
これは老舗旅館!?
非日常感と使いやすさも両立の圧倒的高級別荘
広さを活かした板塀と、“照明マジック”が生む高級感
建築家の谷内田章夫さんにこの別荘の設計を依頼したKさんは、還暦を過ぎてもなお、仕事で超多忙な日々を送る人物。休日に自宅のある関東からさっと行ける軽井沢の地に、親族やゴルフ仲間とホームパーティーを楽しむ別宅が欲しいというのが今回の依頼の発端だった。
敷地は約560坪。国内屈指の避暑地の中でも人気のエリアにあり、周囲は豪奢な別荘が建ち並ぶ。谷内田さんはそんな環境を見て、これから建てるK邸は別荘としての使用目的を叶えるだけでなく、周囲の瀟洒な景色に溶け込む存在にしようと考えた。
「屋敷」と呼ぶにふさわしい黒く長い板塀で閉ざされた外観は、豪邸が並ぶエリアで十分な存在感を放ち、景色に溶け込む手段として極めて有効な結果を生んだ。
しかし風格漂う門扉をくぐると、実は、板塀の中のほとんどが住空間ではないことに驚く。K邸は母屋とゲストのための離れに分かれており、板塀のこれだけの長さをとっているのは、2つの住空間をつなぐ大きなデッキ・テラスなのである。
「外から見たら、どれほど大きな別荘かと思うでしょう?」。谷内田さんは笑いながら楽しそうに言う。「もちろん、どの空間もゆったりつくってありますが、別荘として使うぶんには板塀から想像するほどの広い家屋は必要ないんです。一方で、敷地は約560坪と非常に広大。必要な住空間を1カ所に集めてしまうと、大きな敷地に家屋がぽつんとある形になり、見栄えがしなくなるんですね」
かといって、デッキ・テラスと板塀の役割は見栄えだけではない。目的のひとつは、前述の2つの住空間をつなぐ渡り廊下としての役割だ。「母屋はLDKと主寝室、離れはゲストの寝室です。Kさんご夫妻のお子さんはすでにご結婚なさっている方がいますから、お子さん一家が泊まりに来たら、寝室はちょっと離れていた方がお互いに気楽ですよね」と谷内田さん。
2つめの役割は、屋外ホームパーティーの舞台。そして3つめは、別荘にぜひとも欲しい非日常感の演出だ。板塀に沿って設けられた長い屋根は、雨天でも渡り廊下として使用するために必要なものだが、夜はライトアップでより幻想的な空間に一変する。
この照明は板塀の上辺に沿って上向き・下向きの2方向に取り付けられ、塀と同じスギ板で目隠ししてある。谷内田さんによると、「アップライトは渡り廊下の屋根の内側、つまり、天井の部分に光を当て、ダウンライトは床を照らします。これを同じ光源で照らす。天井、床、それぞれの面が全体的にほんのりと明るくなり、やわらかな光で空間を満たすことができるのです」とのこと。
谷内田さんはこうした間接照明をよく取り入れており、K邸ではLDKにも“照明マジック”を仕掛けた。「LDKは窓の上辺部分に照明を仕込んでいます。天井はむく材に白いオイルステインを塗ってあるので、光がちょうどよく反射して穏やかな明るさになりますよ」。床はフローリング材、壁は白色塗装と、けっして高価な素材を用いているわけではない。だが、谷内田さんの“照明マジック”がかけられた空間は上質な非日常感が漂い、時間を忘れてゆったりとくつろげる。
夕刻、澄んだ空気の中で明かりがともったK邸は、家屋そのものが美しい照明と化す。ふんわりと夕闇に浮かび上がるリビング・ダイニングは幸せな休日を予感させ、やわらかな光に包まれた渡り廊下は日常を一掃する幽玄の世界のよう。しばし都会を離れて高原の静寂に楽しげな笑い声を響かせるK家の晩餐が、心底うらやましくなるのである。
余暇の満足度を高める非日常感と、使いやすさの両立
希望に合わせ、キッチンは奥さまが使い慣れた同じキッチンに。ちなみにキッチンメーカーも同じである。ここで、谷内田さんはホームパーティーを行う際の使い勝手を考え、アイランドタイプの調理スペースと、そこからひと続きになったダイニングテーブルの設置を提案。「大人数の会食をゆったりと楽しめますし、調理スペースの下は食器棚になっていますから盛り付けや配膳もしやすいと思いますよ」
複数の家族が宿泊することを前提に、寝室は母屋と離れに2つずつ。そのうち、母屋の主寝室には共用とは別の専用トイレを設け、誰もが気兼ねなく過ごせるようにした。また、家事動線にも心を配り、バスルーム、洗面室、洗濯室、キッチンなどの水まわりは1カ所に集めている。
生活に必要なスペースの中で、Kさんご夫妻に特に喜ばれているのはバスルーム。バスタブの横に大きな窓を設え、その先にバスコートをつくったのである。窓を引き込んで全開し、緑豊かな樹木と青空を眺めて湯に浸かれば、気分は露天風呂。バスコートはウッドフェンスで囲んであるので、万が一、林の中に人がまぎれても見られる心配がない。
どんな人々がどんな風に過ごすか細やかにイメージしてつくられたK邸は、通常の住宅と同じように“住んで快適”な要素がしっかり取り入れられている。一方で、食事ひとつ、入浴ひとつとっても、普段の生活にはない贅沢感がある。特筆すべきは、その贅沢感は必ずしもお金をかけて生み出されたものではない、ということ。高原の自然に映える懐の深いデザインと、心身ともにゆとりを得られる設計の力が、ここでのすべての時間を至福のひとときへと昇華する。
基本データ
| 予算 | 5000万円台 |
|---|---|
| 施主 | K邸 |
設計者情報
この建築家が建てた家
この実例を見た人はこちらも読んでいます

