
庭の景色をセンスよく取り入れた、
心安らぐ茶室と癒やしのリゾート空間
旗竿地を活かし、
茶室までの露地を豊かに演出
料亭のようなファサードに見とれながら数段の階段をのぼり、板張りの大きな庇が覆う玄関ポーチへ。美しいガラスの玄関から邸内に足を踏み入れると、広々した吹抜けの玄関ホール。視線の先にはほどよいサイズの窓があり、控えめにのぞく庭の緑にホッと心が和んでいく。
歩を進めて玄関ホール内の階段を数段下りると、左手に部屋らしきものの出入口。その先には上品な和室と小さな板の間がある。
ここでハッと玄関先のつくばいを思い出し、これまでの動線全てが頭の中でつながった。「この和室は茶室と水屋、アプローチからの動線は露地なのだ」
施主のTさまは旅行やアウトドアが大好きなご夫妻だが、奥さまは茶道もたしなみ、いずれ自分の教室を主宰したいとお考えだったのだという。そのため新居は、茶道教室に必要なスペースを備えることが望まれていた。
となればやはり、茶室に付随する庭、「露地」が欠かせない。そこで奥野さんはT邸の敷地が旗竿地であることを活かし、道路と住宅の間に伸びる細い通路を、アプローチを兼ねた露地としてデザイン。植栽とつくばいで和の風情を添え、大きな庇や開放的なガラス玄関で来客を迎え入れる雰囲気を演出。玄関ホールは茶室の躙り口にちなみ、あえて大開口を避けたほどよいサイズの窓で庭の景色を取り込んだ。
玄関前で少し階段をのぼり、玄関ホールでまた少し下りる床の高低差も露地演出の1つだと奥野さん。
「茶室の露地には飛び石がありますよね。平坦だと何も気づかずに通り過ぎますが、飛び石に注意して目線を落とせば、足元の草花が目に入る。のぼったり下りたりして視界を変えることで四季の移ろいに気づく、そんな日本的な文化を体感していただきたいと考えました」
こうしてアプローチから茶室に入るまでの動線全てを露地に見立て、同時に、「存在感のあるファサード」という要望も見事にクリア。奥野さんの設計センスを実感する風情あふれるプロローグを生み出した。
2面が庭に向かって大きくひらけた、
広縁のあるリビング
茶の湯の世界と高原リゾート風の空間を、1つの建物でどう共存させるか。また、教室の生徒さんが訪れるときにプライバシーをどう守るか。このお題に対して奥野さんは、玄関ホールを使ってT邸のパブリックとプライベートを分けるプランで応えた。
広々した玄関ホールの左は先述の茶室。右に進むと奥行きのあるLDKが広がる。ここで目を引くのは奥のリビングにある掃き出しのコーナー窓だ。あえて大開口を避けた玄関ホールとは対照的に、庭の緑に向かって2面が大きく開かれたリビングは、まさに高原リゾートの別荘を思わせる。
加えて、リビングと庭のつながりをより強めているのが大きな庇がかかった広縁だ。
「大きな庇と広縁は、日本家屋によくある下屋(げや:母屋から差し出してつくられた小屋根、またはその小屋根の下の空間)ですね。内と外の中間的なスペースなので生活の場の一部になりますし、雨が降っても雨よけしながら外の空気を入れられる。空や緑、心地よい外気が身近な暮らしになると思います」と奥野さん。
コーナー窓の網戸やロールスクリーンを全て引き込めば庭との境界がますます曖昧になり、リビングは緑に包まれた半戸外空間に。リビングそのものが大きな広縁のような開放感に満ち、時間を忘れてゆったりとくつろげる。
空間の造りで「高原リゾート」を表現。
省エネ×快適を生むシミュレーションも万全
T邸の敷地は隣家に囲まれているが、奥野さんは東の隣家のシンプルな白い外壁に着目。光を反射するリフレクション効果を狙い、この白壁がリビングから見る庭の背景になるよう計画した。
「光が映える白壁をバックにすると緑の美しさが増しますし、隣家の壁に囲まれることで中庭のようなプライベート感も生まれます」と奥野さん。
もちろんLDKには板張り天井や暖炉など、高原別荘を彷彿とさせる贅沢なしつらえもある。しかし奥野さんは表面のインテリア的な要素だけに頼らず、大胆な開口や庭を美しく見せる設計テクニックを駆使し、自然に癒やされる「高原の別荘」を具現化しているのだ。
そしてもう1つ、省エネルギーなパッシブデザインの住宅をつくってくれることも、奥野さんの大きな魅力。T邸でも意匠性や空間体験の豊かさだけでなく、熱環境や風の流れも考慮して窓や空間ボリュームをプランニング。断熱対策はもちろん床下冷暖房システム・パッシブ冷暖も入れて暖気や冷気の流れを丁寧にシミュレーションし、一般的なルームエアコン1台で広範囲にわたる快適性を実現している。
季節を問わず居心地がよく、庭の景色を効果的に取り入れた住まいは、Tさまはもとより訪れるゲストにも大好評。しっとりとした和の文化を体感し、東京にいながら高原リゾート気分を満喫する──。そんな暮らしの舞台を手に入れたTさまが、心底うらやましくなる住宅だ。
基本データ
| 作品名 | 成城の家 |
|---|---|
| 所在地 | 東京都世田谷区 |
| 敷地面積 | 236.87㎡ |
| 延床面積 | 130.78㎡ |
| 家族構成 | 夫婦 |
| 予算 | 5000万円台 |
設計者情報
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