
角度により異なる表情を持つ別荘。街並みも
室内からの庭の眺めも多彩に、魅力的に。
対角線に視線が誘われる建物配置。
樹林の奥行き感を引き出し、軽井沢らしく
設計を担当した一級建築士事務所 木島千嘉建築設計事務所の木島千嘉さんは「東京など都市部に比べれば敷地は広く、緑豊かな場所ですが、それでも従来の軽井沢のイメージと比べると、樹が間引かれ、土地の起伏が均され、木々の間から道や隣家が透けるようになっていました。樹林の重層感が薄れ、どこか均質化されているのを残念に思いました。」という。
プランニングにおいて、軽井沢らしい景観と環境を堪能することを目指した木島さんがまず検討したのは建物の配置とフォルムだ。
先述の「樹林の重層感」を取り戻すため、配置計画ではまず、既存の樹木を最大限に残しつつ、建物の軸を、敷地の長辺に平行にするのではなく、地面の傾斜に沿いながら対角線方向にとった。角度を振ることで、室内の窓から敷地の角に向かって視線が誘われ、緑の奥行き感が得られることになった。また、L字型の建物によって敷地を緩く3つのエリアに分けた。日差しを楽しむ場、木陰を楽しむ場、雪の積もる様子を楽しむ場など、南・北・西の方位ごとの特徴や、L字に囲まれる側と出隅側の違いなどによって外部空間の性格を変え、限られた広さの中にも様々な場所を見出すことが試みられた。
緑の見せ方にもこだわったという。掃き出し窓や高窓、腰窓など大きさが異なる窓を配することで、居場所や視線の向く方向によって樹木の見え方が変わるようにした。サイズや高さだけでなく方位も様々な窓からは、順光、逆光、季節や時間の移ろいによって異なる木々の表情を楽しめるという。さらに、条例により軒を必ず60cm出さなくてはならないというルールを活用し、日射をコントロールする軒の深さやフォルムもその場に合わせてデザインすることで、室内と庭の距離感もバリエーション豊かに演出された。たとえば南向きの窓からは逆光の中、軽井沢らしい雑木林の木陰を楽しめる一方、リビングの北東側はテラス越しに北側の庭に続く掃き出し窓で、勾配屋根越しに影の落ちない明るい庭木を眺められる。振り返って南西側に設けられたハイサイドライトからは、梢の葉の揺らぎや日射のきらめきが感じられる、といった具合だ。
方角ごとに異なる印象の外観をもつ家は
街並みを繋ぐバッファとして機能する
別荘地では、得てしてオーナーそれぞれの趣味・世界観を表した建物がバラバラなまま隣り合っているのが気になる、と木島さん。「昔は敷地が広大で、建物の周りを囲む庭が緩衝帯としても機能していたけれど、区画が細分化されるにつれ、テイストの異なる建物が木立の合間にひしめき合っているという状況も少なくない。それぞれの建物だけを見れば良いかもしれないが、街並みとしてはちぐはぐだし、雑木林の拡がりや一体感が損なわれるのは惜しい」と語る。
だからこそ、この「森の三面相」は自己完結せず、隣の家のテイストと衝突しない在り方を検討した。そして、そのためには特定の「○○風」と括られないようにすればよいのではと考えたという。しかしそれは、無個性ということではない。北から見ると大きな片流れ屋根が印象的な家、南東側からはビルのようにシンプルなフォルム。一方、西側からは凸凹のある不整形な建物に見える。一体的でありながら、それぞれの面で洗練された、異なる佇まいをつくり上げた。さまざまな顔を持つ建物には、自然と外の世界が紛れ込む。こうして、木立の中で周囲の建物や自然環境を緩やかにつなぐバッファとしても機能するようになった。
実は竣工から数年後、お孫さまが増えたことなどが理由で手狭になり、別荘の一角に増築したとのこと。その機会でも、室内からの眺めが変わらないこと、また外観の魅力を損なわないことを重視した。
増築部分は西側の壁面にぴたりとついている。基礎を深く掘らなくてはならない規制を逆手に取り、基礎部分まで居住空間とすることで建物のボリュームを小さくし、建築コストを下げた。背の低い建物は既存の建物のリビングにあるハイサイドライトの下に収まり、視界は変わらない。また、増築部分は構造的に独立しているが既存の建物から屋根をかけ流し、一体感を出した。
「建物を建てることにより外部と繋がることができる、近隣と価値を共有できる場所をつくり出せたらいいと思っています」と木島さん。異なる個性を持つ建物たちを緩やかに受け止める「森の三面相」ができ、周囲の環境はよりよいものになったに違いない。
2人でも大人数でも過ごしやすい間取り。
広がりある空間で別荘での時間がより豊かに
別荘でもキッチンで過ごす時間が長くなりがちという奥さまのため、玄関からはリビング、キッチン、ダイニングと繋げ、ちょうどL字の角、家の中央にキッチンを置いた。リビングとダイニングのどちらに、または両方に家族がいてもコミュニケーションが取りやすい。
寒冷地であることから外気に触れる面積を抑えたシンプルな外観でありながら、内部のつくりは変化に富んでいる。まず、室内は土地の傾斜を生かし、玄関からLDKに入るところで床レベルを下げて空間の広がりを強調した。それだけではない。リビングには、一段レベルの高い北側のテラスが室内に一部入り込んでいる。逆にダイニングの床が延長するように伸びる南東側のテラスなど、細かな視点の切り替わりをつくったという。
同じく天井も、LDKの中でぐっと抑える部分や2階までの吹き抜けなどさまざまに展開させた。主寝室は動線の一番奥に入れ子状にして配置。天井はダイニングと一体であるため、壁の向こうを感じさせ奥行きも演出している。
また窓と軒との繋がり方もそれぞれに合わせて計画。これら一つひとつの細やかな調整が組み合わさり、室内での空間の広がり、庭の見え方、庭との距離感が多様なものになる。それがまた、別荘らしい時間の豊かさにつながっている。
お施主さまは、一年を通して季節の魅力を味わいながら過ごせるとお喜びだ。また、「独創的な外観もご近所から注目を受け、自慢の建物に仕上がってとても満足です」と嬉しい言葉も寄せてくださった。ご夫妻で、ご家族と一緒に、その時々の過ごし方に応じて居場所を選びながら豊かな時間を過ごされている。
協力事務所:平井直樹建築設計事務所
撮影:上田宏
間取り図
基本データ
| 作品名 | 森の三面相 |
|---|---|
| 所在地 | 長野県北佐久郡 |
| 敷地面積 | 1027.71㎡ |
| 延床面積 | 145.86㎡ |
| 家族構成 | 夫婦 |
| 予算 | 5000万円台 |
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設計者情報
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