広いウッドデッキと室内が一体化 開放感溢れる店舗併用二世帯住宅
福島県に建てられたO邸は、4人家族のOさんが理容室を経営しながらご両親と暮らす店舗併用二世帯住宅です。「住む人の心地よさ」を最優先に考えるという清建築設計室、清利幸さんがつくりあげた、家族みんなが快適に過ごすためのプランとは? その詳細をご紹介します。

まるで十徳ナイフ あえて「狭小住宅」という選択
家族で暮らす「狭小住宅」というと、予算や土地といった制約から「やむを得ない選択だった」ということもあるだろう。そんななか、妥協ではなく「この狭小住宅に住みたい!」と思う家族が絶えない建築家がいる。新潟県で狭小住宅に特化した家づくりを行っている、ネイティブディメンションズ一級建築士事務所の鈴木さんだ。多くの人々から選ばれる狭小住宅とは、どんなものなのだろう。

開放感抜群の、壁が少ない木造住宅。 SE構法が実現した、内部と外部が繋がる家
建築家の井水通明さんが自邸を建てるにあたり購入したのは、住宅街の高台にある土地。なにより眺望が魅力的なこの土地の特性を生かすため、SE構法を用いての家づくりを選択したという。その選択は大正解。家の中にいながら外の空気や自然の息遣いまで感じられる、毎日を楽しみながら心地よく暮らせる家ができた。

友人が集まるバーも、二世帯も。 50代後半夫婦の夢をかなえた理想の住まい
工藤宏仁さんが50代後半のご夫妻のために設計したのは、二世帯住宅としても使える豊かな家。天井が高く明るいLDK、友人と憩う会員制バーやゆとりある書斎、こだわりの和室、贅沢な広さのベランダなど、ご夫妻の趣味やライフスタイルを反映した住まいの魅力をお伝えする。

家族がつながる、集落とつながる 新旧の住宅の良さを再編集した奄美の家
独自の住宅文化をもつ奄美大島。奄美独自の住宅の良さと、現代建築の快適さを兼ね備えた住宅をつくったのは、建築家の小野良輔さん。島外出身者だからこそ気づくことができる、伝統住宅の要素を取り入れた家づくりに迫る。

依頼主の心に散らばる要望を形に! 空室を作らない賃貸併用住宅
東京の下町の空気を残し、今若者にも人気のスポット「谷根千」。谷中、根津、千駄木、木造家屋とお寺が密集する、かつての寺町はいまや観光客で賑わう。そこに漂う昭和の空気を求め、週末になると多くの人が訪れる。そんな、日本の古きよき面影を残した街に、シックな黒壁とそこに木が浮き上がる特徴的なデザインの賃貸併用住宅が1棟ある。街の空気を壊すことなく、でも遠目にも目立つこのデザインには理由があった。

土地の特徴に対する最適解として誕生した 駐車場まで伸びる大屋根が目を引く邸宅
大分県宇佐市に、とても特徴的な邸宅が完成した。目の前には公園や田畑が広がり、背後には1m高い地盤に造成された住宅街が広がっている。いわば自然と住宅地が切り替わる場所に建てられたこの作品は、土地の特徴をとらえ、その最適解を見つけ、お施主様の要望を低コストで実現した力作だ。その詳細をご紹介しよう。

築40年マンションが洗練空間に一新。水まわりも移動して理想の間取りに
結婚を機に築40年のマンションをフルリノベーションした施主さまご夫妻。「難しい」とされることが多い水まわりの移動も行って間取りを変え、内装はシンプルモダンな洗練空間に一新。設計を担当した八田政佳さんに、思い通りの間取り・内装を実現し、長く快適に暮らせるリノベーションの秘訣を聞いた。

まるで森の中にいるよう。 開放的な空間から庭を楽しむ家
個性的な形をした敷地、木々に囲まれた環境。この土地の魅力を最大限に生かした家を建てたい。そんな施主様の希望を最適解といえるプランニングで叶えた建築家の伊原洋光さん、みどりさん夫妻。ご要望を的確にクリアしつつ唯一無二の空間をつくる手腕は、おふたりの感性と緻密さによるものだった。

