
過去の記憶を未来につなぐ
古都・麗江の高原リゾートホテル
美しい雪山と集落の風景を享受し
土地の記憶に触れるリトリート空間
その白沙村に遺されていた古民家を増改築し「青普麗江白沙リトリート」へ生まれ変わらせたのが、東京・北京の二拠点で「一級建築士事務所 堤由匡建築設計工作室」を主宰する堤さん。
「都市部で生活する若者が余暇を楽しむ、ほっと心が安らぐリゾート空間を」というコンセプトのもと、北京のリゾート開発会社が複数の建築家を招聘したプロジェクトに唯一の日本人として参加した建築家だ。
「クライアントや数名の建築家とともに雲南省の候補地を視察し、各地の村落の風土や風習を学んだ上で、どのような建築が可能かを議論しました。白沙村を訪れた際には、世界遺産『玉龍雪山』の風景をいかに享受するか、現地で採れる五花石などの素材をどう活かすのかをレポートにまとめて提出。その提案を評価され、白沙村の担当として設計を任せていただくことになりました」。
五花石の外壁と瓦屋根が美しい4棟の既存のナシ族民家と古い大門を再利用しつつ、周辺部に拡張された敷地を活用してゲストルームを全20室へと増築し、新旧の建物の融合によって誕生した「青普麗江白沙リトリート」。
「玉龍雪山」の景色をさまざまな場所から楽しめる非日常空間に癒されつつ、この地にあった集落や人々の営みの記憶に触れる。そんな特別な滞在体験はどのような方法で生み出されたのだろうか?
規則性と不規則性。そのズレが生む
多彩な居場所から雪山を見晴らす
現地調査の結果、既存部は4つの建物が中庭を囲む中国の伝統的な住宅様式「四合院形式」で配置されていることに気がついたという。
「集落の街並みはてり(反り)のある瓦屋根が交互に並び、心地よいリズムを刻んでいました。我々の設計する建築もそのリズムに同調すべく、既存の4棟を起点に規則的に屋根を配置し『四合院形式』を踏襲することで、周囲の街並みとの調和を図っています」と堤さん。
四合院の配置を意識する一方で、白沙村を象徴する五花石の石積みの建物は、ソリッドな立方体をでっぱらせたりずらしたりとあえて動きをつけながら積み重ねたのが特徴。
「ランダムに配置した石積みのボリュームある建物の上に伝統的な切妻屋根をかぶせることで不規則性と規則性がぶつかり、そのズレから生じる『間』を多様な居場所として機能させる狙いがありました」と説明するように、敷地内には立ち止まりたくなる空間の余白があちこちに生まれている。
「麗江において『玉龍雪山』は信仰の対象であり、現地住民も旅行者も常にどこに雪山が見えるかを気にしています。私も滞在中その眺めに心惹かれ、存在が感じられるだけで安心感を得られるようになっていました。そんな体験からすべてのゲストルームに専用テラスを設けるとともに、パブリックなプラットホーム(展望スペース)を自由に配置することにしたのです」。
ベッドに寝転んで窓から景色を見晴らしたり、外に出て歩き回りながら、お気に入りの展望スポットを見つけたり。
点在する居場所を回遊し、さまざまな様相の「玉龍雪山」の存在を身近に感じる。それこそが堤さんが伝えたかったこの土地の魅力であり、唯一無二の体験価値なのだ。
伝統的な素材をモダンに昇華させた
新旧の時間が重なり合う多層空間
地域性を建築に取り入れる手法として採用したのが、麗江の伝統ある素材を現代的に昇華させたデザイン。
まず一つ目が、現地で採れる鮮やかな色合いの五花石を大胆に利用した外壁。
そして二つ目が、名産品である手漉きのトンパ紙をガラスに挟み込んだ光壁だ。
「現地の文化・風習との連続性を保つことを意識し、麗江でしか手に入らない素材を使用しています。市松模様の透かし積みを一部に取り入れるなど、五花石は積み方・貼り方・表面仕上げを場所によって変化させ、空間の多様性を表現しました」。
白沙村を象徴する石積みの古い記憶に新しい思考を挿入することで生まれたのは、古民家を改修したノスタルジックな宿泊施設という「記号性」にとどまらない、過去と未来、新旧の時間が重なり合う多層的な空間。
そこには、この地に根付き継承されてきた歴史や文化、暮らしを営んできた人々への敬意と尊重を宿す「地域の文脈と連続する建築」を手がける、堤さんの深いまなざしが息づいている。
空間や景色の変化を楽しむための
「回遊性」と「居場所」をデザイン
遠くに「玉龍雪山」を見晴らし、徐々に切り替わる景色を楽しみながら、水路沿いを歩いたり、階段を上ったり下ったり。
建物の内と外、高低差、近景と遠景の対比。
敷地内を移動する際に生まれる空間や景色の変化を楽しむ「回遊性」によって、建築は単なる機能の場ではなく、五感をゆさぶるエモーショナルな場となり、ゲストの記憶に深く刻まれる、この場所ならではの特別な滞在体験が生み出される。
「集落を歩き回るかのような回遊性と、動線上に散りばめられた多様な居場所。今回のプロジェクトで意図したこれらは、私が住宅の設計においても意識している普遍的な要素です。なぜなら、選択肢が多い方が生活は楽しくなるから。たとえば本を読むなら、晴れた日は眺めのいい窓辺やデッキで開放的に、雨の日はおこもり感のある踊り場で雨音を聞きながらひっそりと。そんな風に自由に過ごしてもらえたら嬉しいです」と堤さん。
「毎日ここで過ごすのが楽しく、幸せを感じています」。
ホテルの館長から届いたというメッセージの通り、堤さんが生み出す「地域・風土に根付く建築」は、その場所に存在することに幸せを感じるとともに、周辺の自然や街並み、人、歴史や文化をすべて包括した「土地」そのものへの愛着を深めてくれる。
基本データ
| 作品名 | 青普麗江白沙リトリート |
|---|---|
| 所在地 | 中国雲南省麗江市白沙鎮白沙行政村忠義四社 |
| 延床面積 | 2482.5㎡ |
設計者情報
この実例を見た人はこちらも読んでいます

