
設計を軸に土地活用の企画、運営もアシスト
森を守り、街を元気にする職住一体の賃貸
「株式会社ウミネコアーキ」は、設計を中心に、コンセプト立案から竣工後の運営までをワンストップで担ってくれる注目の設計事務所。新横浜に誕生した小商いOKの賃貸住宅「森庭山荘」を例に、若手クリエイターたちによる土地活用の魅力を紹介する。
建築家の多くは、自身が設計する建築がそんな役割を果たすことを願って日々の仕事に臨んでいる。だが一方で、設計者は引き渡し後の運営にノータッチというのが一般的。このビジネス構造によって設計の意図や思いが十分に伝わらず、せっかく生まれた「場」が本来の力を発揮できずにいるケースも少なくない。
じゃあ、設計だけでなく最初の企画から竣工後の運営までトータルで行えば、完成した建築のポテンシャルを最大限に引き出し、土地オーナー、建物の利用者、ひいては地域のハッピーも生み出せるのではないか──。
新横浜に、そうした思いを胸にオールラウンドな活動をする設計事務所がある。一級建築士・宅地建物取引士の両資格を有する若林拓哉さんが設立した株式会社ウミネコアーキ(以下、ウミネコアーキ)だ。
「あくまでも事業の軸は設計で、住宅、商業施設、オフィスなど、幅広い建築の設計を承っています。けれどご要望があれば各分野のスペシャリストであるパートナーたちとも連携し、設計に伴う土地活用の企画コンセプト立案、不動産業、竣工後の運営・広告宣伝までをワンストップでお手伝いしています」と若林さん。
これからご紹介するのはまさにその一例で、企画・設計・募集・運営の全てを若林さんたちが担当。一連の流れを大きく3つのステップに分け、完成した建築とウミネコアーキの仕事の魅力をお伝えしたい。
【Step1】オーナーの課題に応え、
入居者にもメリット多数の土地活用を立案
きっかけは若林さんの親族でもあるオーナーから、「所有地に収益物件をつくりたい」との相談を受けたこと。
「計画地は南から北に下るなだらかな斜面で、斜面の上には道路が走り、斜面下方、つまり北側にはオーナー所有の森があります。この森の適切な管理はオーナーにとって課題の1つであり、地域の環境保全の文脈からも向き合うべきテーマといえました」
そこで若林さんが考えたのは、「計画地に賃貸住宅をつくり、何らかの形で森を使いたい人に住んでもらえたら、賃料で収益を得ながら森の管理ができるのではないか」というアイデアだ。
個人がプライベートで森を活用するには限界があるが、「職」を絡めれば頻度的にも物量的にも活用推進が期待できる。例えば料理人が窯の薪や山菜を森から調達し、家具職人やアーティストが森から素材を得るというように。
そもそも新横浜は、在来線はもとより日本の大動脈の東海道新幹線も利用できてアクセス至便。フットワーク軽く商売をしたい人には願ってもない地の利がある。しかも職住一体なのだから、店舗単独の家賃は不要。入居者にとってもメリットづくしのこのアイデアはオーナーから評価され、「住戸で小商いができる職住一体の賃貸住宅」のプロジェクトがスタートすることとなった。
【Step2】環境を守って生かした
店舗スペース付きの快適住戸をつくる
中でも、環境面でとりわけ意識したのは基礎工事で、(1)必要以上に土を掘削しない (2)雨水が土に浸透、あるいは斜面下方の森に流れるようにする、という2点を重視。「森庭山荘」は庭をL字で囲む「山棟」「森棟」「庭棟」の3棟で構成されているのだが、斜面の傾斜に沿って建てられた山棟では、地面を平らにするより土の掘削量が少なくて済むひな壇状の基礎を造成。斜面下の森に面した森棟・庭棟は鋼管杭で建物を浮かせる高床式の基礎にして、水の通り道を確保した。
次に住戸のプランだが、こちらは1LDK~2LDKが3棟全体で計18戸。どの住戸も玄関を入ったところが小商い向けの店舗スペースで、そこから奥のインナーバルコニーに向かう通り土間があり、奥に進むにつれて個室などのプライバシー空間に移行する間取りとなっている。
ちなみに住戸は店舗スペースを中心にDIYが可能で、自分らしくアレンジOK。3棟いずれも1階は飲食店の営業ができ、山棟は住戸前の屋外スペースにテラス席の設置も可能。森棟には入居者全員が使える共用スペースがあり、飲食店をはじめとする小商い店舗の延長として使えるほか、入居者同士の交流会やイベントなどを行う際にも利用できる。
入居後の活動に夢が広がるプランだが、住戸のプライベートゾーンは窓やインナーバルコニーを介して周囲の緑を楽しめるようにつくられており、森林リゾートのような暮らしがかなうことも見逃せない。職住一体といえども、住まいとしての豊かさ、快適性にこだわっている点も「森庭山荘」の大きな魅力だ。
【Step3】共感してくれる入居者を募集
大切な資産が地域で親しまれる喜びを
これについてはウミネコアーキのチーム力で専用の募集サイトを制作し、不動産業の一環として仲介業務も行っている。設計者がこうして募集にも関わるメリットは、ポータルサイトよりも物件のコンセプトが正しく伝わり、入居者とのマッチング精度が高まること。実際、コンセプトに共感し、何らかの思いやストーリーを持った入居者が集まりつつあるとのこと。いずれは「森庭山荘」そのものが商店街のように活気づくのではないか……と、今後を想像するだけでどんどん楽しくなってくる。
土地活用は安定した収益が最重要のミッションだ。けれどそれだけではなく、志のある活用がなされ、代々受け継いだ土地が地域の笑顔を生む中心地になれたらオーナーはどんなにかうれしいだろう。建築をつくり、生かすところまでしっかり伴走してくれるウミネコアーキと一緒なら、そんな未来も夢ではない。
基本データ
| 作品名 | 森庭山荘 |
|---|---|
| 所在地 | 神奈川県横浜市 |
| 敷地面積 | 1392.12㎡ |
| 延床面積 | 949.04㎡ |
設計者情報
この実例を見た人はこちらも読んでいます

