W-HOUSE 2」が、竣工後すぐに人気物件となったのは言うまでもない。
基本データ
| 所在地 | 東京都目黒区 |
|---|---|
| 敷地面積 | 351.30㎡ |
| 延床面積 | 495.61㎡ |
| 家族構成 | 夫婦+子ども1人 |
| 施主 | 集合住宅 |
設計者情報
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