
吉祥寺の狭小・旗竿地で実現
「思い出の庭」の面影を残す二世帯住宅
思い出の庭を残す二世帯住宅
難易度の高いプランへの挑戦
鈴木さんのデザインの緻密さや、光の入れ方が気に入って鈴木さんにアプローチしたというMさん。10名以上の建築家や設計事務所に相談を持ち掛けていたが、「一緒にしっかり話し合って家づくりができそう」と感じたことが決め手となり、鈴木さんに依頼することを決めたという。
最初の打ち合わせでMさんから告げられたのは、「以前の庭の景色を残したい」という要望だった。ご両親が住んでいた家の面積は、建て替え後のM邸の半分ほど。家の前には木々が育つ庭があり、鳥や動物が集まる居場所になっていたのだ。
しかし、土地の面積に対して実際に建物を建てられる範囲は限られている。「ご両親と、娘であるMさんご家族、二世帯分の居住スペースを確保しながら庭も残すというのは、簡単なことではありません。さらに、1階をご両親、2階をMさんご家族の空間としながら、ゆるくつながる住まいにしたい。ご両親それぞれの個室とご夫婦の寝室、子ども部屋などを設けたい。という要望や、建蔽率40%、高度斜線などの建築基準法の規制もあり、かなり難しいプロジェクトでした」と、鈴木さんは振り返る。
ご両親とMさんご家族の居住空間を
らせん階段がゆるくつなぐつくり
希望されていた庭は、アプローチ部分と、建物を斜めに置くことで生まれたスペースに設けた。植栽の間を抜けると、その先に玄関が現れる。玄関は二世帯分の靴が並べられるように幅のある土間となっており、横にはシューズインクロークも備える。
限られた空間を最大限に活かすべく、独立した廊下を設けていないのがM邸の特徴の一つ。玄関の右側は食堂に直結し、正面には、空間を広く見せるために開口部を広く取ったキッチンを置いている。
さらに奥に進むと、廊下の一部として洗面台や洗濯脱衣スペース、浴室が並び、その先にご両親のための2つの個室がある。ご両親の暮らしは、かつての家のように、基本的に1階で完結できるつくりだ。
そして、2階は基本的に、Mさんご家族のスペース。デザイン性が高いらせん階段を上がると、天井高が4m弱あるリビングが広がる。さらにその先には、少し天井高を下げたロフト下の落ち着いた小間と、ご主人の趣味であるレコードを収めた音楽室兼子どもの勉強部屋、Mさんご家族の寝室が続く。らせん階段を介して、二世帯がゆるくつながる……。まさにMさんが希望したとおりの間取りが、こうして完成した。
間取りに加えて鈴木さんが工夫したのが「光や風をどう取り込むか」ということだった。都市部の住宅では、周囲を建物に囲まれているため、単純に大きな開口部を設ければ光を取り込めるわけではない。どこから光を入れ、どのように視線を抜き、どうすれば空気が流れるのか。敷地と周囲の環境を読みながら、開口部や階段、各スペースの位置が細かく考えられている。
そのためだろうか。周囲を住宅に囲まれているにもかかわらず、M邸ではどの部屋にも優しい陽光が注ぎ、家族が集まる食堂やリビングからは、外の視線を気にすることなく庭の緑や空を眺めることができる。この家で暮らし始めたご両親とMさんご家族は、以前の家との違いにやや戸惑いつつも、新たな住まいを気に入ってくれているそうだ。
家づくりで大切にしているのは
お施主様との会話のキャッチボール
「お互いに正直に意見を言い合うことでしょうか。建築家から提案したことに対して、お施主様が少し違うと感じることもあります。反対に、お施主様から出された希望に対して、建築家が別の方法を提案することもあります。その会話のキャッチボールを重ねることが大切だと考えています」。
鈴木さんは、お施主様からプランに対して意見をいただいたときは、「なぜそうしたいのか」をヒアリングしたうえで、もう一度プランを考えるという。そうしたやり取りの中から、最初には想定していなかった面白い空間が生まれることもあるそうだ。
今回のM邸も、まさにそうした会話のキャッチボールを経て生まれた住まいだ。限られた敷地、二世帯住宅、庭を残すという条件。制約は多かったが、妥協せずにプランを練り続けた結果、Mさんの希望をかなえた二世帯住宅が完成した。新しい庭は以前の庭とは少し違うかもしれないが、ご両親とMさんご家族が共に暮らすなかで眺める景色は、きっと素晴らしいものだろう。
構造設計 KMC / 蒲池健
造園 彩苑 / 栗田信三
担当 細川祐人
施工 株式会社金野建設 / 金野貴文
撮影 鈴木研一
間取り図
基本データ
| 作品名 | 吉祥寺の家 |
|---|---|
| 所在地 | 東京都武蔵野市 |
| 敷地面積 | 132.42㎡ |
| 延床面積 | (小屋裏含む)113.46㎡ |
| 家族構成 | 両親+娘夫婦+子ども1人 |
| 施主 | M邸 |
設計者情報
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