川のせせらぎも、もはや我が家! 自然と一体の家づくりの極み
自然が好きで、山と海にひとつずつ家がほしいというQ さん。まず手に入れたのは、近くを多摩川が流れる土地でした。人の手が入っておらず木が生え放題の場所を、どうしたら川が楽しめる家にできるのか、Qさんはガーデナー建築家、勝田さんに期待をかけました。

戸建住宅?実は集合住宅! 唯一無二のサーファーズハウス
サーフィンの聖地ともいえる場所に「日本中どこを探してもここにしかない」と言ってもいい集合住宅が建っている。この家を設計したのは、TAWs DESIGN代表の田辺さん。唯一無二のサーファーズハウスの秘密に迫る。

個性的な住戸が集うコーポラティブハウス。全住戸に庭付き一戸建ての豊かさを
奥野公章さん設計の『荻窪ロウハウス』は、集合住宅でありながら自分好みの住まいをつくることができるコーポラティブハウス。驚くことに全住戸が庭付き一戸建て感覚で住めるという。住戸の事例とともに、工夫を凝らした奥野さんの建築の魅力を紹介しよう。

まるで森の中にいるよう。 開放的な空間から庭を楽しむ家
個性的な形をした敷地、木々に囲まれた環境。この土地の魅力を最大限に生かした家を建てたい。そんな施主様の希望を最適解といえるプランニングで叶えた建築家の伊原洋光さん、みどりさん夫妻。ご要望を的確にクリアしつつ唯一無二の空間をつくる手腕は、おふたりの感性と緻密さによるものだった。

学生に大人気の集合住宅。 ひと目で住みたくなる魅力を探る
少子化が進む今、学生街の賃貸住宅で安定経営を図るには差別化が欠かせない。そんな中、ムービング・アーキ一級建築士事務所の李孝哲さんが手がけた「木造2階建てアパート」は、あっという間に満室に。その理由を探ると、さまざまな建築に造詣の深い「李さんならではの住まいづくり」の魅力が見えてきた。

ここまで開放的な平屋だから、自然満喫と落ち着く空間を両立!
窓いっぱいに広がる高尾の自然の景色、家のなかを通りぬける気持ちのよい風。存分に自然を味わえる家は、建築家の望月さんが家族と暮らすならと考えて設計した理想の家でした。

森を取り込む! お隣や森の木々へ別荘地ならではの配慮とは?
木々に囲まれ、最高にリフレッシュできる環境ではありながら、お隣がちょっと気になる別荘地。この場所でどう過ごしたら気持ちいいかを突きつめて考えていくと、新しい別荘のかたちが見えてきました。

子世帯は高原的な家、親世帯は木の家を希望 異なる個性と要望を反映した2世帯住宅
三重県の四日市市に、熟考された2世帯住宅が完成した。最大の特徴は、子世帯と親世帯で異なる要望を、同時に実現した点にある。単に両世帯の要望を反映しただけでなく、外観を周囲に馴染むプランにした点も評価されている。これは地方で長く住まう上で大切な要素だ。多方面から深く考えられた作品をご紹介しよう。

これは老舗旅館!?非日常感と使いやすさも両立の圧倒的高級別荘
軽井沢にあるKさん夫妻の別荘は、民家とは思えない上質な非日常感をまとう。しかし、意外にも素材などのスペックに「贅を尽くした」わけではないという。建築家の谷内田章夫さんは敷地のポテンシャルを最大限に活かし、空間の見せ方で圧倒的な高級感を演出した。