ホテルのような贅沢さに、毎日感動する。 20年後も、年を取らない家をつくる
建てたい家のイメージはあるのに、実現してくれる施工会社が見つからないという問題に直面する人も多いだろう。T様もその一人だったが、建築家の桑名さんと出会って状況が一変した。 要望の本質を探ることでイメージを的確に形にし、かつ、期待以上の魅力をプラスした桑名さんの家づくりを紹介する。

海を楽しむ和のリゾート。貸別荘の運用を 見据えた設計で居心地も利便性も極上に
海沿いに別荘を建てたいと望まれたお施主さま。設計を依頼したのは、地元の南房総エリアで活躍する建築家の島﨑さんと石井さんだ。土地の特徴に心得があり別荘建築の経験が豊富だからこそ、海を満喫でき過ごしやすい別荘ができた。不在時は貸別荘としても運用。当初からプランに組み込むことで高い利便性が実現した。

抜群の景色を愉しみ、手を入れながら暮らす 日本人の心に馴染む現代の古民家
憧れていた建築家と奇跡的な出会いをした施主のYさんご夫妻。建築家の礒さんは、その期待に応え、土地のもつ抜群の眺望、施主自らが手を入れられる余白と、長く愛される普遍性をもつ、現代の古民家を実現した。

1階に生活を集約、安全に暮らせる家に。 築100年の古民家をリノベーション
古民家に一部増築した家で暮らしていたお施主さまは、2階建てでの暮らしに不安を覚えるように。それまでほぼ使用していなかった古民家をリノベーションし、生活の範囲を広げ1階のみで暮らしたいと考えた。建築家の戸川さんは直面した不安だけでなく将来も見据え、安心して暮らせる家に生まれ変わらせたという。

元に戻すのではない、進化させるのだ 古民家リノベの新機軸
築120年を超える古民家のリノベーションとなると、外観はできるだけそのまま活かし、内装を現代風の間取りや設備で利便性をもたせるというのが定石。そんな古民家リノベに一石を投じるような、大胆なフォルムのリノベを行ったのは、ご夫婦の建築家ユニット可児さんと植さん。 古民家が生まれたときの原点に立ち返り、「本質」はそのままに、現代に生まれ変わらせたリノベーションの新機軸に迫る。

木材の温かみに溢れた3タイプの居室 非日常感が味わえる、五感で楽しむホテル
岡山県西粟倉村、「百年の森林構想」に基づいて完成した、室内も屋外も木々に溢れたホテル「100年の森のホテルSHIORI」。設計を担当した建築家の大類さんは、ひとりでも大人数でもホテルステイが楽しめることはもちろん、非日常感を味わいながらゆったりとくつろげる空間をつくりあげた。

歴史ある建物を残し、庭の景色も楽しむ これからの時を新築戸建と共に
広い敷地に築100年を超す母屋と離れをもち、立派な日本庭園を有しているT邸。宝ともいえるこれらを残しつつ、現代に合った暮らしをしたいという家族の一大プロジェクトを任されたのは、その豊富な経験と手腕で、テレビの出演や多くの受賞経験を持つ匠、並木秀浩さん。「庭の景色を活かす」「旧宅を残す」という難問を解決するため、並木さんがとった方法は、新旧2つの庭を立体的に繋ぐというコンセプトでした。

「開いて閉じる」で光とプライバシーを解決 夫婦の願いを叶えた高性能で明るい平屋の暮らし
底冷えする寒さや、プライバシー保護のために光が差し込まない住環境に悩まされていたMさん夫妻。築40年の自宅を建て替え、理想の平屋暮らしを叶えるためにハウスメーカーや工務店を始めた。しかし、高い住宅性能とデザイン性を両立できる依頼先がなかなか見つからない。そんな中で出会ったのが、建築家、中土居宏紀さんだった。中土居さんは夫妻の抱える難題を、「開いて閉じる」という発想で見事に解決してみせた。

洗練の中に温かなノスタルジー。 和の魅力を再発見する「現代和モダン」な家
和モダンと表現される家は多いが、山上聖司さんが設計したI邸は、よくある和モダンとは一線を画す本物志向の「現代和モダン」。確かな知見で日本建築の魅力をバランスよく取り入れたI邸は、真に上質な空間に住まう幸せを感じさせてくれる住宅だ。
